伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ベアテ・シロタと日本国憲法 父と娘の物語

2014-03-16 19:01:25 | ノンフィクション
 日本国憲法第24条(両性の平等)と第23条(学問の自由)の起案を担当したベアテ・シロタの出自とその後の人生を紹介するブックレット。
 ウクライナ系のユダヤ人で父親が著名なピアニストだったがナチスの迫害を逃れて日本に住みつき東京音楽学校(現在の東京芸術大学音楽学部)の教授を務めそのために幼少時代を日本で過ごして日本語を覚え日本の実情を知っていた女性がアメリカで外国放送諜報局の日本語番組放送を担当し、終戦後弱冠22歳にしてGHQのスタッフとして乗り込んできたという経緯は、アメリカの奥深さというべきでしょうか、人材の薄さとみるべきでしょうか。
 日本国憲法を起案するために東京で焼け残った図書館を回って各国の憲法を探し集めた(32ページ)というエピソードは、ベアテだけでなく他のスタッフも含め、諸外国の憲法(アメリカ憲法や独立宣言さえ)も知らない要するに法律家でない素人に作業させたことをよく示しています。そういうメンバーで9日間で仕上げたというのですから。一方でそれはGHQが何も準備していなかったことを物語っていて、日本側に起案させるつもりだったのにあまりにもひどいもの(明治憲法と同じもの)しか出してこないので急遽アメリカ側で起案することにした経緯の信憑性を示してもいるのですが。
 このブックレットの狙いはベアテが父に連れられて日本で過ごした日々や戦後アメリカで日本とアジアの舞台芸術を紹介する活動を続けたことを紹介して、ベアテの日本への理解とつながりを印象づけることにあるのですが、内容的にも憲法に取り組んだ9日間に目が行きますし、また憲法第24条の評価はベアテ自身よりも24条の内容とそれが日本の女性の地位向上や日本社会の民主化に果たした役割、当時からの日本国民の受け止め方の方を重視して行うべきでしょう。
 このブックレットは、2012年3月に行われたベアテへのインタビュー、2012年10月8日付のベアテの序文が掲載されていることからして、本来的には2012年中には出版されて然るべきものと思われます。2012年12月30日にベアテが亡くなり、2013年3月30日に東京で行われた偲ぶ会でのスピーチも収録されています。それでも発行が2014年1月まで延びるのは理解できません。


ナスリーン・アジミ、ミッシェル・ワッセルマン 訳:小林直子
岩波ブックレット 2014年1月8日発行
コメント
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