伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

検証福島原発事故 官邸の一〇〇時間

2014-07-30 19:59:15 | ノンフィクション
 福島原発事故が起こった2011年3月11日から15日の5日間の官邸でのできごとややりとりを関係者への取材で再現した本。
 政府内で原子力の専門家として原発の安全性を語ってきた原子力安全・保安院や原子力安全委員会の連中が、事故に直面すると事故の予測や対策を示さず黙り込み逃げ回り、専門家の情報がないままに政治家が決断を迫られていった様子がよくわかります。とりわけ寺坂院長を始めとする保安院の頼りなさ・無責任ぶりは目を覆わんばかりで、何を聞いてもわかりませんばかり。「一体どうすればいいか。他の原子炉が、爆発した1号機のような事態にならないためには何をすればいいのか-。菅が求めたその問いに、平岡(保安院次長)、久木田(原子力安全委員会委員長代理)、川俣(東電原子力品質・安全部長)の三人から打つべき『次の一手』の提案は一切出なかった」「菅が日比野に零した。『一体全体、原子力の行政組織はどうなっているんだ。訳がわからんよ。保安院って一体何なんだ』」(156~157ページ)など象徴的です。
 一つ一つの事実に細かく注を付けてニュースソースを示していて、新聞記者の裏取りがかなり周到に行われていることがよくわかります。本人が自分の発言と知られることを拒否している場合にはニュースソースの属性と拒否理由が示されていますが、政治家はほぼ実名で話しているのに、官僚と東電は多くがオフレコ。自分の責任できちんと事実を語れない人たちが多いことが気になります。東電のオフレコ発言者については、「東電側が反論等をしてきた場合、取材源を明示すると共に、取材に応じた経緯や状況、詳細なやりとりを公にする用意がある」と書かれていて、著者の力の入り具合、東電からの圧力が垣間見えます。
 大まかには知っていた流れではありますが、具体的な根拠(ニュースソース)を示して個別のやりとりが詳細に書かれているのを読むと改めて事故対応の緊迫感、事故に至った原発の制御不能・対策のなさ、専門家を名乗る連中と官僚の無責任と無能ぶりを実感します。こういう人たちが、政権が代わるとまた大手を振って出て来て原発再稼働に奔走する今、こういう連中の口車に乗るとどうなるのかと暗澹たる思いです。


木村英昭 岩波書店 2012年8月7日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする