伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

人間であることをやめるな

2022-03-05 00:46:30 | 人文・社会科学系
 元「週刊文春」「文藝春秋」編集長の著者の雑誌等に掲載された文章を単行本化した一種の遺稿集。
 日清・日露戦争での英雄を讃えつつ、それが日本と日本軍の限界までやった上での成果だったのだから、それ以上に勝ち続けられるという幻想を持たずに冷静に分析し、道義的に国の進む道を決めていけばよかったのにというような思考が根底にあるように見えます。
 タイトルの「人間であることをやめるな」は強烈な印象を残しますが、宮崎駿監督の「風立ちぬ」に寄せたわずか11ページの短い原稿のタイトルです。「明日に光明をもてない、『行き止まり』であればあるほど、物事をきちんと考え、真面目に、自分のなすべきことを困りつつウンウンと唸ってやりつづけながら、君たちは人間であることをやめないで生きなさい、と」(147ページ)宮崎駿は「風立ちぬ」で言っているんだということなんですが、福島原発事故の記憶もまだ新しい時期(2013年夏)に、兵器である戦闘機の開発者が、美しい飛行機を作りたかったというのを「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物」(「風立ちぬ」の企画書の表現)と正当化し、結核患者の妻の前でタバコを吸い続けることに違和感も見せない「風立ちぬ」について、それが「人間であることをやめない」姿だと言われても、釈然としませんし、そのタイトルに惹かれて読んだ挙げ句に、最後でそのタイトルの意味がそうだったとわかるとちょっとガッカリします。


半藤一利 講談社 2021年4月26日発行
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