飲み屋の女将が大手生命保険会社に勤務していると経歴を詐称した常連客に騙されて1000万円あまりの投資詐欺被害に遭ったという設定の小説。作者のかつての行きつけの飲み屋の女将が騙されたという実在の事件をモデルにしたものと「あとがき」に書かれています。
「論創ミステリ大賞」を発火点として刊行を開始したと書かれている「論創ノベルズ」の第5号ですが、ミステリーとして読むには展開が淡々とし過ぎ、結末もシンプルに過ぎるように思えます。ミステリーとしてではなく、詐欺被害者の心情の推移を読む作品と位置づけるべきでしょう。
作者がその女将に知り合いの弁護士を紹介し、弁護士から「知識の提供」を受けたと「あとがき」に書かれているのですが、弁護士の目からはいろいろと首をかしげる場面がありました。弁護士に民事裁判(損害賠償請求訴訟)を依頼している主人公が、被告側からの200万円の提示に対し不満ながらも和解をする方向に決断した際「とりあえず、一部を返してもらって、あとは社会復帰してから、少しずつでも返してくれることに期待するほかない」と考え、弁護士にその旨ファックスし、弁護士から承知したと返事があった(132ページ)というのですが、裁判で和解する以上「その余の債権債務なし」の精算条項がない和解など考えられません。弁護士は必ずその説明をしますし、依頼者が誤解しているのに「承知した」と返事をすることはないでしょう。また、主人公が依頼した弁護士から起訴状と被告人の供述調書を受け取った(151ページ)というのですが、判決確定前(それどころか第1回公判期日前)にどうすればそんなものを入手できるのか、判決確定後であれば被害者として謄写できる刑事記録でも供述者の身上経歴は確実に墨塗りされるのに被告人の前科や経歴が詳細に書かれている供述調書(151~155ページ参照)をどうやったら入手できるのか、とても不思議です。
笹倉明 論創ノベルズ 2023年8月30日発行
「論創ミステリ大賞」を発火点として刊行を開始したと書かれている「論創ノベルズ」の第5号ですが、ミステリーとして読むには展開が淡々とし過ぎ、結末もシンプルに過ぎるように思えます。ミステリーとしてではなく、詐欺被害者の心情の推移を読む作品と位置づけるべきでしょう。
作者がその女将に知り合いの弁護士を紹介し、弁護士から「知識の提供」を受けたと「あとがき」に書かれているのですが、弁護士の目からはいろいろと首をかしげる場面がありました。弁護士に民事裁判(損害賠償請求訴訟)を依頼している主人公が、被告側からの200万円の提示に対し不満ながらも和解をする方向に決断した際「とりあえず、一部を返してもらって、あとは社会復帰してから、少しずつでも返してくれることに期待するほかない」と考え、弁護士にその旨ファックスし、弁護士から承知したと返事があった(132ページ)というのですが、裁判で和解する以上「その余の債権債務なし」の精算条項がない和解など考えられません。弁護士は必ずその説明をしますし、依頼者が誤解しているのに「承知した」と返事をすることはないでしょう。また、主人公が依頼した弁護士から起訴状と被告人の供述調書を受け取った(151ページ)というのですが、判決確定前(それどころか第1回公判期日前)にどうすればそんなものを入手できるのか、判決確定後であれば被害者として謄写できる刑事記録でも供述者の身上経歴は確実に墨塗りされるのに被告人の前科や経歴が詳細に書かれている供述調書(151~155ページ参照)をどうやったら入手できるのか、とても不思議です。
笹倉明 論創ノベルズ 2023年8月30日発行
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