伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか 子供や若者の悲劇を減らすための米国式処方箋

2022-05-08 20:35:17 | 人文・社会科学系
 虐待や自殺・他殺願望を知った専門家に通告義務(同時に守秘義務の解除)を課し、行政、医師、教育従事者、警察等がチームを組んで積極的に介入していくアメリカ(カリフォルニア)での取り組みを紹介し、日本でも同様の取り組みを実施するよう勧める本。
 タイトルにある「なぜ」の部分に言及しているのは、自殺対策について本人の意思、自主的な気づきを重視する日本でのカウンセリングが、「日本の文化に仏教思想が根付いていることと、河合隼雄というユング派の著名な学者が存在したからだと考えられます」(105ページ)としている点くらいで、それも「ではないか、とする研究者もいます」(109ページ)、「河合隼雄によるこうした影響で、日本での心理支援は問題解決に向けた変化よりも、丁寧に話を聞いてくれたとクライアントに思わせて、安心感を与えることを重視するカウンセリングのレベルにとどまることになったようです」(110ページ)というところにとどまっています。
 どちらかといえば「なぜ」時代遅れなのかというよりは「どのように」「いかに」時代遅れなのかを指摘する本だと思います。
 日本ではカウンセラーの資格が統一されず、民間資格やさらには資格もなしにカウンセラーを名乗って開業できて怪しげな連中が跋扈している(14~17ページ)、資格を統一して倫理違反に対して厳しく対応すべきだ(209~221ページ)と主張しているところは、同業者には厳しい意見ですが、正論でしょう。
 アメリカで事件が起こったときにそれで法律を変えて対応できる理由を判例法主義だからとしている(157ページ)ことには、疑問を持ちました。著者がその例として取り上げている2004年のイウィングとゴールドステインの事件の判決にしても、事件が起こったのは2001年と書かれています(158~159ページ)。アメリカの裁判は迅速だと誤解している人が多いですが、事件の衝撃で立法するなら事件後3年も経って出た判決を待たずに議会がさっさと立法すればいいのです。判例法主義だから事件ですぐ対応できるというのは実態に合わない意見だと思います。


吉川史絵 開拓社 2022年2月23日発行
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