伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

王国記シリーズって・・・

2008-04-14 00:37:49 | Weblog
 花村萬月の「王国記」シリーズを読み始めました。しかし・・・
 図書館で「王国記」シリーズが並んでいるのを見て、それから最近その最新刊も出たので、特に中身も知らず、まあ読んでみようかなと思ったわけです。当然に「王国記」を最初に読んだわけですが、どうもおかしい。本の始めに登場人物紹介があって、主人公の朧は修道院兼教護院に送り込まれ15歳で一旦外に出るが人を2人殺し再び逃げ戻ってきたなんて書いてある。物語の始まる前にもう人を殺してるの?それは物語にしないの?
 「王国記」ではもう朧の殺人とかは出て来なくて、「王国記Ⅱ 汀にて」を手にすると、その終わりの文藝春秋社の広告に「王国記シリーズ」と書かれていてそこに「王国記」が「第2作」と書かれている。で、芥川賞受賞の「ゲルマニウムの夜」が、シリーズ第1作とわかりました。
 で、「ゲルマニウムの夜」を借りてくると「著者あとがき」で、「すべてを書き終えたときに、私は、この作品群に『王国記』という表題を冠しようと考えています。」と書かれています。「王国記」ですべてを書き終えたのなら、「王国記Ⅱ」以下は何なのだろう・・・
 それに調べてみると、文春文庫では、「ゲルマニウムの夜」が「王国記Ⅰ」とされ、単行本の「王国記」は「ブエナ・ビスタ」と改題されて「王国記Ⅱ」、以下単行本の番号が1つずつ繰り下がっています。でも単行本の方は今年3月25日発行のシリーズ第8作「神の名前」も「王国記Ⅶ」。これも文庫本になるときには「王国記Ⅷ」になるんですね。
 タイトルのつけ方は、出版社の思惑で、実態に合わないことが多々ありますけど、こういうの、読者をなめてません?中身を論評する前にそこでつっかえちゃいました。
 「王国記」「王国記Ⅱ」はもう読みましたけど、「ゲルマニウムの夜」を読んでから書くことにします。


追記:「ゲルマニウムの夜」でも朧の殺人は描かれていないんですね。むしろ後の作品で時々ほのめかされ、言及されるだけ。しかも最新作「王国記Ⅶ 神の名前」では、その殺人は現実にあったのだろうかなんて話になるし・・・
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孤独にさようなら

2008-04-12 00:36:27 | 小説
 津波で両親を失いショックで声が出なくなりうちひしがれて伯母のところに引き取られた13歳の少年イタルが、学校や家庭になじめず家出して迷い込んだ森の中で出会った3人の大人たち(キング、ヨゲンシャ、ブンセキ)と共同生活をしながら立ち直っていくというストーリーの小説。
 前半は、森の中で野菜を作る中で自然の尊さと恐ろしさを実感しつつ、津波のトラウマと向き合っていくのですが、後半、3人の大人たちの正体が明らかにされるあたりから、世界の不思議さ、自然破壊とナショナルトラスト運動、飢餓、企業支援と株取引など、見知らぬ世界を知ることで自分の不幸に凝り固まっていた少年が不幸を相対化して行くというパターンになります。後半は設定がかなり荒唐無稽になるし、株取引をそんなに正義の活動に描かれてもなあと、違和感を感じました。
 エンディング前、少年が感じてきた自然への畏敬と不思議、株取引などの大人の不思議な世界、目の見えなかったキングと気球の動きを重ね合わせ、世界は見えない気流の中にあるのかもしれない、目に見えていることが全てではなかった、むしろ見えないもののほうがこの世界の本流なのかもしれなかった(293頁)と語るあたりがサブテーマとなっていると思いますが、しみじみとします。


辻仁成 マガジンハウス 2007年10月25日発行
「北海道新聞」2006年4月2日~2007年3月25日連載
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ブルーバレンタイン

2008-04-10 20:07:43 | 小説
 5歳の時に両親と兄、祖母を目の前で虐殺され、復讐を誓い訓練を受け冷徹な暗殺者となった20歳のアリサ(コードネーム:バレンタイン)が、他の組織の暗殺者たちと死闘を繰り広げつつ復讐をめざすアクション小説。タイトルからは恋愛小説かと思ったんですが・・・
 プロの暗殺者の繰り広げる死闘の緊迫感とスピーディな展開で、エンタメとしては飽きずに読ませます。ためらいもなく人を殺し続けるバイオレンスものは、私の趣味ではなく、その点の抵抗感でところどころ行き詰まりましたし、組織や施設の設定が現実離れしすぎているのが私には気になりましたが、そのあたりが気にならない人ならかなり楽しめるでしょう。ラストがちょっと期待はずれというか安直な感じがしますけどね。
 アリサを拾って育てた小野寺の言葉「お前の父さんは、優秀なアサシンだった。が、彼はひとつだけ重大なミスを犯した。それは、愛すべき者ができたことだ。」(7頁)が、ストーリーの展開に応じて含むところが変わったり、それなりに布石が効いている感じがします。ただ、それにしては、アリサのパートナーとなる暗殺者ヘリオスが敵の4天王の1人スパイダーと遭遇したときの言葉「しかし、驚いたな、バレンタイン。スパイダーがあんなに若い少年だったとはな。」(131~132頁)はちょっと。スパイダーは球場で見つけているし、ゼウス以外の4天王は写真で見たことがある(いずれも42頁)のじゃなかったの?


新堂冬樹 角川書店 2007年12月31日発行
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なぜハーレーだけが売れるのか

2008-04-09 08:33:07 | 実用書・ビジネス書
 全体として急激に縮小している日本のオートバイ市場で売上を伸ばし続けているハーレージャパンの販売戦略について書いた本。
 他社より価格が高く(2倍以上する)販売店も従業員も小規模という条件の下で、他社との比較でものを考えない、同じことはしないという方針で改革を進めていったことをレポートしています。
 内容的には販売店との絆を強め、顧客とバイクの情報を徹底管理して見込み客情報を詳細に把握して販売店に指導していく、顧客にはものとしてのバイクではなくライフスタイル(夢、ステータス)を売る、多彩なイベントを自前で実施し続けて顧客を維持し続ける(カスタマイズやパーツで稼ぐ)とともに見込み客を増やすというようなことです。本の中ではライフスタイルを売るということの方を前に出していますが、実際には顧客(イベント参加者等の見込み客を含む)とバイクの情報の徹底的なコンピュータ管理とその分析がキーポイントと読みました。
 社長のインタビュー(164~187頁)を読むとかなりのトップダウンで、この人がいなくなったらすぐ躓きそうな感じもしますけど。


水口健次 日経ビジネス人文庫 2008年3月1日発行
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古代インド文明の謎

2008-04-08 21:41:01 | 人文・社会科学系
 南ロシア起源の白人・遊牧民であるアーリヤ人が紀元前1500年頃に北インドに侵入して、インダス文明を滅ぼし、インダス文明を担った黒い肌のドラビダ人が南インドに追いやられたという古代インド史の定説に対して、中央アジア先史考古学の専門家(わが国で専門家と呼べるのは自分だけかも知れないそうです:154~155頁)が反論する本。
 著者の主張は、インド・ヨーロッパ人は北シリアに起源がありそれが1万年前くらいに西アジア型農業(麦、山羊を中心とする農業)とともに拡散し、インダス文明はその人々に担われ、その人々がガンジス川流域に移っていったために衰退した、インダス文明の滅亡・民族交代はなかったというもの。著者自身、インド・アーリヤ人征服説に基づかないあるいはこれに反対する仮説は異端とされ無視されてきたと嘆き(159頁)、専門家が自分の専門を賭けて発言しているのだから無視はしない方がよい(155頁)とか述べているように、やや悲壮な決意で少数説を論じているもので、学問的興味はありますが、一般人が手を出すべきものではありませんでした。「この仮説に触れた人が、専門家であれ非専門家であれ、論理として受け入れる余地があるのかどうかを検証すべきである」(154頁)って言われても、判断できないし。
 高校時代から古代インド史に興味を感じている私としては、そこよりも、インダス文明は強力な中央集権国家ではなく長老会のような市民団が権力を握る一種の民主制国家だったのではないかという指摘(57~58頁、60頁、67~69頁)の方に注目したいと思います。ギリシャのポリスより昔にアジアに存在した民主制国家って、本当ならすごく興味深いですよね。


堀晄 吉川弘文館 2008年3月1日発行
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主題歌

2008-04-03 09:47:05 | 小説
 表題作と短編2編のセット。
 表題作は30手前の女性の主人公の職場等での女性たちを中心とした交遊の日常を描いた小説。
 その多くが、男性と交際していてレズビアンではないのですが、「かわいい女の子好き」で、若い女の子の太ももがいいとか、月間PLAYBOYの「永遠のセクシー女優名鑑」とか「最もセクシーな世界の美女100人」とかに見入っていたりします。女性同士で集まって話すのが好きは、わかるんですが、それでする話が若い女の子の品定めだったり、そういう視点を持っての交遊って、う~んと考えてしまいます。そのあたりの変わった感覚を日常の中に取り込んで見せたところがポイントでしょうか。


柴崎友香 講談社 2008年3月3日発行
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原発・正力・CIA

2008-04-02 10:06:13 | ノンフィクション
 アメリカの公文書館のCIA文書の中の正力松太郎ファイルを元に読売新聞社主の正力松太郎が政界に転じ「原子力の父」となっていった経緯をCIAとの関係でレポートした本。
 アジアの反共の砦として日本を陣営に留め置き米軍の補完の範囲で再軍備をさせたいアメリカが、第五福竜丸事件で沸き起こった反核・反米の世論、原水禁運動を鎮静化させるために「原子力平和利用」キャンペーンを最も上位下達体制で扱いやすかったメディアを用いて広めたかったというCIAの利害と、日本テレビの商売のためにアメリカの協力を得てマイクロ波通信網を構築したかった正力側の利害の下で、CIAと正力が協力・利用・対立する駆け引きの様子が描かれています。
 原発は、正力にとっては、一民間企業が当時は民間に許可されることはかなり困難だった通信インフラを手にするためにアメリカの協力を得、さらには自分が総理大臣になって法改正をするしかないという判断から、金はあるが政界での実績がない正力が総理大臣の座を射止めるためのカードだった(それに過ぎなかった)ことが主要な論点になっています。
 CIA文書を中心に見ているので、CIAがいかに正力の政治的野望に利用されずに、できるだけ金を使わずに、自分たちは正力の力を利用するかに腐心している様子や、当初元敵国の日本には平和のための原子力のキャンペーンはするが原子炉は与えるつもりがなかったアメリカが、イギリスやソ連の売り込みに焦り原子炉を供与せざるを得なくなっていった様子が生々しく描かれ、興味を引かれます。


有馬哲夫 新潮新書 2008年2月20日発行
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ホームレス中学生

2008-04-01 07:51:03 | ノンフィクション
 恵まれた少年時代を過ごした著者が、母親の病死、父親の闘病と失業から差押えを受けて中学生時代に家を追い出され、しばらくは家族と別れて公園でホームレス生活をし、友人の親や近所の人の厚意と兄姉の働きで生活保護を受けながら生活を立て直し高校を卒業してお笑い芸人になるまでを描いた自伝。
 突然の差押えと父親の家族解散宣言でいきなりホームレスになる冒頭は、作品として鮮やかな書き出しです。現実には明け渡しの強制執行は初回は挨拶だけですから現実に執行されるときは事前にいつ本当に執行されるか少なくとも父親にはわかっていたはずですが(仕事柄野暮な指摘をしますが)。
 今は成功した立場で書いているせいかも知れませんが、周りで助けてくれた人たちはもちろん、母親やさらには父親にも感謝の気持ちで描かれていて、ちょっと優等生過ぎる感じもしますが、読んでいて爽やかです。飢えに苦しみながらも母親のことを思い起こして万引きや恐喝を思いとどまった話(25頁、153頁)もホッとします。
 生活保護を受け兄が一生懸命働く中で高校に進学させてくれたのにろくに学校に行かなかった頃の話(121~123頁)や、1日の生活費2000円をもらってそれを貯めもせずに学食で使い切ってぜいたくをしていた話(136頁)は、人の親の立場ではカチンと来ますけどね。
 タイトルのホームレス時代は1月くらいで本の前から4分の1くらいですけど、インパクトのある体験ですからそれをタイトルにされても私は許せる感じがしました。


田村裕 ワニブックス 2007年9月20日発行
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