伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

グッバイ・ヒーロー

2011-10-09 09:17:09 | 小説
 アマチュアバンド「チキン・ランナウェイ」を率いながら、ピザハウスの配達のバイトを続ける伊庭亮太が、ピザハウスの「今月の顔」としてホームページに掲載されていたことから立てこもり事件の犯人から指名を受けてピザの配達に行くこととなり、立てこもり事件の人質になっていたおっさんの身の上を知って放置できずに深入りし、その後も事件の関係者が次々と引き起こす新たな事件に巻き込まれていくなかで、おっさんとの絆を深めていく友情サスペンス小説。
 亮太の困っている人を見ると放置できない性格、おっさんの食わせ者ながら律儀で義理堅い性格が、あり得ないでしょって展開の中でもどこかほのぼのさせるところがあり、そこで読ませている感じがします。
 全体の4分の3を占める立てこもり事件からの一連の事件が続く第1部の後、数年後に時を移した第2部があり、第1部で積み残した思いの部分が回収され、ホッとするとともに、切ないエンディングにほろりとします。


横関大 講談社 2011年5月17日発行
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スパイクス

2011-10-08 23:34:47 | 小説
 中長距離選手の挫折をきっかけに児童虐待と家族関係に悩む高校生の人間関係ドラマを描いた4年前の作品「ランナー」の続編。
 「ランナー」は、タイトルから普通の読者が持つ期待を裏切って、陸上競技の試合は最初の挫折した競技会だけでそれ以後一度として出てきませんでしたが、この続編は打って変わって、最後の6ページを除いて最初からずっと主人公加納碧李(あおい)の再出発の記録会の一日です。
 もっとも、最初の数十ページは登場人物の会話の形で前作のおさらいが続けられ、その後も今回降ってわいたように碧李の強力なライバルとして、全国トップレベルの選手三堂貢が周囲に知られることなく大きな大会でもない記録会に参加するに至った経緯に紙幅を費やし、試合についての描写でも試合の経緯よりも心理描写の方に重きを置いていますし、この作者にしては珍しく試合の経緯についてもフォローし続けてはいますが、クライマックス部分を例によってすっと飛ばしてゴールラインの先に流れています。
 前作と異なり、スポーツ(陸上競技)そのものをテーマとした作品になっていますが、前作で展開した人間関係のごちゃごちゃした部分の遺産で持たせているきらいもあり、やはり一筋縄ではいかない人間関係の悩みと心情を読ませる作品だなという感じです。
 はっきりとまだ続編が出るぞという書きぶりですが、いつになるでしょうか。


あさのあつこ 幻冬舎 2011年4月10日発行

前作「ランナー」は2007年10月20日の記事で紹介しています
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テティスの逆鱗

2011-10-08 17:29:23 | 小説
 美貌を武器に3度の離婚を乗り越えて女優として女性ファンの憧れを集め続けるが更年期になり衰えを隠しきれなくなった47歳の西嶋條子、出産後夫とセックスレスになりいうことを聞かない4歳児にイライラし同僚の営業マンから告白されて舞い上がる36歳の編集者吉岡多岐江、金持ち男を捕まえることを目標にしつつかつて高校時代に振られた憧れの男への復讐を企てる21歳のキャバクラ嬢沢下莉子、女好きの不動産業経営者の父に見捨てられて母が孤独に死んだことから父親が逆らえないのをいいことに湯水のように金を使い無茶な整形手術を続ける28歳の畑中涼香、そして手術の腕がよく営業的にも成功している美容整形外科医の多田村晶世の5人の美容整形に頼った女たちの心情と行く末を描いた小説。
 簡単に美しさが手に入り美容整形が癖になった女たちの安易さと執念、愚かしさがテーマになっています。若さと外見の美しさへのこだわりは、それを求める男たちの問題でもあるはずですが、この作品ではそちらへの言及はほとんどありません。
 整形手術を求め続ける4人とは別に、卓越した技術で顧客の要求を次々と満たし、それで顧客が幸せを勝ち得ることに満足感を持っていた多田村晶世が、手術のレベルを保つために多額の経費を要することから意外に儲からず、顧客の安易で無茶な要求を受け続けるうちに自らの仕事への疑問を募らせていく姿に、考えさせられました。分野は違ってもサービス業のプロの宿命なのかも。


唯川恵 文藝春秋 2010年11月15日発行
コメント (1)
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肖像権[改訂新版]

2011-10-02 20:56:22 | 実用書・ビジネス書
 肖像権(人が意に反して容貌等を無断で撮影などをされたりその写真等を公表されたりしない権利)についての沿革や法的性質を論じ、裁判例を紹介した本。
 著者の意見は、狭義の肖像権は人格権に含まれるがプライバシー権とは独立した別の権利であり、パブリシティ権(氏名や肖像の持つ顧客吸引力を独占的に利用する権利:特に有名人について現実に問題となる)は人格権に由来するが人格権とは別の権利と解すべきである、出版物での肖像等の利用はパブリシティ権の対象外とすべきであるという点で、日本の現在の判例の流れと異なっています。
 過去に書いたものが古くなって改訂する際にありがちとはいえますが、継ぎ接ぎの結果か、読みにくくなり、論旨もわかりにくくなっているように思えます。序章は表題は「肖像保護は写真機の発明に始まる」となっていますが、それに対応する中身はほとんどなく本の構成の説明が中心となっています。他方、なぜか改訂新版あとがきに序章のタイトルにふさわしそうな沿革が説明されていたりします。第5章の「最近の判例の動き」は改訂新版で追加したそうですが、第3章の「パブリシティ権とはどんな権利か」と第4章の「物にパブリシティ権があるか」ですでに紹介済みの判例がほとんどで、ただの繰り返しにしか見えません。著者の主張の出版物での肖像等の利用はパブリシティ権の対象外とすべきとの点も第3章(214ページ)ではそう書いているのに、第5章では「私は、言論、出版、報道の自由の見地から、一律に、パブリシティ権の対象外とした方がいいと一時考えたが」(247ページ)なんて書いていたりして、結局どうなのよと思います。
 肖像権についての裁判例がたくさん紹介されていることやアメリカやドイツも含めた沿革の話は参考になりますが、裁判例は「並べられている」という感じが強く繰り返しが多く、現時点で裁判例の流れなり傾向を説明するものとしては、まとまっていなくて読みにくいと思います。パブリシティ権についての裁判例はたくさん紹介されているのに、著者の関心はパブリシティ権が人格権に属するのか独立の権利かのほぼ1点のみで、その観点からのみ解説されていて、どういう場合にパブリシティ権侵害となりどういう事情があれば正当化されるのかといった観点からの分析がほとんどないのは、せっかく裁判例を紹介するのに残念だと思ってしまいます。
 本体の狭義の肖像権の関係でも、撮影等の同意の問題を最初の方で論じているのに、TBSの「みのもんたの朝ズバッ!」で生中継中にゴミ収集車運転手に声をかけて容貌を全国中継したことが肖像権侵害で争われた東京地裁2009年4月14日判決(判例時報2047号136ページ)を紹介していないのは大変残念です。カメラを向けられたことと黙示の同意について興味深い議論ができる事案のはずですが。
 また裁判例の当事者名の出し方に、統一性とか配慮が感じられないのも、プライバシーを論じる学者、元文部官僚にしては疑問に思いました。個人でも多くの裁判当事者が実名で紹介されているのも今どきの感覚では疑問ですし、私が代理人の事件ですが東京高裁1995年10月17日判決と東京地裁1995年4月14日判決を「妻は×××社員」事件(この本の中では×××部分は会社名がわかる略称)なる名称で紹介しています。この事件の判決では、被疑者の妻の勤務先名を週刊新潮が書いたことがプライバシー侵害として損害賠償を命じられているわけで、その記載することが違法な情報をあえて書くセンスには法律関係者として強い疑問を持ちます(あえて略称を書かなくても本当に「×××」で十分書けるわけですし)。そして、個人の名前は平気で実名で書くのに、なぜか思想調査事件の関西電力は「電力会社」、会長の車椅子写真の掲載が違法とされた事件の武富士は「大手消費者金融」とぼかされています。このあたりのバランス感覚も疑問です。


大家重夫 太田出版 2011年8月10日発行(新版は2007年)
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ボヘミアの不思議キャビネット

2011-10-02 00:21:46 | 物語・ファンタジー・SF
 ブリキで作った動物に命を与えるなど金属を自由に操る力を持つ父親ミカル・クロノスがボヘミアの統治者ロドルフォ王子の命令で天候を操る不思議な時計を制作中にほぼ完成したところで同じ物を作れないように目玉をくりぬかれて送り返されてきたことに憤激した12歳の娘ペトラ・クロノスが、プラハの王子の宮廷に召使いとして入り込み王子から父親の目玉を取り返そうとするファンタジー。
 ペトラの機転、意志の強さ、度胸(無鉄砲というべきでしょうけど)がすがすがしく、またペトラに協力するロマ(ジプシー)たちの思いなどもしみじみとして気持ちよく読めました。ペトラのペットのブリキの蜘蛛アストロフィル、見えない指を持つロマの少年ニールといったサブキャラの設定も、ありがちとも言えますが、まぁいい感じです。
 この物語の設定では魔法の力があるかどうかは成人年齢の14歳になるまでわからないということになっています(49ページ)。この本の終わりで13歳になったペトラがどうなるかは続編をお楽しみということになっています。
 ペトラが宮廷の厨房で最初に取り組まされるタマネギと肉で作るナポリ地方独特のジェノベーゼ(168ページ)。訳者も作ってみたいと言っています(350ページ)ので、触発されて、このあいだ、イタメシ屋で見つけていただきましたが、なかなか味わい深い料理でした。拷問かとも思えたペトラには気の毒ですが。


原題:The Cabinet of Wonders
マリー・ルツコスキ 訳:圷香織
東京創元社(創元推理文庫) 2010年11月12日発行 (原書は2008年) 
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