伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

スパイクス

2011-10-08 23:34:47 | 小説
 中長距離選手の挫折をきっかけに児童虐待と家族関係に悩む高校生の人間関係ドラマを描いた4年前の作品「ランナー」の続編。
 「ランナー」は、タイトルから普通の読者が持つ期待を裏切って、陸上競技の試合は最初の挫折した競技会だけでそれ以後一度として出てきませんでしたが、この続編は打って変わって、最後の6ページを除いて最初からずっと主人公加納碧李(あおい)の再出発の記録会の一日です。
 もっとも、最初の数十ページは登場人物の会話の形で前作のおさらいが続けられ、その後も今回降ってわいたように碧李の強力なライバルとして、全国トップレベルの選手三堂貢が周囲に知られることなく大きな大会でもない記録会に参加するに至った経緯に紙幅を費やし、試合についての描写でも試合の経緯よりも心理描写の方に重きを置いていますし、この作者にしては珍しく試合の経緯についてもフォローし続けてはいますが、クライマックス部分を例によってすっと飛ばしてゴールラインの先に流れています。
 前作と異なり、スポーツ(陸上競技)そのものをテーマとした作品になっていますが、前作で展開した人間関係のごちゃごちゃした部分の遺産で持たせているきらいもあり、やはり一筋縄ではいかない人間関係の悩みと心情を読ませる作品だなという感じです。
 はっきりとまだ続編が出るぞという書きぶりですが、いつになるでしょうか。


あさのあつこ 幻冬舎 2011年4月10日発行

前作「ランナー」は2007年10月20日の記事で紹介しています
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

テティスの逆鱗

2011-10-08 17:29:23 | 小説
 美貌を武器に3度の離婚を乗り越えて女優として女性ファンの憧れを集め続けるが更年期になり衰えを隠しきれなくなった47歳の西嶋條子、出産後夫とセックスレスになりいうことを聞かない4歳児にイライラし同僚の営業マンから告白されて舞い上がる36歳の編集者吉岡多岐江、金持ち男を捕まえることを目標にしつつかつて高校時代に振られた憧れの男への復讐を企てる21歳のキャバクラ嬢沢下莉子、女好きの不動産業経営者の父に見捨てられて母が孤独に死んだことから父親が逆らえないのをいいことに湯水のように金を使い無茶な整形手術を続ける28歳の畑中涼香、そして手術の腕がよく営業的にも成功している美容整形外科医の多田村晶世の5人の美容整形に頼った女たちの心情と行く末を描いた小説。
 簡単に美しさが手に入り美容整形が癖になった女たちの安易さと執念、愚かしさがテーマになっています。若さと外見の美しさへのこだわりは、それを求める男たちの問題でもあるはずですが、この作品ではそちらへの言及はほとんどありません。
 整形手術を求め続ける4人とは別に、卓越した技術で顧客の要求を次々と満たし、それで顧客が幸せを勝ち得ることに満足感を持っていた多田村晶世が、手術のレベルを保つために多額の経費を要することから意外に儲からず、顧客の安易で無茶な要求を受け続けるうちに自らの仕事への疑問を募らせていく姿に、考えさせられました。分野は違ってもサービス業のプロの宿命なのかも。


唯川恵 文藝春秋 2010年11月15日発行
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする