仕事から帰っても愚痴一ついわない優しい夫に10年前近所の人妻が夫が痴漢をしたと主張するのを聞いて疲れた思いがして「別れて下さい」といったらあっさり「分かった」といわれて離婚したことを後悔してきた大学の図書館勤めの58歳の明子が、元夫が台風で増水した川からヘリコプターで救出されたのをテレビで見たことをきっかけに、独り立ちした息子は父親と会っていたことや元夫の女性関係や経歴について知り、考えを改めていく全共闘周辺ノンポリ目覚め小説。
結婚生活では、夫が本当はコーヒー党なのに気付かず朝食にはいつもライ麦パンとダージリン、息子が本当はキュウリのぬか漬けが好きなのに一度も家では食べさせたことがないことに象徴されるように、家族のことをよく知ろうともせずに知っていると誤解していて、気に入らないことがあるといつも相手のせいにしてきた明子が、周囲の人たちの人生を聞かされるうちにこだわりから解放されつつ、元全共闘のアジテーターに革命は敗北した、ゲームだったなんていうのは許せない、愛人に産ませた子どもに自分が父と名乗らないのはおかしい、古い、全共闘運動はそういうところを破壊しようとしてたはず、自己批判も自己解体もなくあなたは生きてきたんだなどと言いつのります。ある意味で、成長小説なんだと思うのですが、何らかの実践があるわけでもなく、周囲の人間の過去の話を聞くだけで何か目覚めたように話す明子や他の登場人物も含めた人々の発言は、どこか地に足が付いていない感じがします。
そして、元全共闘運動家に対するこういう評価は、運動家の側が自己批判としていうなり、運動に身を投じてその後もバブリーでない生き方をしてきた者が批判するのはよく分かるのですが、当時運動に参加しなかった人が、それもその後も身の処し方についてそれほど考えてこなかった人が当時の運動の幹部・煽動者に対して言いたがることには、疑問を感じます。
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太田治子 筑摩書房 2011年2月10日発行
結婚生活では、夫が本当はコーヒー党なのに気付かず朝食にはいつもライ麦パンとダージリン、息子が本当はキュウリのぬか漬けが好きなのに一度も家では食べさせたことがないことに象徴されるように、家族のことをよく知ろうともせずに知っていると誤解していて、気に入らないことがあるといつも相手のせいにしてきた明子が、周囲の人たちの人生を聞かされるうちにこだわりから解放されつつ、元全共闘のアジテーターに革命は敗北した、ゲームだったなんていうのは許せない、愛人に産ませた子どもに自分が父と名乗らないのはおかしい、古い、全共闘運動はそういうところを破壊しようとしてたはず、自己批判も自己解体もなくあなたは生きてきたんだなどと言いつのります。ある意味で、成長小説なんだと思うのですが、何らかの実践があるわけでもなく、周囲の人間の過去の話を聞くだけで何か目覚めたように話す明子や他の登場人物も含めた人々の発言は、どこか地に足が付いていない感じがします。
そして、元全共闘運動家に対するこういう評価は、運動家の側が自己批判としていうなり、運動に身を投じてその後もバブリーでない生き方をしてきた者が批判するのはよく分かるのですが、当時運動に参加しなかった人が、それもその後も身の処し方についてそれほど考えてこなかった人が当時の運動の幹部・煽動者に対して言いたがることには、疑問を感じます。
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太田治子 筑摩書房 2011年2月10日発行