現在政府の「働き方改革会議」等で同一労働同一賃金の考え方(実質は同一労働同一賃金というよりは均衡待遇だと思いますが)による非正規労働者の賃金の一部是正の旗振り役となっている著者による労働法の教科書。
労働事件を扱う弁護士の立場からは、全般的な復習と気が付かなかった新しい裁判例の勉強、弁護士とは違う学者の視点で問題を新たに捉えなおす機会となります。
学者の立場からは、弁護士の感覚よりは、採用時点を含めた差別や人格権侵害、非正規雇用の待遇改善(差別の防止と均衡待遇)に力が注がれているのを感じます。
他方、著者の現在の立場を反映してか、差別問題と長時間労働の是正問題以外の労働条件の場面では、規制緩和の流れに乗り、派遣法改正を含め新規立法に対する批判的言及は基本的になく現在の政策の推進をおおむね肯定的に評価し、労使協議の尊重を進める傾向が読み取れます。労働組合の存在意義について「使用者の利益にもなりうる」ことを説く(350ページ、357ページ)著者の姿勢は、使用者に対して労働組合を目の敵にしないよう啓蒙する方便なのかもしれませんが、戦闘的な組合の闘争には冷淡に見える記述(例えば395ページ)もあり、現状で労働条件について法規制を緩和して労使協議に委ねれば使用者側の意向が通る(やりたい放題となる)ことが予測されるのにそれを推し進めることは、現実には労働者の保護を大きく後退させようとするものと評価せざるを得ません。
有期雇用派遣(登録型派遣)について雇用継続の合理的期待を認め雇止め法理を適用すべきこと(348ページ)、雇い入れ拒否も不当労働行為となりうること(404~405ページ)を主張して判例の立場を批判する姿は、労働者側としては頼もしく見えるのですが。
水町勇一郎 有斐閣 2016年3月30日発行(初版は2007年9月)
労働事件を扱う弁護士の立場からは、全般的な復習と気が付かなかった新しい裁判例の勉強、弁護士とは違う学者の視点で問題を新たに捉えなおす機会となります。
学者の立場からは、弁護士の感覚よりは、採用時点を含めた差別や人格権侵害、非正規雇用の待遇改善(差別の防止と均衡待遇)に力が注がれているのを感じます。
他方、著者の現在の立場を反映してか、差別問題と長時間労働の是正問題以外の労働条件の場面では、規制緩和の流れに乗り、派遣法改正を含め新規立法に対する批判的言及は基本的になく現在の政策の推進をおおむね肯定的に評価し、労使協議の尊重を進める傾向が読み取れます。労働組合の存在意義について「使用者の利益にもなりうる」ことを説く(350ページ、357ページ)著者の姿勢は、使用者に対して労働組合を目の敵にしないよう啓蒙する方便なのかもしれませんが、戦闘的な組合の闘争には冷淡に見える記述(例えば395ページ)もあり、現状で労働条件について法規制を緩和して労使協議に委ねれば使用者側の意向が通る(やりたい放題となる)ことが予測されるのにそれを推し進めることは、現実には労働者の保護を大きく後退させようとするものと評価せざるを得ません。
有期雇用派遣(登録型派遣)について雇用継続の合理的期待を認め雇止め法理を適用すべきこと(348ページ)、雇い入れ拒否も不当労働行為となりうること(404~405ページ)を主張して判例の立場を批判する姿は、労働者側としては頼もしく見えるのですが。
水町勇一郎 有斐閣 2016年3月30日発行(初版は2007年9月)