伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

古建築を受け継ぐ メンテナンスからみる日本建築史

2024-10-14 21:30:53 | 人文・社会科学系
 文化財や寺社建築、宮廷・内裏、さらには民間建築も含め、木造建築物の修理、改築、移築などの歴史を解説した本。
 私としては、木造建築物の修理・保存の技術・技法の発展と現状みたいなものを期待して読んだのですが、建築における修理・メンテナンス・長寿命化をめぐる思想の変遷・発展史を語る本でした。
 Ⅱ部とⅢ部の関係が、Ⅱ部は建築メンテナンスに関わる考え・思想の歴史的な検討、Ⅲ部はメンテナンスのテーマ別の検討ということなのだとは思いますが、どちらも受け継いだ事例、受け継がない事例を挙げて似たようなことを論じているように見えました。多数の事例を紹介していることは勉強になりますが、読み物としてはもっとメリハリをつけて欲しいなと思いました。
 また建築関係の専門用語が多く、巻末に用語集と解説図があるのはありがたいのですが、それに出ていない用語が多く部外者は挫折しやすいと思います。
 著者の主張は、古い木造建築を維持するに当たっては建築時を復元することを至上とするのではなく、事情に応じて寛容な対応がなされるべきであり、現にこれまでの修理等はそのようになされてきたというところにあります。今流行のSDGsのうさん臭さを指摘し「ある種のファシズムとさえいえる」(307ページ)とまでいう頑固さは、筆の走りなのか著者の本質なのか…


海野聡 岩波書店 2024年7月26日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多頭獣の話

2024-10-13 23:05:29 | 小説
 企業向けのソフトやシステムの導入・保守を業とする会社でシステムエンジニアを束ねる管理職の家久来(かくらい)が、かつて自分の部下だったシステムエンジニアである日退職してYouTuberロボットを名乗るYouTuberとなり、登録者数2500万人、コラボするグループ全体では登録者数4000万人という世界でも有数のインフルエンサーとなったが5年前にグループごと一斉に活動を停止し姿を消した桜井(さくらい)を思い起こしていたところ、桜井から家久来宛に動画が送られてきて、さらにはYouTuberロボットのグループメンバーや桜井自身が家久来の周囲に現れ…という展開の小説。
 難しい言葉はほとんど使われず硬い文章でもないのですが、観念的に思える禅問答的な語りと感じられる叙述が多い印象です。
 そういった語りの動画が多数の人に支持され人気を集めるという設定は、ジュンブンガク系作家(あるいは哲学者?)の夢でしょうか。
 観念的なというかよくわからない展開が続いた後、最後になって唐突に卑近な形で幕引きがなされ、ここまで読まされてきたのは何だったのかと思いました。


上田岳弘 講談社 2024年8月20日発行
「群像」連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アキレウスの背中

2024-10-12 20:36:58 | 小説
 日本政府が認可した最初の公営ギャンブル対象のマラソンレース「東京ワールド・チャンピオンズ・クラシック・レース:東京WCCR」に参加する日本のトップランナー嶺川蒼に対し参加取りやめを要求する脅迫メールが届いた件で、警察庁が組織している特殊部隊MIT(ミッション・インテグレイテッド・チーム)に招集された29歳の警部補下水流悠宇が急造混成チームでその捜査と東京WCCRの妨害行為阻止に向けて奮闘する警察小説。
 国際的な陰謀だとか、中国(政府)の関与を示唆しつつ、犯人像や犯行の動機・計画の部分がはっきりしないというか、私には読んで今ひとつ納得感がありません。そこは、わからない方がリアリティがあるということかもしれませんが、中国が絡んでいると言ってそうするのは、ネトウヨ読者の嫌中意識に乗っかって詰めの甘さをごまかしているような気持ち悪さを、私には感じさせます。
 警察小説、サスペンス小説としてよりも、主人公の成長を読む青春小説として読んだ方が読後感がいいかもしれません。 


長浦京 文春文庫 2024年9月10日発行(単行本は2022年2月)
「別冊文藝春秋」連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

離職防止の教科書 いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版

2024-10-11 21:02:42 | 実用書・ビジネス書
 部下が離職することを避けるために経営者や管理職が心がけるべきことを指南する本。
 部下に残業や休日出勤をさせずに自らが深夜までの残業や休日出勤を続け辛そうにしている上司の姿を見て、自分も数年後にはああなるのかと絶望して離職するという話(48~49ページ)は、少し目からウロコです。労働者側の弁護士をやっていると、そんな良心的な管理職の存在を聞くことは稀ですが。
 仕事ができず生意気な(態度の悪い)部下について、上司として成長する機会を与えてくれる「先生」と思い、生意気な態度を取られたときは「なるほど、先生、今日の課題はこれですか。ありがとうございます」と心の中で唱える(83~85ページ)。う~ん、そこまでして?顧客等に対しても活用できるというのですが…私には無理だな。話を聞くときに相手の話をさえぎると、まともに話を聞いてくれないと不満を持ち、共感してくれないと感じる(93~96ページ)というのも、よく聞きます。それもわかっているのですが、仕事がら、止めないといつまでも延々と自分の訴えたいことをそれも弁護士の目には事件のポイントから外れた話を、仕事を中断して電話に出ている相手の迷惑など考えずに言い続ける人を日常的に見ている者としては、やはり無理だなと思ってしまいます。部下の離職防止とは関係ない、依頼者・相談者等に応用できるかの面での弁護士の愚痴ですが。


藤田耕司 東洋経済新報社 2024年9月3日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

腎臓の名医が教える 腎機能 自力で強まる体操と食事

2024-10-10 22:04:06 | 実用書・ビジネス書
 慢性腎臓病の治療と予防のために運動を勧める本。
 1995年に著者が研究を始めるまで、また20世紀は、慢性腎臓病患者は運動すると尿たんぱくが増えるので安静が第一とされ、体を動かすことなどもってのほかだったのだそうです。それが2016年に糖尿病腎症に対する運動療法の保険適用が認可され、2022年には人工透析患者に対する運動療法の保険適用も認可され(18ページ)、今では軽い運動を継続することで腎機能が向上することがあることもわかり、むしろ安静は禁物だというのです(3~4ページ)。門外漢には、運動できない(骨折等)ときは別として、(軽い:やり過ぎない)運動が健康に悪いという考え方自体理解できないのですが。
 推奨されている運動はウォーキング(大股で歩くことが重要とか)と室内での比較的軽めの体操で、こちらはやれそう(もっとも、この種の本で勧められた運動を、私は結局やったためしがないのですが)なんですが、食事の方は、厳しい食事制限はしないと言いつつ、タンパク質摂取制限(体重1kgあたり1日1gかそれ以下)、塩分摂取制限(1日6g未満)や甘い物・加工肉・市販の惣菜を避けるとかも厳しそう。


上月正博 徳間書店 2024年8月31日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三度目の恋

2024-10-09 21:54:50 | 小説
 2歳の時からの幼なじみのひとまわり年上のイケメンで多情な男ナーちゃんこと原田生矢と結婚し専業主婦となった梨子が、34歳の時に、小学校時代時々話していた用務員の高岡と再会し、自転車で全国を回っているという高岡と話すうちに、夢の中で江戸時代に吉原に売られた禿・花魁となり、そこで高岡らしい客の高田に出会い、また夢の中で伊勢物語中の在原業平の妻に仕える女房となり、そこで高岡らしい僧侶と出会うなどする幻想恋愛小説。
 夫の不貞に耐え悩んでいた梨子が、幾人もと関係を持つことに寛大になりまたふてぶてしくなって行く心情の変化を読む小説で、女の強さを感じさせる一面がありますが、他方で不貞男に都合よい面もあるかと思います。
 また平安時代のエロス、女性の心情・生き様を読む小説でもありますが、平安時代とそこでの女性はそのようなものだったのか、それを「学ぶ」作品ではないので史実と合っているかはまぁいいとは言え、気になりました。


川上弘美 中公文庫 2023年9月25日発行(単行本は2020年9月)
「婦人公論」連載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

戦後フランス思想 サルトル、カミュからバタイユまで

2024-10-08 23:09:36 | 人文・社会科学系
 サルトル、ボーヴォワール、カミュ、メルロ=ポンティ、バタイユの5名のフランスの哲学者の思想と作品、その間での論争を紹介した本。
 私が学生の頃、リアルタイムで流行していた「フランス現代思想」=構造主義・ポスト構造主義以前のプレ構造主義ともいうべきこれらの人々は、ある意味で既に過去の人となっていて、断片的にごく一部の作品を読んだだけでいたので、主著や思想のエッセンスを改めて読んで勉強になりました。
 サルトルが実存主義の主張を固めたのがドイツ占領下のフランス(サルトルも徴兵されドイツ軍の捕虜となった)であったことを知ると、人間とは何か等の「本質」以前に人間は実存しており、なるべき自分を自由に選択し未来に向けて自分を投げ出せる(投企)しそうしなければならないという、ある種楽観的で前向きなテーゼが生まれ人々の支持を受けたことをなるほどと思えました。
 1歳の時に父親を亡くすという不幸はあったものの裕福な祖父母の元で育ったサルトルが共産主義に親和的な姿勢を取り、労働者階級のつましい家庭で育ったカミュが共産主義を全体主義として否定的な態度を取ったというのも、ありがちではありますが、興味深いところです。


伊藤直 中公新書 2024年4月25日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

70歳までに脳とからだを健康にする科学

2024-10-07 20:44:05 | 自然科学・工学系
 認知症/アルツハイマー病やダイエットなどを取り上げて生命科学の立場から解説した本。
 健康になるためにどうすればいいかを述べる本ではなく、人間の体のしくみやなぜそうなるのかの説明をする本です。
 他人の腸内細菌を移植する(便を濾過して肛門から注射するかカプセル化して飲む)ことで、潰瘍性大腸炎が治ったとか癌が治った、自閉症やうつにも効くとかいう報告がある(136~138ページ)と書かれていてビックリです。
「脳科学の専門家または自称“脳科学者”、脳科学の第一人者などとしてマスコミに出ている人は、そうでない人が多い」(170ページ)、「市販のサプリメントはほぼ効かず、生命科学関係のベンチャーなどはほぼすべて役に立たないかそれに近いものを扱っているにもかかわらず、それが一般の皆さんには素晴らしいもののように思われている」(242~243ページ)などのはっきりした記述が目を引き、参考になります。


石浦章一 ちくま新書 2024年2月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル、ウクライナ、アフガン戦地ルポ 憲法9条の国から平和と和解への道を探る

2024-10-06 21:18:01 | ノンフィクション
 ハマスからの攻撃への報復ないし自衛を主張してヨルダン川西岸とガザ地区で、イスラエル人被害者よりも遙に多数のパレスチナ人を虐殺し続けるイスラエル軍/政府の攻撃とパレスチナ人への虐待が続くエルサレムとヨルダン川西岸地区、ロシア軍の民家や多数の民衆が集まる場所への攻撃とウクライナ軍の反撃が続いているウクライナ、中村哲の用水路事業とその後10年を経たジャララバードを訪問して現地の様子を報じたルポ。
 イスラエル訪問が2024年3月、ウクライナは2023年5月と10月、アフガンは2022年8月までなので、その後事情が変わっているところはありますが、それでも近年のそこで生活する人々の様子が書かれているのに興味を惹かれます。
 イスラエル兵の蛮行とともに「虐殺をやめろ」というプラカードを持つユダヤ人の姿を紹介し(表紙の写真にも使用)、中村哲の事業と姿に焦点を当てる著者のスタンスは、紛争当事国と軍事同盟になく(NATO加盟国でない)平和憲法を持ち他国と戦争をしないことを国是とする日本の政府が紛争解決に取り組めばいいのにというものです。ラストワードの「これからは岸田文雄(あるいは新しい総裁)ではなく、中村哲の時代だ」が印象的です。


西谷文和 かもがわ出版 2024年8月15日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと

2024-10-05 22:20:30 | 実用書・ビジネス書
 元「報道ステーション」のメインキャスターで、今はテレビ朝日を退社してトヨタ自動車に入社し「トヨタイムズニュース」のキャスターを務める著者が、相手への伝え方について論じた本。
 取材/話を聞くときには相手の視点を理解して、話すときは話す内容(ニュース:できごと)の当事者の視点に立ちそれが「自分ごと」と感じ意識できるように(もちろん、話す内容をきちんと理解して)、そして聞いている人(世間一般)の感覚/目線を意識するというようなことが、取材やキャスターとしての経験を交えて説明されていて、なるほどと思えます。
 しかし、この本で度々豊田章男の会話・スピーチ術、人心掌握術に感心するという話題があり、グループ企業の不祥事があった際たった1人で責任を背負う発言をしたこと(50~51ページ)、アメリカでのリコール問題で米議会の公聴会で謝罪と説明をしたこと(68ページ、191ページ)は触れているのに、今年(2024年)5月に発覚したトヨタ自動車自身の日本での認証不正(意図的な試験車両の加工、虚偽記載、データ改ざん等)問題には一言も触れていません。巻末の豊田章男会長との特別対談がいつ行われたのかは記載されていませんが、あとがきは2024年7月と記されており、少なくとも著者は執筆中には認証不正問題を認識していたはずです。「報道ステーション」のフィールドレポーターとして12年ほど、メインキャスターとして6年報道に携わった著者でさえ、トヨタ自動車の社員となればくさい物に蓋なのか、そもそもネガティブなことを隠す/隠蔽するのではなくいかに誠実な対応をしそれを伝えるかは企業広報としても今や必須ではないか、「伝え方」の本でそれをしないとはどういうことでしょうか。この本の「はじめに」で、トヨタ専属ジャーナリストになる際、豊田章男から報道でやっていたようにストレートに疑問をぶつけ、現場を取材して伝えるやり方で関わって欲しいと言われたことを紹介している(7ページ)のは何なのか。報道ステーションのキャスターでさえ、社畜になってしまう、そういうことなのかということがとても衝撃的な本でした。


富川悠太 PHP研究所 2024年9月5日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする