先月の文章、アップするのが遅れてしまった。
非力を省みず、感想を書かせてもらった。
好きな句
・細波の影亀甲をなすプール
・青空に喝采のごと辛夷咲く
・舞ひあがるもの何もなき枯野かな
・瀑布へと加速つきたる水の列
「加速つきたる」という語が水の速さだけでなく豊富な水嵩、そして滝の大きさ、水の力を存分に表現している思う。後に続く「水の列」という語もぴったりだ。
・水の上に水乗りかかる秋出水
・岩あれば岩を乗り越え雪解水
・親も子も溶けてひとつに雪兎
・ビル街を貫き鮭ののぼる川
・凍滝の芯を滴る水の音
行き届いた観察の確かさ、理知的な観察力を感じる。光に反射する氷のなかに流れる水の発見だけでなく、「音」も確かに聞き分けている。視覚と聴覚が同時に飛び込んできて新鮮に感じた。
・手枕に春眠といふ重さかな
・パン屑を奪ひ合ふ鳩原爆忌
・屈葬の形で眠る雪の夜
私は深夜まで仕事に疲れた時など体が冷え切って眠れないことが間々あるが、このようにして布団の中で自分自身の冷えに耐えている。羊水の中に回帰するような感覚かもしれない。
・かたくりのひとかたまりにしてまばら
・どこまでが道どこからが雪の原
・ひもすがら降りて嵩なき春の雪
・一本の杭と戯れ春の水
春の水のゆったりとしたさま、雪解け水で嵩がました川の情景と感じた。ゆったりとしたリズムで杭や障害物にあたって水の紋が広がる情景が伝わる。ひょっとしたら何かの花弁が杭に絡んでいるのかもしれない。いろいろな情景を連想させてくれる。
・萩刈りて風の姿を見失ふ
萩の動きで風を詠むことを考えますが、「刈」った後に風の姿を発見した。秋の風のさわやかさが伝わる。
・露のせてゐて芋の葉の濡れてゐず
・打ち寄せしものをまた引き盆の波
・天までは昇れぬ重さ花吹雪
花吹雪などは天上の世界を彩るものにたとえられるが、これを「昇れぬ重さ」があると‥。これによってある一定の高さで花吹雪が空間に漂う大きな景色を表現することに成功している。大変あでやかな句と思う。
・平らかに湖水残して鳥帰る
・命なきものの軽さを蟻が曳く
・結局は同じ枝へと赤蜻蛉
・白鳥の凍ての極みの声と聞く
・誘蛾灯命のはぜる音のして
命のはじける音、自然の厳しさを見事に捕らえたと感じた。誘蛾灯に集まる虫は生の終焉を迎える場合が多いが、しかし確かな生きた証を残している。
・黒々と目玉の濡れて蝉生まる
・鴛鴦にほどよき間合ひありにけり
・嘴でしごく翼の氷かな
・初蝶の死して全き翅残す
・闘牛の蝶に怖ぢけて後退る
序にあるとおり、生き物に対する細やかでおだやかな把握に共感した。人間にたとえる方法が安易な思い入れではなく、独自の表現であることに好感が持てる。この句、牛の身の重さと蝶の動きの軽さ、しかし対等に相対する緊張感が伝わる。
・天井の染み動き出す春の闇
・朝の陽にあばかれてゐる蛍の死
・マネキンの捨てられてゐる旱かな
・完璧といふ曲線の寒卵
序では虚実の句というひとかたまりがあった。私はこの四つの句をシュールレアリズムの絵画のように感じた。私はこのような句にいくつか挑戦したものの見事に失敗した。再度挑戦しようかと思わせてくれる。
さて、水・川・海・湖を詠んだ句がいくつかあるが、どれもが水の動きを見事にとらえられていると思う。
そしてどの句も確かで、凝視とも思える観察に裏打ちされた表現ではないかと思った。凝視を表現に練り上げる力、理知的に再構成する力、見事だと感じた。
非力を省みず、感想を書かせてもらった。
好きな句
・細波の影亀甲をなすプール
・青空に喝采のごと辛夷咲く
・舞ひあがるもの何もなき枯野かな
・瀑布へと加速つきたる水の列
「加速つきたる」という語が水の速さだけでなく豊富な水嵩、そして滝の大きさ、水の力を存分に表現している思う。後に続く「水の列」という語もぴったりだ。
・水の上に水乗りかかる秋出水
・岩あれば岩を乗り越え雪解水
・親も子も溶けてひとつに雪兎
・ビル街を貫き鮭ののぼる川
・凍滝の芯を滴る水の音
行き届いた観察の確かさ、理知的な観察力を感じる。光に反射する氷のなかに流れる水の発見だけでなく、「音」も確かに聞き分けている。視覚と聴覚が同時に飛び込んできて新鮮に感じた。
・手枕に春眠といふ重さかな
・パン屑を奪ひ合ふ鳩原爆忌
・屈葬の形で眠る雪の夜
私は深夜まで仕事に疲れた時など体が冷え切って眠れないことが間々あるが、このようにして布団の中で自分自身の冷えに耐えている。羊水の中に回帰するような感覚かもしれない。
・かたくりのひとかたまりにしてまばら
・どこまでが道どこからが雪の原
・ひもすがら降りて嵩なき春の雪
・一本の杭と戯れ春の水
春の水のゆったりとしたさま、雪解け水で嵩がました川の情景と感じた。ゆったりとしたリズムで杭や障害物にあたって水の紋が広がる情景が伝わる。ひょっとしたら何かの花弁が杭に絡んでいるのかもしれない。いろいろな情景を連想させてくれる。
・萩刈りて風の姿を見失ふ
萩の動きで風を詠むことを考えますが、「刈」った後に風の姿を発見した。秋の風のさわやかさが伝わる。
・露のせてゐて芋の葉の濡れてゐず
・打ち寄せしものをまた引き盆の波
・天までは昇れぬ重さ花吹雪
花吹雪などは天上の世界を彩るものにたとえられるが、これを「昇れぬ重さ」があると‥。これによってある一定の高さで花吹雪が空間に漂う大きな景色を表現することに成功している。大変あでやかな句と思う。
・平らかに湖水残して鳥帰る
・命なきものの軽さを蟻が曳く
・結局は同じ枝へと赤蜻蛉
・白鳥の凍ての極みの声と聞く
・誘蛾灯命のはぜる音のして
命のはじける音、自然の厳しさを見事に捕らえたと感じた。誘蛾灯に集まる虫は生の終焉を迎える場合が多いが、しかし確かな生きた証を残している。
・黒々と目玉の濡れて蝉生まる
・鴛鴦にほどよき間合ひありにけり
・嘴でしごく翼の氷かな
・初蝶の死して全き翅残す
・闘牛の蝶に怖ぢけて後退る
序にあるとおり、生き物に対する細やかでおだやかな把握に共感した。人間にたとえる方法が安易な思い入れではなく、独自の表現であることに好感が持てる。この句、牛の身の重さと蝶の動きの軽さ、しかし対等に相対する緊張感が伝わる。
・天井の染み動き出す春の闇
・朝の陽にあばかれてゐる蛍の死
・マネキンの捨てられてゐる旱かな
・完璧といふ曲線の寒卵
序では虚実の句というひとかたまりがあった。私はこの四つの句をシュールレアリズムの絵画のように感じた。私はこのような句にいくつか挑戦したものの見事に失敗した。再度挑戦しようかと思わせてくれる。
さて、水・川・海・湖を詠んだ句がいくつかあるが、どれもが水の動きを見事にとらえられていると思う。
そしてどの句も確かで、凝視とも思える観察に裏打ちされた表現ではないかと思った。凝視を表現に練り上げる力、理知的に再構成する力、見事だと感じた。