図書9月号に目を通した。読んだのは、次の8編。
・【表紙】キャサリン・バー 杉本博司
・文と絵のはざま 舘野 鴻
・空爆するメディア論 吉見俊哉
「ドローンの誕生史を調べていくと、‥ツヴォルキンは1930年代にかいたドローン開発の提案書で、‥当時日本軍が構想していたパイロットが飛行機と共に敵に突入する「自殺部隊」に刺激されて考えたと書いていた。‥1930年代にはまだ「神風特攻隊」は存在しないし、日米開戦以前である。‥ドローンがカミカゼのメディア技術的代替であるならば、日本の特攻隊兵士は、逆にドローンの一部として、最初から命を奪われ、自爆を強制されていたことになる。」
「今日の都市に浸透した監視カメラと膨大な画像データ処理は、いかなる意味で空爆するまなざしと連続的なのか‥。」
・赤字殺人事件 柳 広司
「参議院議員選挙において財政健全化の道筋を示す声はまったく聞こえてこない。‥少なからぬ候補者が「防衛費を」二倍にしなければならない」と主張しし、岸田首相は「今後五年間で防衛費を相当額増やす」と明言する始末。いったいどこからその金を捻出するつもりなのか? 政府自民党内には「戦費国債を発行すればいい」という声もあるようだが、‥国境を超えて通用する理屈ではない。」
「他国での戦争は金になる。‥せっかくのビジネスチャンスになぜ日本は乗り遅れているのか。阻んでいるのは平和憲法だ。‥岸田首相以下昨今の日本の政治家の競争ぶりは、あたかもナチス・ドイツが欧州戦線でおさめた大勝利を目の当たりにして「バスに乗り遅れるな」と合い言葉に戦争に突っ込んでいった戦線の日本の再現ドラマを見るようだ。戦時国債という言葉が(与党から)出て来た時点で、日本は既に戦時体制にあるということだろう。」
・二一世紀の祥林婢 濱田麻矢
これを読むと再び「魯迅選集」を読みたくなる。魯迅が小説で暴き続けた当時の中国の政治社会状況が現代中国に生きていることが記されている。しかし同時に省みれば、日本の社会状況も戦前に回帰したといえる。貧富の差の拡大、いわれなき差別の拡大がますます社会をぎすぎすしたものにしている。
社会に絶望せずに生きて行くことが困難な時代になったと思う。
・始皇帝兵馬俑の謎 鶴間和幸
殉死と俑の関係がどちらが先かも含めて単純な問題ではなさそうである。
「俑都は日本の古墳の埴輪に相当し、古くは春秋時代末の孔子のことばに見える。「ひとがた」を指し、俑に対して生身の人間を墓のなかにうめることを従死といった。だが、人を収める殉葬の代わりに俑がつくられた、とは単純には言えない。」
「孔子の俑の教えに反することを知りながら、なぜあえて始皇帝は等身大の兵馬俑をつくらせたのか。」
・「百人一首」をゼロ時間へ 藤原定家が撰者ではないこと 田淵句美子
・文庫と迷うロンドン 中野敦之