恋の歌で知られる和泉式部であるが、子の小式部内侍が子を残したまま和泉式部よりも先に亡くなる。その哀傷歌にも惹かれる。
内侍のうせたるころ、雪の降りてきえぬれば
★などて君むなしき空に消えにけむあは雪だにもふればふるよに
【なぜあなたは虚しい空に消えてしまったのか。淡雪ですら消えずに残っているのに。】
小式部内侍なくなりて、むまごどもの侍りけるを見てよみ侍りける
★とどめおきて誰をあはれと思ふらむ子はまさるらむ子はまさりけり
【親である私と、(藤原教通との間の)子を置いて死んでしまった娘はいったいどちらを愛おしいと思っていたのか。親である私より、子の方を愛しんでいたのだろう。私も親より子と死に別れる方がつらかった。】
若君、御送りにおはするころ
★この身こそ子のかはりには恋しけれ親恋しくは親を見てまし
【この子を私の子の小式部の内侍の代りに恋しく思う。若君よ、母が恋しい時には、代りに、その親である私をごらんなさい。】
小式部内侍うせてのち、上東門院より、としごろ給はりけるきぬを、亡きあとにもつかは
したりけるに、「小式部内侍」と書きつけられたるを見てよめる
★もろともに苔の下にはくちずして埋もれぬ名を見るぞかなしき
【一緒に苔の下に埋められることなく、親である私が生き残ってしまった。埋もれることのない娘の名を見ることが悲しい。】
山寺にこもりてはべりけるに、人をとかくするが見えはべりければよめる
★たちのぼる烟けぶりにつけて思ふかないつまた我を人のかく見む
【火葬の立ちのぼる煙を見るたぴに、煙になった私を人々がこうして見るのだろうかと。】