いつもの喫茶店は割と空いていた。しかし本を読んでいたら、横に座ってパソコンをいじっていた男が突然オンラインでの会話を大きな声で始めた。どうも取引先の人間と画面で資料を共有しながら、会話をしているようだった。その行為以前には、店でコーヒー豆を挽く機械の音がすると「うるせーな」とつぶやいていたのが気になっていたが、つぶやき程度だったので無視していた。
パソコンをとおしての大声の会話は騒音に等しい。読書にとっては迷惑。だが、周囲の者は特に気にもしていないような素振りにみえた。取引先と思われる相手との会話は丁寧な言葉遣いだが、それ以前の乱暴な言葉遣いを考えると、ちょっと危ない感じがして、関わりたくなかったので一番奥の席に引っ越した。
隣の席からだいぶ離れた席に移っても声は聞こえた。一応気にはなるものの読書は続けることが出来た。ただし、読書のスピードは落ちた。このオフィス街の喫茶店でこのような人間と出くわすのは、初めてであった。
この男はしばらくして、店を出て行った。しかしすっかり気分を悪くしたので、私も店から出ることにした。
書店を見て回ってからバスにて帰宅。家の近くのバス停に近づいてようやく気分は元に戻った。