本日も昨日に続いて丸い月が美しい。
★寒月や猫の夜会の港町 大屋達治
この句、港町という下五なので都会とは違う。小さな漁港のトタン屋根などの小さな家がくっつきあって建っている一角なのだろう。家の中で飼っているそれこそ「上品」な猫ではなく、漁師が船から投げ与える魚を争って取り合う逞しい猫であろう。
たくましいといってもそれぞれの場所を占めているかぎり威嚇することも争うこともなく互いの領分を守っている危うい均衡と緊張が猫の世界である。夜になると彼らの世界の会話が始まる。それを「夜会」と称し、冬の月を配した。彼らなりの緊張感ある世界に、緊張感あふれる冬の月がたくましい趣きをもたらす。
萩原朔太郎に「猫」という詩がある。わずか8行の詩だが、有名である。
まつくろけの猫が二疋、
なやましいよるの家根のうへで、
ぴんとたてた尻尾のさきから、
糸のやうなみかづきがかすんでゐる。
『あわあ、こんばんは』
『あわあ、こんばんは』
『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』
『おわああ、ここの家の主人は病気です』
この詩の舞台は都会の住宅街であると思う。先の俳句とは違う洗練された都会の、しかし野良猫である。こちらの猫も愛玩用猫ではないが、野趣あふれるたくましさよりもどちらかというとずる賢い、抜け目ない猫かも知れない。その猫が夜の挨拶と人間らしい会話を始める。
主人が病気であり、尻尾の先に見えるのが三日月なので、私は冬と理解している。
萩原朔太郎の詩と「寒月や」の句、相違点を列挙しながら楽しんでいる。