今月号で読んだのは、次の11編。
・本も生きている 笠井瑠美子
・虫供養 養老 孟司
・伊勢神宮造替の謎 ジョルダン・サンド
「現在の神宮の状態や、技を尽くした造替をみれば、変化することなく伝統に忠実に進められてきたと創造しやすい。この見方の背後には、様式の真正性という現代的な周年が潜んでいる。「伝統」はなからず紙も完全な複製を狙う保守的なものとは限らない。伊勢こそ、永井歴史の中で変動の波にさらされ、工法の即興と革新もあった。大工たちは先例に倣いながらも、造替のたびに、その時代の技術と状況に応じた解決策を編み出した。」
「往古の伊勢神宮が結局どのような建築だったかは謎のままと言わざるを得ない。伊勢神宮の建築は、朝廷の資金問題や遷宮の中断など、様々な異変だけでなく、各時代の信仰、嗜好、希望にも影響されながら、絶えず変化してきた・・。」
予想されているとはいえ、資料的にきちんと踏まえた論稿は信頼できると感じた。
・継がれる想い 栖来ひかり
・ウクライナの歌手と「人魚姫」 岩切正一郎
・母といっちゃん 出久根 育
・路上より(下) 柳 広司
「(イスラエル大使館前の抗議行動について)「効果があるからやる、ないからやらない等というのは、資本主義の肥溜めに鼻の下までどっぷり漬かった者の屁理屈だ。効果があろうがなかろうが、やるべきと思えばやれば良い。そうでなければ楽しく生きたとは言えない」(堺利彦) 資本主義勃興以前、人の行動基準は効果の有無ではなく真善美だった。正しいからやる。良いからやる。美しいからやる。そんな生きかたも悪くない」
前提がない断定は、反対の意見を持つものにも力を与えてしまうし、アジテーションに堕してしまうので、あまり一般化したり声高に言ってしまうのは避けたい。一応思いは伝わるので、取り上げておこう。
・娑婆、嘘が相場やし 方言と予言 前田 恭二
・ガガの我・各々の我 川端知嘉子
・「この国の自由」 海洋国家の成立 前沢 浩子
シェークスピアの作品をイングランドのその時代の社会のあり様から解説されるのは読み応えのある論稿である。今回は「ヴェニスの商人」が実は当時のロンドンという都市の置かれた状況であるとの、登場人物に即した解説である。次回以降にも期待。
・失われた「エジプト旅行記」 西尾 哲夫