「九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史」(山本聡美、角川ソフィア文庫)の第5章「国宝「六道絵」の「人道不浄相図」をよむ 中世九相図の傑作(二)」を読み終わった。
「「九相図巻」を比べると、肉体の量塊性や骨格の解剖学的正確さという面ではやや劣る。‥いっぽうで、自然景の中に死体が横たわり四季の推移とともに朽ちてゆくという空間と時間の表出において、本作は「九相図巻」を圧倒している。‥植物のモチーフと死体の組み合わせが、不可逆的に進行する時間の経過と死体の腐敗を鮮やかに描き出している。‥「九相図巻」では死体そのものに注がれていた関心が、本作においては死体を取り巻く自然の摂理へと拡張されている。‥九相巻や「往生要集」の協議を越えた詩情をたたえている。」
「高貴な女性が自らの意志で不浄の身である不浄の身体をさらすことで、他者の発心を導くという話型に着目した。‥醍醐寺においては、発心と懺悔、そして浄土往生への道のりの起点に九相図が存在している‥。」
「九相図は生から死への移行を示す図像としても機能していた‥。鎌倉時代の九相図が高貴な女性の信仰と結びついていたことも明らかとなる。鎌倉時代の九相図には、不浄のみを懺悔し、他者の発心を導く聖なる図像としての役割があったのだ。」
九相図が女性の死体を描くことの解明がここで示されたことになる。次回からは第6章「「九相詩絵巻」をよむ 漢詩・和歌と九相図の融合」に進む。第6章からは室町時代後半の九相図である。