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メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

東日本大震災追悼(2018.3.11)

2018-03-11 13:33:13 | 日記
忘れないこと

助け合うこと

分け合うこと

日本だけじゃなく、世界中のあらゆる人々のほんとうの幸せのために




コメント

検索は応援になる。

2018-03-11 13:32:13 | 日記
「検索は応援になる。」

yahoo!を開いたらこんな画面が出てきたから、協力した



3.11当日までじゃなく、1年中やっていたらいいのに
東日本大震災だけじゃなく、その他いろんな項目をまとめて載せるとか

税金がひとまとめにとられて、自分が関わり合いたくないモノにまで使われるより
こうしたお金の使い方のほうがいいと思う


検索は応援になる。
「3.11」と検索すると、おひとりにつき10円が東北復興のために寄付されます。

Search for 3.11


「買う」は応援になる。~チャリティーオークション



たくさんの著名人が参加していた




中でも破格な値段がついていたのはこちら
また記録が出来そうな勢い


[3.11チャリティ]羽生結弦選手 直筆サイン入りスケート靴 (エッジなし)



ウェブベルマーク運動 チャリティオークション
被災地のことを忘れない、風化させない。東北の子どもたちに支援をつづけよう!
ウェブベルマークは、チャリティオークションを、3月5日から3月11日まで開催します!

オークションの落札金額は必要経費を除き、ウェブベルマーク協会から
ベルマーク教育助成財団に寄付することで、東日本大震災の被災校への
支援活動に充当させて頂きます。

ウェブベルマーク(ベルマーク財団)の主な支援活動
1 被災校のみなさまに教育設備品や教材を選んでもらい、希望のものを寄贈
2 部活動や遠征試合、校外学習、他校との交流などで移動する際のバス代支援

2017年度の支援実績
岩手・宮城・福島の小・中学校130校へ支援しました。

この度、ウェブベルマーク運動の趣旨に賛同していただき、
羽生結弦選手に、貴重な商品をご提供いただきました。
※2016年に続き2回目の出品となります。

みなさま、ぜひオークションにご参加いただき、
東北の子どもたちへの支援の輪に加わっていただければ幸いです。

ウェブベルマーク協会 事務局


商品概要
羽生結弦選手 直筆サイン入りスケート靴(エッジなし)

羽生結弦選手が練習で使用したスケート靴に、サインを書いていただきました。
※サインは、左右両方のスケート靴に書いていただいています。












ちょっとサイトがパンク気味なのもゆづくん効果?




アッコちゃんや、タミーも参加






一般社団法人ウェブベルマーク協会について
一般社団法人ウェブベルマーク協会は、東北の被災校支援に特化した
新しいベルマーク運動「ウェブベルマーク」を運営しています。

ウェブベルマークサイトを経由して、楽天、ヤフオク!、じゃらん、ロハコなど
協賛会社のウェブサイトから商品購入またはサービスを申し込むだけで、
ご利用内容に応じて支援金が生まれ、ベルマーク財団を通じて被災校に届けられます。

協賛会社が負担するアフィリエイト(成果報酬型広告費)を支援金にする仕組みです。
各ショップのポイントはユーザーにつくので、負担なく東北支援が続けられます。

この活動を知る人が増えるにつれて、ご協力いただく人も増え、
支援金(=ベルマーク財団への助成金)は年々増加をしています。


2014年度 212万円
2015年度 958万円
2016年度 727万円
2017年度 1,217万円(見込み)


寄付金の使いみち
ウェブベルマーク協会からベルマーク教育助成財団に助成金として送られ、
同財団が行う東日本大震災の被災校支援に活用されます。

対象となる被災校は、現地の実情に詳しい各県の
小学・中学校長会の助言を受けて選びます。

具体的な使途としては、部活動や遠征試合、校外学習などで
生徒が移動するときに利用するバスなどの交通費援助、
一輪車や教材提示装置、プロジェクターなど、
学校が必要とする備品を選んでもらいます。


協会概要
【名 称】 一般社団法人ウェブベルマーク協会
【事務局】 東京都港区赤坂5丁目3番1号 赤坂Bizタワー(株式会社博報堂内)
【代表者】 理事長 小島 敏郎
【設立年月】 2013年8月
【活動内容】 ウェブベルマークサイト運営業務
【支援概要】 ウェブベルマーク公式ブログ


公益財団法人ベルマーク教育助成財団について
文具や食品、家庭用品から保険までに幅広く付いている
ベルマークを通して、全国の学校に教育設備を贈る仕事をしています。
年間6億円、創立以来の累積では290億円の援助をしています。

震災発生からこれまでに、ベルマーク財団が東北被災校へ
支援した金額 総計4億6,823万円(延べ1,622校)


2017年度(2017年4月~2018年3月)の支援
総額2,752万円(うちウェブベルマーク協会からの助成金727万円)
岩手、宮城、福島3県の計130校に対し、1校あたり16万円から28万円を
限度に、部活動や遠征試合、校外学習などで生徒が移動するときに
利用するバスなどの交通費援助、学校が必要とする備品を支援しています。


財団概要
【名 称】 公益財団法人ベルマーク教育助成財団
【所在地】 東京都中央区築地5丁目4番18号 汐留イーストサイドビル7階
【代表者】 理事長 銭谷眞美
【設立】 1960年
【事業内容】 ベルマークを集める学校への助成と、へき地校や災害被災地校への支援



未来のための森づくりに向けて ~鎮守の森のプロジェクト~

「あの日、なぜ津波から この神社は残ったのか」




チャリティーオークションについて
「鎮守の森のプロジェクト」理事長の細川護熙元首相をはじめ、この活動に賛同していただいている、
13名の著名人の方々からスペシャル・アイテムを出品いただきました。
落札代金は、苗木を購入する資金として、「鎮守の森のプロジェクト」へ寄付させていただきます。



出品期間 3月5日(月)~ 3月11日(日)22時台

出品者
細川護熙さん/坂東玉三郎さん/市川猿之助さん/松本幸四郎さん/尾上松也さん/石井竜也さん/
SUGIZOさん/谷村新司さん/堀内孝雄さん/モーニング娘。'18のみなさん/森高千里さん/
鈴木愛理さん/サンドウィッチマンのお二人/鳳蘭さん

※日程や出品商品は予告なく変更となる場合があります
※市川猿之助さん、サンドウィッチマンのお二人の出品は3月6日(火)から開始予定です


「鎮守(ちんじゅ)の森のプロジェクト」とは



東日本大震災では、津波でコンクリートの防潮堤や松林がことごとく破壊されました。
ところが何百年もその土地を支えてきた「鎮守の森」の常緑広葉樹は、地中深く根を張るため、倒れずに残っていました。

その土地に適した十数種類の常緑広葉樹(シイ・タブ・カシなど)を密植・混植し、互いに競争させながら、
わずか20年ほどで「災害からいのちを守る」森として、津波の勢いを和らげ、また漂流物が海に流されるのを食止めます。

今までに44万本の苗木を約5万人のボランティアと一緒に植樹してきました。


鎮守の森が持つ、4つの利点

1. 津波の威力を弱め、漂流物を食い止める
2. メンテナンス不要で低コスト
3. 火災時の延焼を防ぐ
4. 台風や豪雨でも倒れにくい


子供たちの笑顔を、いつまでも繋いでいくために
災害からいのちを守る森つくりは、未曽有の大震災を経験した私たちが、次世代を担う子供たちを守るために、
残し伝えなくてはならない大切な知恵だと思います。

被災地の多くはまだ復興途上にあり、さらに今後の南海・東南海地震に対する備えを考慮すると、植樹する場所は拡大しつつあります。
災害からいのちを守るための森づくりはこれからが本番です。
皆さまのさらなるご支援をお願い申し上げます。

理事長:細川 護熙 元首相


Tポイントで応援! 1ポイントから寄付いただけます。
また、Yahoo!ネット募金では、「鎮守の森のプロジェクト」を、Tポイントやクレジットカードでのご寄付によりご支援いただけます。
Tポイントは、1ポイントからご寄付いただけます。
みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。


コメント

『飢餓列島』 眉村卓・福島正実/共著(角川文庫)vol.1

2018-03-11 13:31:13 | 
『飢餓列島』 眉村卓・福島正実/共著(角川文庫)
眉村卓・福島正実/共著 カバー/木村光佑(昭和53年初版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。

[カバー裏のあらすじ]

「聞け、世界の終りはもう近いぞ!」
破滅論者の若者が、デパートの上で叫んだ。
それを機に充満していたヒステリー症状に火がつき、暴動が日本全国に波及しはじめた。

〈世界的な人口爆発〉〈氷河期の到来〉〈食糧生産力の低下〉
そんな中にも生活水準向上への欲求が肥大し、ついに社会のバランスが崩れたのだ。

瀕発するゼネストに暴徒の襲撃、武装コンミューンの誕生に、恐るべき人肉食い…。
この苛烈な生存競争の中で、もしあなたなら生き残れるか?
現実に刻々と迫り来る飢餓パニックを、共同執筆で警告する近未来小説の傑作!



私の好きな木村光佑さんの表紙デザインのシリーズは、これ1冊となって
ずっととっておいたけれども、とうとう手をつけてしまい、
話の展開が現代とあまりに酷似していることで、また読むのが止まらなくなった

1点だけ違うのは、温暖化ではなく「小氷河期」であること
昔から、地球には「氷河期」が定期的に数回訪れていることからの発想か

共著だから、眉村さんのテイストが若干変わってしまうのでは、という不安も
冒頭から引き込まれる文体でまったく違和感がなかったのが驚き
どうやって共同で書いたのか気になるくらい

よくゾンビ映画とかで必死に生き残ろうとするストーリーを見ると
先にゾンビになっちゃったほうがラクなんじゃないか?と思う

人肉を食べるぐらいなら、先に体を提供したほうが、後々のPTSDよりラクじゃないかな
そう言ってる人ほど、実際そうなったらしつこく生きたがるのか?
その場になってみなきゃ分からないけれども

途中、途中、脱字が多くて驚いた
いくら古くても、これほど多いと、買った人が取り替えてもらうレベルでは?
そういうのが流れ流れて古書としてamazonに行き着いたのかな
こんなハプニングも含めて、古書は愛おしい



あらすじ(ネタバレ注意
朝から天気予報は、不快指数が86(全員不快)を示し、それでも街には人があふれていた
無気力なのは人間だけではなく、街そのものが惰性で生きていた
繁華街のゴミの山も、長いこと生きて、疲れきってしまった生物の醜い老廃物といった感じだ

慢性の電力不足の中、根上要吉は人の流れのまま超高層デパートに入る
エスカレータの軋む音が、2ヶ月前までいた大干ばつのカンボジアで見たバッタの大群を思い出させた

小屋の中まで入ってくるのを止められず、襲来との闘いは3時間も続いた
衝突や共食いで落ちた瀕死のバッタが地上を覆う様子など
彼は今でも悪夢を見て飛び起きることがある

屋上では、東南アジア諸国からの技術研修者たちが乱チキ騒ぎをしているが気に留める者もいない
裸にボディペインティングをした連中は、以前は夜更けの時間だけだったのが
今では真昼でもさほどグロテスクとも思われていない

(こんなことをしていていいのか?)

そこに珍しく白Yシャツの男が来て、フェンスをのぼりはじめた
ガードマンが止めても、最近ほとんど見られない穏やかな微笑を見せて
次の瞬間には視界から消えた

「ちきしょう これで今週はもう3人目だ オレの勤務評定はめちゃめちゃだ!」

投身自殺など日常茶飯事にすぎなくなっていた


根上は、ヴェトナム、カンボジア、タイ、インドと日本語教師をして周ったこの2年ほどの間に、
洪水、干ばつで起きる暴動、飢饉、疫病で、たちまち腐敗していく死体は嫌になるほど見てきた

人口問題、食糧問題、民族主義運動、、、国連、先進国の努力にも関わらず、アジアの人口は増える一方で
「バース・コントロール」も「緑化革命(グリーン・レボリューション)」も成果をあげられなかった

開発途上国の個人の欲望指向は急上昇し、「先進国中心型」に対する反撥をもたらした


根上は、かつて彼の小説などを買ってくれたジャーナリズムの友人を訪れては、現地の実状を訴えて回ったこともあった
これらを解決できるのは、同じアジア人である日本人だけだと喋りまくった

マスコミは反論せず、いざとなると「そうした話題は語り尽くされた いまさら取り上げるに値しない」と断った
時には熱っぽく応ずる者もいた

根上:
もう一度、根本的に考え直さなければならない
それには、今の超大国中心主義の国連方式ではなく、「パン・アジア方式」とでもいうような新しいアプローチが必要だ

ジャーナリスト:
かれらは、どの国も、日本を心の底では憎み、軽蔑しているか
何か売りつけるか、買い漁る国としか見ていない 実際そうだったからだ
時間しか解決する方法はないと諦めるしかない

根上:
我々には時間はあるが、かれらにはないのだ
こうしているうちにも、1日数千人で餓死していく

ジャーナリスト:
それより、向こうでの生々しい体験を書きませんか
今、企画してるのはアフリカでは人食い騒ぎが再発しているから


彼らはけして意識が低いのではなく、むしろ、何かもっと大きな不幸の予感に気をとられているように見えた

帰国3日目に、目の前で、若い男がホームから飛び降りるのを目撃し、
彼は故国のヒステリックな状況に順応していく自分、
慢性の焦燥感さえ耐えれば、けっこう生きていける自分を意識した


デパートのショーウインドウに長髪の若い男がよじのぼった

みんな聞け! 世界の終わりはもう近いぞ!
 大災厄に巻き込まれて虫けらのように殺されるか、自ら防衛するか
 政府など当てにするな やつらはオレたちを騙している!

 今までは生殺しだが、今度は皆殺しだ
 食の備蓄は、とうの昔に底をつきかけている 供給は全面ストップする
 我々は痩せさらばえて死ぬんだ!」

彼はハンマーでショーウインドウを叩き割った

「破滅論者だわ・・・」


破滅論、終末論はすでに繰り返されて慣れていた
飽きられては復活し、また流行しては下火になる

今では1つの流行として売文的デマゴーグたちは商売にしていい稼ぎにしているのを根上は許せなかった
ジャーナリズムに迎えられない原因の1つがそれだからだ
慢性化した破滅ムードは、現実の危機感を薄め、行動に移る意欲をそぐ

だが、新聞などで「破滅論者」という名の過激派グループがいると読んだ記憶があった


周囲は暴徒と化し、ショーウインドウのものを盗む者、逃げまどう者に分かれた

この暴動が「破滅論者」によって引き起こされたのは確かだ
しかし、いったい、何のために?

機動警察が来て、無差別的に催涙ガスを発射した 「全員逮捕!」
「こっちよ! まだ逃げられるわ」という若い女の声がして、
人々はその方角へ走り出した

破裂音がして、指示していた女が倒れていた 抱き上げると気を失っている
負傷者がいると知らせようと片手をあげると、いきなり警棒で殴られた


気づくと主任らしい刑事から何度も同じ尋問をうけていた

「あんたは、世界の食糧危機が末期症状だと書いているね」
「僕のはほとんど何の反響もなかった」
「あんたは、破滅論者の海外連絡員だったんじゃないのか?」

これはまるで太平洋戦争の特高警察だ
いつごろからこうなったのだ?


「我々は合法的に自白剤を注射する」


その後、根上は釈放された
「お前には結構なコネがあるらしいが、こっちにはちゃんと分かっているんだ」


ふと並んで歩く女に気づき、昨日助けた女だった
「お礼を言おうと待っていたのよ」
「君は破滅論者とやらなんだろう?」

2人の前に数人の男が現れた 最近、白昼の都市で頻発している強盗だ
女はバッグからコルト拳銃を出すと、男たちはひるみ、その隙に2人は逃げた

「日本ではまだ銃器所有は禁止のはずだ」
「父が死んだ母に贈ったものなの」

「君は相当な金持ちらしいな」
「私、三輪美子 あなたには現在の日本に関する情報が欠落しているようね」

***

長谷川康彦は間引き運転しているせいで混雑した列車の指定席に乗った
「指定券が手に入る人って、結構でんなぁ」

東京から名古屋まで、通常なら2時間だが、補修用資材の不足で遅れる可能性が高い
紀伊半島を巡り、会社が買収できそうな土地をできるだけ多くあたることになっているが
本当に役目が果たせるのか?

平均気温が下がり、農作物を育てられそうな土地を確保し
会社の人間が生き続けられるような居住地域をつくる計画のために
何十人も各地に出された


死んだ父が、20年ほど前に見た夢の話を思い出す
戦時中の日本に戻る夢 一緒に聞いていた母も2年前に他界した


今では飛行機も1回のフライトに申請と認可が必要だ
そこでは民間企業より政府機関が優遇される

同じ大学出身の鍋島毅もその1人で、昨夜の同窓会で長谷川は彼と2人で飲んで語ったのを思い出す

長谷川は、関西系巨大商社の西日本商事で、異例の抜擢といっていい最年少課長
鍋島は、キャリアとして警察に入り、公安部の警視
互いの格差はいよいよひらいていく

鍋島:
飢餓地獄を救えるのは能力のある人々による権力だけだ
1980年末には間違いなく「小氷期」になる もう始まっているという者もいる

「破滅論者」なんて、むしろ利用すべき対象だ
現場では、片っ端から検挙して調べている
だが、それだけじゃない そんなものじゃない いくら君でも、これ以上の説明はできない


列車はやはり遅れ、名古屋で泊まるのをやめ、夜行の急行に乗った
混雑した車内で立ったまま、何のアナウンスもなく、発車したのは定刻の40分後だった
ともかく新宮には出張所がある そこを拠点にすればいい

眠り込んでしまい、アナウンスで目が覚めた
「この列車は熊野市駅で運行停止となります 新宮方面の方は国鉄バスをご利用ください」

1台きりのバスには長い行列ができ、駅員に聞くと
「ま、2時間ぐらい待てばいいんじゃないか?
 オレたちも精一杯やってるんだ! ろくに資材もないのに保守をやり
 都会でまだ消費生活とやらをやっているお前らに勝手なことを言われてたまるか!


新宮の正木所長に電話し、クルマで迎えをよこして欲しいというと
「この辺で、ガソリンの割り当てがあるのは官公庁の緊急用だけですよ!
 23キロ足らずなんか歩いてきてください 我々はそのくらいいつも徒歩ですよ!」

「世の中は、いまや、あんたら大企業の社員中心に回っているワケじゃないんだ 土地買い屋さん」
声をかけてきたのは、若い男女3人から「先生」と呼ばれる初老の男だった

「我々と途中まで同じ道だから、話しながら行きましょう」


先生:
あんたは、やがて到来する食料飢饉に備えて、会社の一党を食わせるための土地を探しに来たんだろう?
他のいろんな会社の連中と同じように

あんたらの考えているのは、一見現実的のようで、夢物語だ
あんたらに農業ができるかね?
法学科で生物圏は勉強したのか?

あんたらの計画では、専門家を連れて調査する ここに落とし穴がある
同じことをもくろむ連中が事実殺到し、血みどろの争いが始まる
近い将来に残るのは、武装し、農業を営める訓練された集団だ

彼は飢餓時代を予告して、大学を辞めさせられた新免猛教授だと分かった
共鳴者を集めて、山奥に入り、実験的共同体をつくり、自然環境で容易に手に入る材料のみを使い
飢餓時代でも生き延びられる場所を築いているという

新免:最終的には、人間同士が食いあうことになるかもしれん

彼らは相当な山奥である「どろ峡」あたりの方面に曲がるため分かれることになった
女:どこかのグループに合流したほうがいいわよ 1人だと強盗が出るし、野良犬が人を襲うから

ひょっとすると・・・今の自分のような会社サイドのために働くことで
おのれの生活を保つという発想が、完全に無意味になる時代がくるのではないか

だが当面は自分は最年少課長なのだ 任務を遂行しなければならない

***

根上は、あれからまる2日、美子のマンションで泥のように眠り、抱き合った
美子:へんなことになったものね

社会では「フリーラブ」が広がっていたが、まだ個人差も大きかった
しかし美子はそうした一人とは思えない

テレビをつけると、大流氷のニュースが流れている

「異様です 水平線が動いています アイスランドの湾が全部流氷に埋め尽くされています しかも今は真夏なのです!」

チャンネルをかえると、オーストラリの高速増殖炉事故のニュース
炉心が制御不能の臨界状態となり、ウラン燃料が溶けて、周辺が放射能汚染を受けた

サブリミナルCMでは「ゼロ・ポピュレーション運動に協力しましょう」と流している

美子:いや、康二さん、いやよ!
と叫んで起き、根上を見て「あなたは誰? 出て行って!」と絶叫したため
玄関を出ようとすると引き止められる

あてもなく外を歩き、美子は「私、お芝居を見に行く 新宿へ」
「ぼくも行こう そこで別れよう」
「いっしょに来て」


新宿副都心の裏側に入ると、一瞬、過去へ迷い込んだ気がした
まるで首都圏整備計画実施以前の新宿だ

10年前、町の小店舗は、ブルドーザーの群れに強制執行で押し流され
新しい、現代的なビルや広場を建設しはじめたが、3年目にはあらゆる事情で早くも破綻し
1/3も実現されないまま挫折したが、そこは昔よりさらに凄んだ活気があった

1つのアングラ劇団の劇場に行くと、異様な絵看板がある
土まんじゅう、卒塔婆、人骨が散らばり、餓鬼たちが腐肉を貪り食っている


美子:『餓鬼草紙』よ 正法念処経に描かれている餓鬼の芝居をやっているの

根上は帰ろうとすると「観なくてもいいけど、石光康二には会って行って この劇団の演出家よ」


中は意外に1、2階とも満員に近く、暗がりから長髪で長身の康二が隣りに座った
康二:おやじさん、例の話を引き受けたか?
美子:いいだろうと言ってたわ 彼よ 根上さん 私の頼みは聞いてくれるのね?

康二は自分がふった女のあて馬として根上を見ていた
その時、呪文のような声が場内に響いた

舞台には半裸の女の死体などがあふれ、やがて死体や餓鬼は蠢きだす
その特殊効果は見事で、牛頭馬頭、鬼婆などの百鬼夜行の世界となり
地獄の鬼らは餓鬼らをムチで本気で打った
これは芝居か? サディスティックショーなのか?

「やめてくれ! これはオレへの見せしめなんだろう!」

叫んで立ったのは、友井商事専務・中原一士だった

中原:
人を誘拐同然に連れてきて、なんてナンセンスだ!
資源のない日本は、高度工業国を指向して何が悪い
それだけが1億2000万人が暮らす唯一の道だと私は信じている


鬼:
科学・技術の夢で酔わせた連中に餓鬼の苦しみを与えるのだ
現代文明は野垂れ死にして当然だ

人口過剰、公害による自然環境破壊、地球の寒冷化、
みんなそれを利用して肥えてきた企業のせいだ

中原:
たしかに60~70年代には、産業公害は大きな問題だった
だから今は企業も政府も環境対策に一番費用を使っているじゃないか
アフリカなどでいまだに続く焼畑農業の煙に比べたら量もはるかに小さい

要するに、この窮迫の元凶は自然そのものなんだ
温暖期が終わろうとしているんだ

今、破滅論がまた流行っているのも、クスコの遺跡に立って
文明のセンチメンタルな夢に浸る観光客と変わりはしない

席を立とうとする中原を周りの客が止め
鬼のムチが中原の鼻先をかすめた

オペラ歌手の竹里啓ほか、ここには意外に多くの著名人がいることが分かった

康二:
あなたは昨日、私に会うのを断った
私は、あなたが先日の連絡会で喋った内容を確かめたかった
政府の打ち出した物価安定政策に協力しようという

あなた方はマスコミを軽蔑している
批判の声を流している間は、大衆は自由があると錯覚する、その程度の役には立つと思っている
我々が本当に何を求めているか知らせるには、こうして相対して話を聞く必要があるんだ

あれは政府をつなぐ秘密の情報ルートから入った重要な秘密会議だった
政府は、異常気象研究グループが、小氷期が想像以上に早く到来し
日本の人口の半分は餓死すると結論した
政府の黙認のもと、あんた方は、必要な物資の出庫停止を指令した


政府はこれまで、小氷期を流言飛語だとさえ言ってきた
その裏で自分たちだけ生き抜こうと、国立農場の建設計画をしている

アジア諸国は毛嫌いしてきた日本に食糧輸出を認めたがらない
援助の名を借りたプラント輸出、輸入開発しかせず
金さえ出せばなんでも買えるという国に誰が同情する?

日本農業はここ50年間、GNPの犠牲になってきた
おそらく1年以内に深刻な食糧難になり、2年以内に餓死者を出す大飢饉となる

太平洋戦争のような配給制度のひまもない
食える者と食えない者ができる

今からコントロールするには遅すぎる
われわれ自身の力で生き抜くしかない


劇場から出た観客は、強烈な宗教儀式をしたオカルト信者たちのようだった
根上は、どうして公安のあの刑事たちは、この本拠を放っておくのか疑問に思う
どこかに巨大なウソがあるのでは?

根上:こんなことして一体何になるんだ?

康二:
民衆が絶望的な状況に気づくこと
一切のシステムは当てにならない 当てにできるのは自身だけだと徹底的に覚らせることもね

オレたち同士殺し合わなければならない
動物はそれを本能的に知っていて、大発生すると、生き延びる個体だけが生き延びて種を支える

ここに残った者たちは、その資格を自ら勝ち取った者ばかりだ
破滅論を民衆に説き、警察に追われている

君も殺され役の一人だった 君は決心しなければならない
仲間になるか、再び路傍の人間になるか

美子:彼はもう私たちの考えにコミットしている だからメンバーに推薦したのよ

康二:
彼女のおやじさんと取引した 運動資金増額の代わりに、お前をコンミューンのメンバに加える討議をすると
我々はコンミューンをつくる計画をしている そのための食料その他の物資の貯蔵も、自衛の武器もある

これまでの暴徒たちはライフル、小銃、手投げ弾で暴動を起こしたが
警察や軍隊の装甲車、戦車、ヘリ、ジェット戦闘機の前では蟷螂の斧だった

政府も大企業も、まず買いだめ、別荘や田舎への避難を考える
町ではそれぞれのコミュニティをつくる それが何十万、何百万となれば国家は崩壊する
そうすれば警察も軍隊も統一的な行動はとれない

政府が与える曖昧な安心感こそ幻想なんだ

美子:
私は三輪財閥のワンマン経営者・三輪秀作のわがままな一人娘よ
秀作自身が破滅論者だから、私たちの運動資金も父が出している

私やあなたが簡単に釈放されたのも父の差し金
警察や司法関係の上級幹部にいる破滅論者とコネがあるから

根上は美子を見て、彼女が依然、康二に所属していると分かった
愛の不毛に耐えられず、オレと寝て、康二に見せつけたのだ
それでも何もしないよりはマシだ

根上は仲間になると決める

***

長谷川はしばらく携帯用電卓をもてあそんでいた
1人1人が贅沢なエレクトロニクス機器を所有する時代は終わったのだ

妻・紀子の父・千光寺衛は西日本商事の取締役で、実家は麹町にあり、かなりの物資が蓄えられている
長谷川が大阪に転勤になると父から聞き、自分と一人息子・雄彦は千光寺邸に残ると話し出した

政府は国営農場を次々建設している
通貨価値の信用は落ちるばかりで、金と機動力で勝負する商社は退潮しはじめた

それを見越したのが今度の計画なのだ
大型救命ボートを手伝いながら、己たちのためにコンパクトなボート建造をする
巨大企業のどこも着手している
政府は窮極のところ、自力ではできないのを暗黙に認め、民間が補うのを期待していたのかもしれない

こうした救命ボートは、温暖で多雨な西日本が大部分だった
他の企業も似たような土地に殺到していた


紀子:雄彦の学校のことを考えると・・・
もはや学歴優位社会もあったものじゃないと、長谷川は苦笑したが
紀子:父がそう言ってるもの ととどめを刺すように言った

紀子:
万一、最悪になったら自活村に行くだけの資格は私たちにあるでしょ? 西日本商事の経営陣の家族ですから
あなただって、会社に好きな人がいたんでしょう どうせ私は道具・・・

長谷川は婚前前に付き合って別れた石井みずえを思い出した
あの女、いまごろどうしているだろうか・・・


地下鉄のラッシュは、運行回数が減り、一層激しくなった
丸の内オフィス街への通路は、依然、己をエリートと思う人間が
飼い慣らされた犬の大集団のようにプライドを保っていた

ビルによりどこに対して威張っているとか、どこに対しては肩身が狭いなどの
企業間格差や奇妙な序列がまだ生きながらえている

西日本商事の本社はもはや形骸で、実質的にはこの東京支社が本社だった
まだ10月なのに雪が降っている

そこに海老名という若い部下が来て、西日倉庫に近い大井埠頭で掠奪が起きたと知らせてきた
倉庫はストックでふくれあがっている
長谷川は、若い社員を連れて3人で飛び出した

首都圏で唯一残った旧式モノレールは停電でとまり、埠頭の黒煙が見えた
何十人もの男女をパトカーが追い、麻酔銃で撃っている

それを見ようとする客が無理やり窓を割って外に出はじめた
残った長谷川は、1組の不釣合いな男女を見かける

十数名の警官が入ってきて、外に出るのをとめた
根上は警官と小競り合いになり、長谷川は見かねて名刺を見せると
政府とつながりのある大企業が警察から保護されているのを知る指揮官は手を離し
西日倉庫なら大丈夫だろうと言った


10日後 長谷川は大阪への異動命令を受けた
「ライフ・ボート作戦」と呼ばれる計画では、買収したはずの土地がよそへ売られたり
誰が乗るのかと社員が囁きはじめた

大阪に発つ前、鍋島を訪ねると

鍋島:
君は、その仕事がうまくいくと信じているのか? いくつか重要な条件を忘れていないか?
1つ、そんなにたくさんの専門家がいるかどうか
2つ、収容しきれない人々はどうする?
3つ、不十分な生活共同体が互いに争い合うことになるだろうが戦闘力はどうする?
4つ、文化もなく、ただ生きるだけになりはしないか?

君、この間、破滅論者に会ったろう? モノレールで助けた2人だ
身を滅ぼすかもしれないから気をつけてくれ


雪が降り続き、10度目のハイジャックが起きた
モザンビークとギニアの連合人民救済戦線ゲリラで、国連の無限に遅延する
アフリカ諸国への食料救済を即刻実施しなければ自爆すると報告
緊急会議が開かれたが、着陸態勢に入った直後謎の大爆発を起こして墜落した

600人の無惨な遺体は四散し、未然に防げなかった国連の弱体、
現状を固定させている超大国、先進国の無為無策を攻撃された


AA諸国は全外国資産を国有化すると宣言し、暴動が起き、日本への反響も大きかった
株が大暴落し、市民はあらゆるモノの買占めに狂奔した

農相は配給制を維持するのは不可能だと言い、閣内の不一致を暴露した
関東南部が5回もドカ雪に見舞われ、そのたび交通麻痺が起きた



根上は、美子に武装コンミューンの本拠地に案内され軽く失望した

美子:
これでも暴徒の100、200人は防げるし、2、3ヶ月の包囲に持ちこたえる用意はあるわ
庭にはドーベルマンが2頭、ガードマンもいる
塀には高圧電流が通り、死角のない監視用テレビもある
鉄筋コンクリート2階建ての邸は、地下道で連絡ができる
食料も20、30人なら、2、3年くらい大丈夫

父が15年以上前に建てたの まだ飢餓時代が来ると観念的にしか考えられていなかった頃
一種の気違いと言ってもいいわね

応接室には70を越えた老人がいた「私が三輪だ」
その柔和で平凡な風貌に隠れているグロテスクさに寒気を覚えた

三輪:
もし私が一般人と違うとすれば、想像力があるところだろうね
海外への逃避行を真剣に考えたこともあるが、この災厄は世界的だ

康二:
君(野上)には想像力はあるが、実行力がない
疑問を持つばかりで、アジテーターとしてはまったくの失格者だ

康二は三輪の弱点をついていた
三輪はまだそれは起きないだろうと恐れていることを見抜いていたのだ


つづく


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『飢餓列島』 眉村卓・福島正実/共著(角川文庫)vol.2

2018-03-11 13:30:13 | 
『飢餓列島』 眉村卓・福島正実/共著(角川文庫)vol.1

史上空前の無期限ゼネストが始まった
あらゆる交通、通信、動力が無期限にストップした


世界は史上稀な大寒波に襲われた
とくにイギリスは零下20度も下がり、数千人の凍死者が出た

ソ連、中国では、厳重な情報官制で被害状況は分からないが
気象衛星の写真によると、シベリアの地下の泥炭層が持ち上がるパルス現象が延々にわたり観測された

一方、西アフリカ、エチオピアの大干ばつは悪化の一途をたどり
人々は、寒さや、餓え、暴動で虫のように死んでいった

警官隊はデモ隊に対抗して、ついに武器使用に踏み切った
これは1952年「血のメーデー事件」以来だった
デモ隊は50万をはるかに超え、革命に近かった

都内だけでなく、日本の何十の都市で「テレ・コネクション現象」が起きた
食料品店への掠奪がはじまり、電話は不通になり、大停電となり
都内の半分は暗闇に置き去りにされた



石井みずえは、デパートを歩いている夢を見ていた
売り子が一人もいない 値札もついていない

長谷川康彦が、いつもの無骨な態度で「なにか食べよう」と言い
食堂に入るがそれにしても寒い・・・

そこで目が覚めた 鉄骨2階建てのアパートはまともに外気を吸収する
あんな夢を見たために現在の乏しさが切実に感じた

なんでも好きなように買えた時代 食べ物を選り好みして、食べきれないと残した時代
10代の連中に話すと、こんなことになったのも、あんたらせいじゃないか、と罵られる


長谷川は象徴的ですらあった
親しくはしていたが、彼女には何人も男友だちがいた中の1人だった

OLはエリート社員に憧れるものだという通念に囚われているのが哀れでもあった
大差のない階層に育ち、そこから上昇しながら、まだもとの階層を代弁するような言辞を吐くのが許せなかった
そして案の定、千光寺の娘と結婚し、対してショックでもないのに、周りの同情に耐えられず退社してしまったのだ

ひとりで暮らすには不自由しない給料で暮らすうちに
かつていた西日本商事がどんなに事大主義で、視野が狭いかに気づいた
しょせんは「夜郎自大企業」なのだ

彼女は、同じアパートに住む戸崎や、そのグループと付き合うようになった
戸崎は学生運動に熱中して大学を辞め、志を同じくする仲間と活動しはじめた

戸崎は、仲間とともに今夜クーデターを決行すると言い出した
川本が入り込んだ運送会社から連絡があり、麹町にある要塞化された邸宅に
食料と銃器がかなりストックされていて横取りする計画

戸崎:
今度はあんたも手伝ってくれないか
トラックを停める役は女のほうがいいと思うんだ



邸宅に着くと暗がりに仲間が6人いた
周りには怪しいグループがたむろしている 同じ屋敷を狙っているのか?

トラックが来て、みずえは停めようとしたが危うく轢かれそうになった
この襲撃は知られ、川本は処分され、銃器を持った運転手と助手が乗っていた

機銃戦がはじまり、邸宅に目をつけていた得体の知れぬ男たちも石を投げつけてきた
助手がピストルを撃ち、戸崎は死んでいた

表札に「千光寺」という文字が見えた
長谷川と結婚した女の実家だ ここにはモノが存分にあるはずなのだ

みずえ:中には何でもあるよ! 贅沢していた女もいるわよ! やっちまえ! 犯しちまえ!

子どもも使用人もみな片っ端から惨殺されていった
防護設備などは少数の暴徒には有効だろうが、暴発した群衆には抵抗力はなかった

何のために、私はこんなことをしているのかしら
この邸宅を憎んでいるのではない 戸崎とその仲間の若者たち・・・可哀相



長谷川は妻に電話をかけ続けていたが通話は不可能だった
ここ100年ほどの間、当たり前のように考えられてきた
遠隔地間の即時通話の手段は終わりを宣告されたのかもしれない

東京支社はだいぶ前に消滅している
社員は会社に行くのを止め、どこかで生きるために狂奔しているのだろう

共同体に身を投じるなら早いほうがいい
二股かけて、後から来た人間が歓迎されるはずがない
紀子の連絡の糸は絶たれたが、哀傷の気持ちは湧いてこなかった

あと2、30分で新宮市の「南紀第七地区共同体」に出発しなければならない
慎重に熟慮して行動まで一拍おくインテリゲンチャタイプから
判断の早い果断実行型が長谷川の本性だったのかもしれない
自分の可能性はこれから発揮されるのだという気分さえある

船はわずか3隻しかない
もし約束した乗員たちの収容を拒否したらペテンになるだろう
だが、この共同体建設計画自体がペテンに次ぐペテンで進められてるのでは?

全部で20数箇所ある西日本商事の生活共同体のうち、5、6は設備は貧弱なもので
働くだけ働いても不要な連中は、やがて見捨てられる共同体に送りこむのだ


公共交通機関はストップしているので、自転車で霙の中走り出した
長谷川:とりあえず、なにわ筋をくだり、あとは臨機応変で南港の埠頭を目指す

オフィス街は死んでいる
機械のようにこぎ続ける これはこれからの生活の象徴ではないか?

南紀第七地区共同体には上位の社員がいるが、ここまで実地作業をしてきた自分たちが
運営するのはほぼ確実だろう

国営農場の大半は、官僚機構の内紛や、外界への反応の遅さで潰れかかっている
企業の共同体は、水がラクに得られ、農耕が早く可能な土地に近接し合っているため
ゴタゴタが起きる可能性も高い
共同体を襲う恐ろしく兇悪な掠奪集団もあるという話もある

長谷川らに向かって石つぶてがぶんぶん飛んでくる
長谷川:止まったら終わりだぞ!

1人の部下に当たり、救おうとしても間に合わない

警察の機動隊トラックが来て、追い剥ぎ集団は姿を消した
その先には地響きのような叫喚、爆発音、火事
長谷川:心斎橋の商店の在庫品が掠奪されているのかもしれない

「あいつらどこかへ逃げるんやぞ! 大会社の奴らと違うんか? 何か背負っとるで!」

気づくと、長谷川は登山ナイフを振り回し、海老名は血に濡れた鉄パイプを握り締めている
もはや殺人をしたことも気にならなくなっていた
やがては日常茶飯事になろうとしているのだ

出港30分前に着くと、船内にあふれる人々の中に、ほかの部下はいなかった



ゼネストが始まって3日目の夜
パトカーに乗ってメンバーの一人、警視庁公安警視の鍋島が来た
康二は客間に通すと、三輪秀作、竹里、佐川、野上、美子らがいた

鍋島:
今日、内閣は総辞職しました
それを知ると佐官級の幹部が前から計画していたクーデターに踏み切ったのです

市ヶ谷の総合参謀本部を司令部にして、部隊を東京に集結中です

康二:
結局、自衛隊は、同胞に銃口を向け、税金でつくったジェット戦闘機が、我々の頭上にナパーム弾を投下するんだ
そんなことはここ2、30年の間どれほど議論されたかわからないのに・・・

武器を持つこと自体がすでに暗示していたんだ
戦争はそうして始まるんじゃないのか

実際行動を起こした時、力を持つのは自衛隊幹部だ

三輪:
自衛隊も警察も1200万の都民が暴動化するのをどう抑えるかにかかりきりのはずだ
外の嵐が吹き止むのを待つのを考えるべきだ



根上は美子に起こされ、迷路のような屋敷内を歩くと
康二と三輪が争っている声が聞こえた

康二:
半身不随同然になりながら、命令ひとつでどこへでも飛ばせると思っているなら大間違いだ
我々は互いに利用しあってきた 今はもうあなたは利用価値をなくしかけている
あなたが死ねば、あとを引き受けるのは僕だ

根上は、三輪から南紀の熊野行きを頼まれる

三輪:
私は那智の滝近くに廃坑の銅山を持っている
おそらくこの飢餓時代は少なくとも10年、20年続くとみなし、第二の基地が必要だと思ったのだ

石光の言うように私の見積もりは低かった
石光に行かせようと思ったが断った 行ってくれるか?

根上はここに自分の居場所がないことを痛いほど感じていた
根上を推したのも美子に違いない
根上:行きます

美子:
晴海の飛行場にビーチクラフトが置いてある
私はライセンスがあるし、6人は乗れる 那智まで2時間判もあれば行けるわ

街には自警団がいるため、鍋島のパトカーで晴海まで行くことにした

飛行場に着くと、自衛隊が接収していた

竹里:
自衛隊はどこでも、何でも、命令が下れば自由に接収できる
反抗した者は自衛隊法で罰せられるんだ


美子:あのトラベルエアをいただこう

上空から見ると穏やかに見えるが、いまや日本列島は
1億2000万の追いつめられたネズミの実験場同様のはずなのだ

竹里:オレたち、まるで沈む船を見捨てて逃げ出してきたような気がしないか?
美子:逃げ出したわけじゃないわ!

根上は逃げ出せるものなら逃げ出したいと思った
しかし一体どこに安穏で静かな土地があるというのだ

日本はまだパニックにすぎないが、西アフリカ、カナダ、ソ連、中国では現実となりつつある
この危機が1世紀遅く来てさえくれたら、人類は助け合い、知恵を出し合って
グローバルな観点で、それぞれの国の問題を、共通の問題として捉え、解決しようとしたかもしれない

だが、いまはダメだ

今あるヒューマニズム、人類愛で支えるには災厄のスケールが大きすぎる
共倒れを選ぶほど国家、民族、人種の溝は浅くない

今は知人より家族、他人より知人、外国人より同胞、白は白、黒は黒、黄色は黄色を選ばねばならない
最後には家族より自分だけを選ぶしかなくなるかもしれないのだ


雪が渦巻き、視界がゼロになり、美子の顔はこわばっていたが
青空が見え、どうにか切り抜けると、突然激しい空腹と疲労を感じた

野村:
新潟の大豪雪の時、で起きた集団カンニバリズム(人肉食い)の噂は本当かな?
のうち半分以上が雪崩で死んだが、3、40人が奇蹟的に生き延びたが食べ物がない
救援も来ない 2週間目には完全に食料がなくなり、弱った老人、子どもが死にはじめた
彼らは雪の中に凍結した人を食べた

似た話はアラスカにもある
飛行機事故で45人の乗客乗員中32人が助かり、
一人が遺体の肉片を「これは肉だ 魂は肉体を離れ、これは人ではなく、牛肉と同じなんだ」と言った

生理的に受けつけられない者もいたが、結局彼らのうち17人が70日目に救出された
だが、本当の奇蹟は、人肉を食って生き延びた彼らを、世界が理解し、受け入れたことだ

『生きてこそ』(1993)

根上:
だが、西アフリカ、インド、エチオピア、東南アジアにもそんなケースはない!
飢餓を何百年も経験してきた民族に起きないのに、先進諸国にだけ起きるとはどういうことだ?
文明の恩恵で飽食していた先進国で、簡単に発生して許容されたのはなぜだ?


野村:
そのでも1回目より2回目と肉を食うことがやさしくなっていった
そうなれなかった連中は餓死したが、肉を食べた者は元気を回復した
それを見たほかの者も当たり前になり、最初は生で食っていたが
慣れて、煮たり焼いたりするようになった
そうしてかれらは食料を蓄え、雪どけを待ち、から脱出に成功した

根上の脳裡では、グロテスクな「アントロポファギー(人肉食い)」の儀式ではなく
日常仕事に精出する姿が浮かんだ

トラベルエアは新宮の熊野浦 七里御浜あたりに不時着した



大邸宅の物資を奪い取り、屋敷を占拠した何十人かは焚き火をしている
それは組織化された軍隊の様相があるという意味では駐屯部隊だった

同じような集団が都内の随所にでき、豪華マンションなども同じ運命をたどった
今のかれらの目標は三輪秀作の屋敷だ

そこに戦車が通りかかった
命令系統が崩れ、馬鹿馬鹿しくなった自衛隊員らは戦車の力で物資を得て故郷に帰ろうとしていた
駐屯部隊のリーダーは戦車を停め、三輪邸に隠匿物資がたくさんあるから大砲を撃ち込んでくれと頼む


三輪邸の人々は地下ブロックにいた
食料は200m以上離れた2つのマンションの地下にある

鍋島は戦車の報告を受けて、戦闘態勢をとるが、三輪は冷静だった
だが、弾丸は大きく外れて、食料のあるマンションに当たり、貯蔵していた燃料が爆発する

三輪:
理論的には完璧なはずだった・・・
カモフラージュしたマンションに下手クソなはずれ弾が当たるとはな

老人は笑いつづけた

戦車は破られた塀から入り、大勢がどっと侵入してきた
ここを捨ててよそへ行くという三輪に激怒して反対する康二

三輪:
貯蔵物資をいくらか与えて一時的休戦し
浮浪者らを我々の陣営に加え、塀などを直させ、集めて殺すんだ
私は熊野に第二基地を用意した 美子たちが受け入れ態勢を整えてくれているはずだ

鍋島は行動に移ろうとし、康二に銃殺される
康二:今から私が総指揮をとる

三輪が発作で亡くなり、戦闘が始まって大混乱となり
康二は三輪のポケットから脱出用のカギを出し、連れてってくれという仲間を締め出して
ドアを閉め、一人地下道を歩き出す



浜に不時着した際、川越は死んだ
基地に向かって歩き出してもう1週間になる

美子と野村は肋骨にヒビが入り、竹里は膝を傷めていた
野上らは携行している物資を近隣の家で食べ物に代えて進んだ

都会を捨て、この辺ならまだ食べるものがあるだろうという噂で南紀に流れ込む難民がいっぱいいた
町には自警団ができ、難民を警戒して至るところで訊問している

山に迂回すると大企業の共同体がいくつもあり番人が守っている
難民たちからは山賊の噂も聞いた

基地に着くと門番がいて、根上らを難民だと思い、武器を捨てさせ門から入れる
すでに鉱山のストックに気づいた人々が集まって、山賊から守るため、人手が要るのだった

「山の軍隊の襲撃だ! 全員戦え!」という叫びがあがる

根上らははずれのほうに寝床をとったのを幸いに裏に回り、迂回する道を選んで逃げる
強烈な異臭がして見ると、200人以上の異様な風体の男女がボウ・ガンなどを持ち
指導者らしい初老の男が仁王立ちになっている 「新免軍団はまた勝った!」

捕虜の中に竹里がいる 「きさまらは鬼だ! 人肉食いの外道だ!」

老人:
我々は野蛮人ではない カンニバリズムは今、罪悪でも反自然的でもないのだ!
人類はかつて、宗教的儀式、刑罰、憎悪、時には美食の一種として繰り返してきた
人間にとって、食われることより、死ぬことのほうがはるかに大きな問題だ

複雑化した現代の文明世界はこの寒さには耐えられない
この災厄を生き抜くには、人類がかつてない意識の変換をやり遂げなければならない
人肉を誇らかに食うのだ

林の中の広場では、人間の生首が2、30個見えた そこは人肉の調理場だった

根上はそこで長谷川に再会する
長谷川:我々の共同体へ来ませんか? 我々は人肉は食べない



第七地区共同体の第一前哨の廃屋に来て、根上らは少ない雑炊を食べた
他の者はとっくに割り当てを平らげて、不満げに熱い湯を飲んでいる

総勢3、400人の共同体の仲間入りをしてから1週間あまり経つ
食料制限は厳しく、しかもこれから本格的な冬が来る

根上
(恐れていたことが事実になった時、準備のなかった人々は、多少なり準備していた連中に反射的に激情をぶつけた
 ただ一部の人間に占有されているという不公平さえなくなればいいと思って、破壊し、荒れ回ったのだ


情報化時代、情報過多に慣れていただけに、どこからも情報が入ってこないことは想像できなかった
ラジオには時折、状態の悪い朝鮮語放送、中国語放送がかすかに入っても意味が通じず
ハムの電波は激しいノイズばかり

野上
(日本中でおそらく激しい動乱が起きている
 いや石光は、どうにかして逃れて、今も生きているかもしれない

美子の康二への執着を自分なりに処理するまでは、なにものも省みない魂の餓えが
根上には抵抗しがたい魅力になっていた
それはもう愛などではない 3人は3様に魂の餓えにさいなまれているにすぎない

夕方、新宮に行ったクルマが戻り、運転手は野村だった
市境まで行かないうちに、武装した自警団に山賊と間違えられて攻撃を受け逃げ帰ってきたという

東京の三輪邸の1人が難民にまじっていて、死相の表れた男に美子は興奮剤を飲ませて聞いた
男:会長は死に、石光はオレたちを見捨てて逃げた ちくしょう



地区委員会本部で長谷川が喋っている

長谷川:
南紀一帯の海岸には町村単位の共同体ができ、どろ峡には新免軍団がいて、挟み討ち状態だが
日本のような近代国家がいつまでも置いていかれるはずはない じきに秩序が戻るだろう
それまで互いに人間らしく助け合って生きなければならない

この冬を越すために、食料を確保している共同体との交易を開き
材木を伐り出して、物々交換で食料を手に入れること



根上は一人、ホールを抜け出した
支給された手斧、磁石などをポケットに入れ、できれば吉野に出ようと思っている

ただ自由になりたかった
わずかな食料を当てがわれるために、割り当て仕事をして
この異常な状況下でも、まだ企業意識に似た前向き姿勢で
人々を引っ張っていけると思い込んでいる精神が息苦しくてやりきれなかったのだ

わが心を騙しつづけることにどうしようもなく飽きていた
間違いでも構わない 目の前の現実を信じるほうがラクだった

北極圏の範囲は年々急速度に拡大し、農耕、牧畜、漁業、鉱工業が可能な領域をせばめていく
従来のデータが正しいなら、本格的な第5氷期がくるのははるか先のはずだ

だがそれはこの時代を生きる我々には関わりのない夢物語だ
それより、自らの運命を最後の1日まで生ききってしまうほうがいい

人間は必ず死を迎える ほんの少し先に死ぬ者と、それを見送る者の差があるだけだ
どちらでもよくなった時、死は恐怖でなくなる



根上は何者かの尾行に気づくが、細い吊り橋を渡りはじめる
追ってきたのは美子だった

美子:私も連れてって! あなたについて行かせて

根上:
僕についてくればおそらく死ぬぞ
僕は君を愛していない 君も僕を愛していない

美子:そんなことは・・・

ここにいるのはもう、愛などあやふやな男女の感情ではない2つの魂にすぎなかった
根上は深い安堵と、法悦に近い満足感を感じた ニセモノでもどうでもよかった



共同体での生活は1年半が経った
今や800名を超えるここの実質的リーダーは長谷川だ


普通なら1つの集団の頂点に立つ人間は、それ相応の贅沢をし、地位をちらつかせ、力を誇示するものだが
長谷川はそうしないために、むしろ敬遠されていた

社員の未亡人らと性関係をもっているが、同居はせず、暗黙に了解されているだけだ
独裁体制のほうがずっとやりやすかったが、上位の社員が許すわけがない

“きみたちの共同体はインチキだ!”と書かれた「南紀政府」のチラシがまた入っていた
共同体にも通じる者がたくさんいて、「南紀政府」のほうが版図を広げ、待遇がいいと信じられている

「南紀政府」は一種の独立国家だ
日本政府の機能は止まり、転覆し、もとは非合法な集団からスタートしたものが勢力を広げた権力体
その前身は、新免に率いられたカンニバリズムを主張した殺人集団だ

海岸の小さな集落は支配下に入り、都市部だけが取り残された
本来、闖入者である各企業の共同体は、所詮よそもので異端者なのだ

しかし、ここはよく頑張っていた
防衛隊をつくり、木材を新宮に運んで他の物資と交換している

長谷川とともに最初から作業してきた海老名らは、本来、エリートとして
常に巨視的観点から己を認識することで自信をもって生きてきた
今のような歪曲した情報がちらちら入る状況では難しい

人々は、共同体がかつてのように便利で快適なものを作れないのかと思いはじめている
働けば働くほど豊かになるという幻想をまだ離さないのだ


一番の課題は、この土地に農作物を育てることだが、いまだ実績があがらない
潰れた共同体の中には、ここにいる人々の親類縁者がかなりいて
一時期、どんどんふくれあがり、食物ストックが悪化した実態を成員には知らせなかった

南紀政府は共同体に帰順勧告し、流入はやんだ
南紀政府は、人々をあちこちに移して、生産労働に従事させていると思われる

今の不安は、新宮の交渉に出かけた海老名が4日経っても帰らないことだ
これが共同体の真実だったのか? 結局は潰れ去る運命なのか?
だが、つづけるほかはない



長谷川は3人の職員に武器を外すよう言われる
「我々は、南紀政府に帰順することにしました 共同体の総意です 他の実行委員も逮捕されました」


会議室にはほかの6人の実行委員がいた いずれも長谷川より上席の社員だった人々だ
「君が勝手に運営したからこうなったんだ 責任をとりたまえ!

南紀政府の部隊は、共同体の戦闘員よりはるかに訓練され統制がとれている400~500人の部隊
その中に新免教授がいた

新免:
この辺りで最後まで帰順せず、我々の威信は少し傷つけられた
あんたたちには、他への見せしめに死んでもらわなければならない
見せしめの犠牲となれば、名目だけでも代表が責任を負うべきだろう?

「私は責任をとる理由がない!」と命乞いを始める上司たち

新免:
だから企業の幹部など信用できんのだ
私はこいつらに本物の敗北感を味あわせてやろうと思ったが、やはり魂などなかったようだ
この連中を処刑したまえ その男は残してもらいたい と、長谷川を指した

新免:
あんた変わったな あの時の自負や傲慢さ、焦りがなくなっている
あんたのような役に立つ人間が欲しいが、許すわけにはいかないんだ

長谷川は、自分が平然なのがフシギだった クーデターか・・・

長谷川:
教えてください 我々の共同体に比べて、あなた方の組織はより安定していると本当に思うんですか?

新免:
企業の作る共同体には致命的な欠陥があった
みな、その会社の階層序列を持ち込んだからだ そこから抜けきれなかったのが命とりだった


共同体の成員は昔の生活を取り戻したいと欲求していた
現状認識を拒否することは生き延びることにつながらない

あんたは会社に入って、本当に心の燃える、生命を賭ける仕事をやったことがあったか?
あるとすれば、この共同体をつくり動かしたことじゃないか?

長谷川:我々は人肉を食ったりはしませんでした

新免:
だから潰れた 生き延びるのが大前提の時、合法も非合法もないだろう
今は肥沃な地方を押さえているから食べない
食べていけなくなれば、また食べるだけのこと

長谷川(やはり新免は別の種類の人間なのだ それでいい

新免:
日本、いや世界は大変な時期を迎えている
小氷期で大影響を受け、他国の援助ができる状態ではない

日本の人口は2000~3000万は死んだと思う
気の毒でも、当面は食料生産とのバランスがとれるんじゃないかな
各地に統合された政府の群雄割拠の状態の中で、強者が日本を統一するだろう

長谷川
新免らがつかんだ情報をついに自力でつかむことはできなかった
 つまり、両者の組織のリーダーシップに差があったことを意味する

 新免は自分に敗北感を味あわせるために、わざと自分を残して大演説をぶったのだ
 処刑 死にたくはない どこで自分は失策を犯したのだ?

 ひょっとしたら、自分の認識が根本的に誤っていたのかもしれない
 小氷期も会社の枠内で解決する問題だと甘くみて
 スケジュール化してなんとかなる事態と計算を間違えたのだ


長谷川:いやだ! 僕は死にたくない! やっと何かが分かってきたというのに

青年将校が号令をかける中、彼はセミの声を聞いた
なんだかひどく滑稽な鳴き方だなと思った





【福島正実 あとがき解説内容抜粋メモ】

人口問題、食料問題、異常気象、世界的規模の環境汚染・・・
何を一番感じるかというと、やるせない焦燥感、挫折感、無力感だ
これは個人的性向からのペシミズムかもしれない

だが、この重要な問題を、今もお茶飲み話、酒席のネタにしている日本中の家庭や巷の声が聞こえ
ただの読物としてしか感じることができないのが伝わる
実際“それ”に襲われた時、パニックに人を走らせる暴走エネルギーになるのだ


自分の思考があまり偏りすぎ、一人の作家で律されるべきではないと思い
前々から試みたかった2人での共同作業を思いつき、幸い、SF作家のうち
同じように近未来問題を集中的に考え、リーゾナブルに僕とは違う視点に立つ
眉村卓の賛同を得ることができた

かなり激しいディスカッションを経て実現し、成功したかどうかは読者の判断を待たなければならない



【眉村卓 あとがき解説内容抜粋メモ(昭和53年4月)】
合作、共同執筆がこんなにエネルギーを要するものとは、とりかかるまで分からなかった
同一人物を2人で書く、一方のつづきを他方が書くのは不可能ではないかというわけで
持ち人物を設定したが、話が絡まり合うと、相手の人物も動かさなければならなくなる

基本は一致しても、構造分析の考え方が違う
相手の個性を無視せず、ぶっつけ合って書きついでいき、ヘトヘトになってしまったが
書ききったといやにスッキリした気分なのがフシギだ

近頃のSFには、作者の予感や恐れがにじみ出ているかがひどく気にかかるようになった
書き手と読み手が暗黙のうちに癒着しているように思える


少なくとも己の予感を投じたつもりで、それゆえスッキリした気分なのだろう


【眉村卓 文庫版へのあとがき解説内容抜粋メモ】
福島氏の命日は「未踏忌」と呼ばれる 労作『未踏の時代』にちなんだ名称だ
こうして一人であとがきを書くと、紀伊半島へ共に取材旅行したことなど湧いてくる

本書が単行本になった時、福島さんとゆっくり論議したいと思った
何年か経ってからでなければ気づかないことがあるはずだと信じていたからだ

福島さんはSFについてもっといろんな事柄を書き残したかったのではないかという気もするが
今となってはせんないことだ



【尾崎秀樹 解説内容抜粋メモ】
最近の異常気象について、予見に満ちた論文を多く発表している科学評論家・根本順吉氏は
著書で氷河期の到来、食糧難を警告している 『氷河期が来る』

1976年、アメリカ農務省外国農業局では「この年末には世界の穀物在庫が1億トンを割るだろう」と発表した
これは第二次世界大戦直後以来の現象だ

食糧自給率40%の日本も、対策を考える必要があるが、憂慮されるのは「農地の荒廃」だという

小松左京の『日本沈没』がベストセラーになったのは昭和48年
この頃から環境汚染、公害が切実な問題になり、パニック小説が多く書かれた

近未来を扱ったSFが単なる未来の警告ではなく「PF(ポリティカル・フィクション)」
的要素を含むようになったのもここ数年の傾向だ

私たちの世代は戦中戦後に飢餓状態を体験したが、その何層倍かの危機に直面したらと考えても予想もつかない
この作品のリアリティもそこにあるのではないか

福島正実は、昭和51年、47歳の若さで亡くなった
本書を刊行して1年半後ほどである

『SFマガジン』の編集を手がけた頃は、日本のSF界はまだ揺りかご時代だった
その普及に尽くし、自ら筆をとり、今日のSF界の隆盛をもたらした
彼により見出され、育てられた書き手も多い

2人の合作による本書は、作品の幅と厚みを増し、作家の個性を殺すことなく
かえって相乗積した味をみせ、合作による創作に新機軸をもたらした



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