書店でレジに持って行くのをためらってしまうストレートなタイトル。でも文庫が出たときに、ちょっと惹かれてた。それは帯に書かれていたひとこと、「好きな人とたくさん」。そう、セックスって身体だけのつながりじゃなく心のつながりである。「好きな人とたくさん」するのはとても幸せなことだし、お互いを認めあって、時間や気持ちを共有する大事な時間。あ、この本はいわゆる官能小説じゃないんだ。中も見ず、予備知識もほぼなしに僕はそう思った。ためらわず手にしてレジに向かった。隠すために別な雑誌持って行くとかもなしに(笑)。
世の中は性の話題だらけだ。若い女の子であることがアイドルという名の商品にされていたり、お年頃の男子たちにとっては性に関する情報はあちこちに転がっている状態だ。でも世代によっても、置かれた状況によっても、健康状態や、年齢によってもそれぞれが抱える性にまつわる悩みや思いは違う。石田衣良の「sex」に収められた12編の短編に登場するのは年齢も世代も違う様々な人々だ。若い男女から始まって、中学生、死を間近にしている男、最後のデートをする男女、男性としての自信を失った初老の男性、子供を亡くした夫婦などなど。sexをテーマにしているだけに、おそらく多くの未読の方々は、世間でよく売られている官能小説のようにカギカッコの中に母音や記号が並べ立てられた台詞や、身体の部分をやたら肉感的に表現した言葉が並べられたものを想像することだろう。この本はまったく違う。それぞれの登場人物が執着する行為や嗜好は、丁寧に言葉を選んで綴られている。
12編の中には共感できるものもあれば、いわゆる官能小説的に生々しく感じられる部分もある。二つめのエピソード「文字に溺れて」は、性描写がある小説を図書館で読みまくっている男子中学生が主人公だ。彼は同級生の女子にそれを見つかるが、彼女もそういう本を読むのが好きだと言う。かつて僕もツルゲーネフの「はつ恋」のキスシーンばかりを読み返し、村上春樹の「ノルウェイの森」のラブシーンをついついリピートしてしまったことがある(恥)。ちょっとレジに並べば生々しいものが手に入る今の時代に、こういう中学生ってイヤらしいかもしれないけど、ちょっと好感。また年齢を重ねた男性の悩みと再生を綴った「落葉焚」も素敵な作品。
する話ばかりではない。できない人々の物語もある。妻に近寄ることもできないセックスレス夫婦を描いた「絹婚式」も涙を誘う一篇。また性は何もかも忘れさせて人を虜にするものでもある。そんな一面を描いた「クレオパトラ」や「ダガ-ナイフ」も印象的。若い男女がもつれ合うものよりも、悲哀やドラマを感じさせる作品が好きだ。衝撃作「二階の夜」はダメじゃん!とハラハラしながらも、悶々として寝床にもどる主人公を思うと何故か落語のオチのようなおかしさを感じてしまう。
そして最後の「純花」には涙した。事故で子供を亡くした夫婦の物語。不幸な出来事で子供を亡くした夫婦が、(世間が思うより)意外に早く次の子供を授かることがある。そうした話を聞いて、「どうしてその気になれるんだろう」と思う人は少なからずいると思う。僕も実際そう口にする人たちを見てきた。「純花」にはその答えがある。骨壺を枕元に置いて抱き合う夫婦に、涙を流さずにはいられなかった。
「好きな人とたくさん」は、作者が自ら考えたスローガン。このコピーがなかったら僕はこの本を手にしていなかったろう。読み終えて、抱き合うのに理由なんていらないかもしれないけど、抱き合うのに意味を考えてみてもいいんじゃないのかな・・・そう思えた。最後に、通勤中の読書にはおすすめしません!(笑)。
世の中は性の話題だらけだ。若い女の子であることがアイドルという名の商品にされていたり、お年頃の男子たちにとっては性に関する情報はあちこちに転がっている状態だ。でも世代によっても、置かれた状況によっても、健康状態や、年齢によってもそれぞれが抱える性にまつわる悩みや思いは違う。石田衣良の「sex」に収められた12編の短編に登場するのは年齢も世代も違う様々な人々だ。若い男女から始まって、中学生、死を間近にしている男、最後のデートをする男女、男性としての自信を失った初老の男性、子供を亡くした夫婦などなど。sexをテーマにしているだけに、おそらく多くの未読の方々は、世間でよく売られている官能小説のようにカギカッコの中に母音や記号が並べ立てられた台詞や、身体の部分をやたら肉感的に表現した言葉が並べられたものを想像することだろう。この本はまったく違う。それぞれの登場人物が執着する行為や嗜好は、丁寧に言葉を選んで綴られている。
12編の中には共感できるものもあれば、いわゆる官能小説的に生々しく感じられる部分もある。二つめのエピソード「文字に溺れて」は、性描写がある小説を図書館で読みまくっている男子中学生が主人公だ。彼は同級生の女子にそれを見つかるが、彼女もそういう本を読むのが好きだと言う。かつて僕もツルゲーネフの「はつ恋」のキスシーンばかりを読み返し、村上春樹の「ノルウェイの森」のラブシーンをついついリピートしてしまったことがある(恥)。ちょっとレジに並べば生々しいものが手に入る今の時代に、こういう中学生ってイヤらしいかもしれないけど、ちょっと好感。また年齢を重ねた男性の悩みと再生を綴った「落葉焚」も素敵な作品。
する話ばかりではない。できない人々の物語もある。妻に近寄ることもできないセックスレス夫婦を描いた「絹婚式」も涙を誘う一篇。また性は何もかも忘れさせて人を虜にするものでもある。そんな一面を描いた「クレオパトラ」や「ダガ-ナイフ」も印象的。若い男女がもつれ合うものよりも、悲哀やドラマを感じさせる作品が好きだ。衝撃作「二階の夜」はダメじゃん!とハラハラしながらも、悶々として寝床にもどる主人公を思うと何故か落語のオチのようなおかしさを感じてしまう。
そして最後の「純花」には涙した。事故で子供を亡くした夫婦の物語。不幸な出来事で子供を亡くした夫婦が、(世間が思うより)意外に早く次の子供を授かることがある。そうした話を聞いて、「どうしてその気になれるんだろう」と思う人は少なからずいると思う。僕も実際そう口にする人たちを見てきた。「純花」にはその答えがある。骨壺を枕元に置いて抱き合う夫婦に、涙を流さずにはいられなかった。
「好きな人とたくさん」は、作者が自ら考えたスローガン。このコピーがなかったら僕はこの本を手にしていなかったろう。読み終えて、抱き合うのに理由なんていらないかもしれないけど、抱き合うのに意味を考えてみてもいいんじゃないのかな・・・そう思えた。最後に、通勤中の読書にはおすすめしません!(笑)。
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