■「ターミナル/The Terminal」(2004年・アメリカ)
監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=トム・ハンクス キャサリン・ゼダ・ジョーンズ
うーん、やっぱりスピルバーグの映画だなぁ。もちろん2時間バッチリ楽しめるし、役者もうまいし、ジョン・ウィリアムスの音楽も期待通りの出来。ニューヨークにやってきたクラコウジア(という架空の国)のヴィクターは、空港に降り立つ直前に自国でクーデターが発生したことからパスポートが無効になり、到着ロビーに足止めを食らってしまう。外に出ることもできないし、頼る人もいない。そんな中で生きる術を見いだし仲間を増やしていく主人公の懸命さは感動ものなのだ。約束を果たしに空港を出ようとするヴィクターを、多くの人が応援するクライマックスは、なかなか感動させられる。
スピルバーグ作品で劇伴以外のストーリー面で音楽が印象的な映画って、実はあまりない。敢えて挙げればプラターズの♪Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)を上手に使った「オールウェイズ」や、クインシー・ジョーンズを起用した「カラー・パープル」くらいなもので、他の映画ではひたすらジョン・ウィリアムズのダイナミックなスコアが全面に出ている。「ターミナル」ではジャズが重要な要素となっている。ラストの「サインは演奏の後で」の場面、本当に音楽を愛する人にはグッとくるはずだ。「プライベート・ライアン」みたいに大上段に振りかぶった大きなテーマを持つ作品ではなかなかお目にかかれない場面だ。スピルバーグのフィルモグラフィーの中ではやや小品(といっても飛行場をセットで建てるくらいだから大作なのかもしれないけど)。されどそうした作品にこそ、スピルバーグの愛がにじみ出している気がするのだ。噴水を造って彼女を待つ場面は、日頃のスピルバーグ映画では見られないいつもと違うワクワクが待っている。この辺りもフィルモグラフィー唯一の恋愛映画である「オールウェイズ」に通ずるところかも。
でもねぇ、これはやっぱりファンタジーなんだ。空港から出られない人間というシチュエーションを作り出すための設定もそうだ。案内表示にも出てくるから、クラコウジアには直行便が出るようなんだけど、ケネディ国際空港に直行便があるような国ならば、同じ目に遭うのはヴィクター一人であるはずがないじゃない。まずこの段階で無理あるゾ・・・と思ってしまう。スピルバーグは女優を見る目がない、と常々言われているのだけど本作も然り。キャサリン・ゼダ・ジョーンズが寂しい30代スッチー役だなんて納得いかんと思うのだ。高飛車で人を見下す位の役柄が似合う女優だもんね。どうもいつもの魅力は感じられない。一方でトム・ハンクスは「キャスト・アウェイ」の空港版みたいなもので(いいすぎ?)、あぁまた困難に陥ったのねと観客の期待する姿。80年代組である僕には昔のコミカルな彼が戻った気がしてちょっと嬉しかったりもする。現実味には乏しい。けれど人生がうまくいくかどうかって、結局は物事のタイミングだからやっぱり待つしかない。だからこそ、今を懸命に頑張っている人々に対する応援歌のような映画なんだよ、きっと。
(2004年筆)
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