◼️「悪なき殺人/Seules les bêtes」(2019年・フランス)
監督=ドミニク・モル
主演=ドゥニ・メノーシェ ロール・カラミー ダミエン・ボナール ナディア・テレスキウィッツ
絶対に予備知識なしに観るべき映画。どこを切り取ってもネタバレにつながりそうなので、深く語ることは難しい。フランスの山間部にある村で起こる女性の失踪事件を発端に、登場人物たちが不思議なつながりを見せていく。
映画全体は4つのパートで構成される。それぞれの中心人物はアリス、アリスの不倫相手の農夫ジョセフ、パリから村にやってくるマリオン、そしてアフリカで詐欺に手を染め一攫千金を狙うアルマン。そこにアリスの夫ミシェルが絡んで、事態は複雑に絡み合う。イニャリトゥ監督の「バベル」を思わせる映画ではあるが、不幸な出来事の連鎖が観ていて辛かった「バベル」とは違って、失踪した女性の身に何があったのかをめぐる謎解き要素が軸になっているだけに、「そうだったのか!」と腑に落ちた瞬間の映画的興奮がある。
人間は「偶然」には勝てない。
劇中登場する人物の言葉だが、その通りかけ違えたボタンから始まる負の連鎖は、観る前に想像していたものを超えてくる。
でも、そうした映画の構成以上に重要なのは、この映画は報われない愛の物語だということだ。脚本に仕掛けられたテクニックを称賛する声は多いけれど、それぞれの行動の裏側の気持ちこそ訴えたかったところ。しかしながら、それぞれの登場人物が抱える気持ちは、理解に苦しむものばかり。なぜ愛してしまった?なぜ寄り添う?なぜ受け止めてくれない?なぜ執着する?なぜ、なぜ。人とのつながりってなんだろう。共感できないまでも、それぞれの切なさはじんわりと伝わってくる。
ドミニク・モル監督の「マンク 破戒僧」をたまたま最近観ている。同じ場面を繰り返すミステリアスな演出や、素顔の分からない存在が出てくるところには共通点あり。