◼️「アキラ AKIRA」(1988年・日本)
監督=大友克洋
声の出演=岩田光央 佐々木望 小山茉美 玄田哲章
初公開当時に原作未読で映画館にて鑑賞。今回、You Tubeの無料配信で30余年ぶりの再鑑賞。初めて観た時、この込み入った難しい話をちゃんと理解するには原作に触れるしかないのかな、と思った。しかし、あの頃の他の劇場用アニメ作品では考えられないくらいに緻密で、いちいち構図がカッコよくて、実写を観ているかのような感覚になったのを覚えている。超能力を持った子供たちをめぐる国家プロジェクト。その暗部を暴くストーリーを魅力的に感じたけれど、一方でクライマックスのグロテスクな描写にちょっと嫌悪感を抱いた。
2021年の今観ると、多くの人が思うように現実との呼応に震える。第三次世界大戦後の荒廃した世界、2020年のオリンピックを控えたネオ東京。そして現実では、経済の低迷、震災、原発事故、パンデミックで社会と人々の心が荒廃した東京で、2020年のオリンピックは延期を余儀なくされた。また、能力を手にすることで鬱積していた気持ちが爆発して暴走に至るテツオの姿には、バブル景気の真っ只中だった公開当時よりも、気持ちを重ねる鑑賞者はきっと多いはずだ。
この作品が予言的だなどと崇めるつもりはない。だけど「もう始まっているんだよ」という謎めいた言葉が、今の現実につながっているのかもと思う気持ちは十分に理解できる。
初めて観た時は、問答無用に早いストーリー展開だと感じていたけれど、今観ると問題なく、むしろこれだけスピーディに話が進んでいくのに、無駄がない印象を受ける。人物像が掘り下げられるキャラは限られているけれど、行動と台詞できちんと納得させてくれるのは見事。
民族音楽的な劇伴もこれまでの日本アニメではなかったもの。後の「Ghost In The Shell」も無国籍な音楽が彩っていたが、「アキラ」は間違いなくその先駆けだ。巨大なクレーターを見下ろす構図で、打楽器の残響音が響く冒頭。これ、映画館で観たら、吸い込まれそうな気持ちにきっとなるだろう。