今年の11月に日本を代表する詩人・谷川俊太郎が老衰で亡くなった。詩集を読むのが好きだったオラにも俊太郎は生きる喜びを与え続けてくれた。というのも、ほかの作家の詩は解読が難しかったり、独りよがりだったりするなか、俊太郎の詩は構えずにしてその世界をふらりと入れてくれる。彼のデビュー作『二十億光年の孤独』(集英社文庫、2008.2)を再度取りよせて読んでみる。「二十億光年」とは当時言われていた宇宙の直径である。現在では900億光年を上回るという。
「二十億光年の孤独」の詩は、たった16行しかない詩だ。「 万有引力とは ひき合う孤独の力である / 宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う / 宇宙はどんどん膨らんでいく それ故みんなは不安である / 二十億光年の孤独に 僕は思わずくしゃみをした 」といったフレ-ズのリズムは終生変わらなかった気がする。17歳で詩作を初め、21歳で本詩集を刊行したこの青年はそのまんま変わらず老詩人となり、92歳で大往生を遂げる。海外でも人気がある俊太郎だが、本書には英訳付きの初文庫化と18歳の時の自筆ノートを収録している。
(好学社)
オラの子どもにもなんどともなく読み聞かせをしたのが、絵本の『スイミー』だったり、『もこもこ』だった。俊太郎は、哲学者の谷川徹三の一人息子として恵まれた環境に産まれ、不登校のときは模型飛行機づくりやラジオ組み立てに没頭するのが、本書の手記にも出てくる。だから、一人っ子の孤独を引きずりながらも、より広く宇宙の中での孤独や不安をも感じ取る。でも、最後はくしゃみしてしまう。そこに、俊太郎の真骨頂が仕組まれている。俊太郎青年はそんな孤独を感じつつもそれを越える「面白さ」や「好奇心」を発揮した青春にも踏み込んでいったのだった。
(文研出版)
その才能を見抜いた父は当時の大御所・三好達治に俊太郎の詩を見せたら、「穴ぼこだらけの東京に 若者らしく哀切に 悲哀に於いて快活に ーーーげに快活に思ひあまった嘆息に ときにくさめを放つのだこの若者は ああこの若者は 冬のさなかに永らく待たれたものとして 突忽とはるかな国からやってきた」と、絶賛した序詩を寄せている。
都会のTシャツを愛する『世間シラズ』の甘ったれ坊ちゃんは、恵まれた環境を十分に生かして言葉の連続革命を引き起こした。詩壇のビートルズだと思う。存命中にノーベル賞を与えても良かった逸材だ。