前回の「氷艶」は、歌舞伎界とスケート界とのコラボだった。今回は宮本亜門とスケート界とのコラボだ。今回も娘がそのスタッフとしてかかわっていたが、寝不足とストレスとでけっこう疲労困憊していたようだった。今回も源氏物語をベースにした「月光(ア)かりの如く」というエンターテイメントなストーリーとなっている。
会場は横浜アリーナ。ぞくぞくと入場者が駆けつけるが圧倒的に女性が多い。なかでも主演の高橋大輔の熱烈なファンが目立つ。亜門が言うには、プレイボーイのイメージから人間味あふれる光源氏を描こうとしたものだった。それは高橋大輔の持つ漂う「痛み」「孤独」の魅力をいかそうとしたという。
開演前はほぼ満席だった。高橋大輔は一度は引退してスケートから逃げたが、自分にとって「人生の軸となるのがスケート」でそれは競技することだけではないと覚醒したという。「自分を表現する場としてのスケート」ができることじたいが「現役」であることがわかり、その意味で「氷艶」は自分のこれからにとって大切な場である、と意気込む。
そして彼は、スケートと日本文化とのコラボの試みは、日本のみならず世界にとっても画期的な挑戦であることを見出す。したがって、大輔の縦横無尽のスケーティングは軽やかでぶれていなかった。出演者の衣装も平安朝を彷彿とさせ見どころの一つだ。
幕間は整氷車が出てくるところがふつうの劇場とは違う。光源氏がなぜ民衆から慕われるのかというところはやや説得力が欠けるが、源氏の挫折体験が人々の心をつなげて希望を示していくという亜門の狙いはわかる。ただし、陰陽師や女海賊の自死の展開が唐突でもう少し丁寧な内容にしてほしかった。
銀メダリストのステファンの容姿も気品と高貴とを醸し出し、多くの拍手が人気のほどをあらわしていた。また、村上佳菜子のスケーティングのキレも台詞も秀逸、平原綾香の歌と台詞もさらに目立った。意外だったのは、選手ではないのに若い福士誠治のスケーティングのうまさと存在感だった。
きょうで千秋楽。今回のもう一つの目玉は、いまはやりの、動きに応じて反応するマッピング=インタラクティブ・プロジェクションの「チームラボ」の活躍だ。これがなければ場面転換は単調になっただろう。これがあったおかげで大道具の多くが必要なくなり、場面転換を即座に実施できた。またプロジェクションだけでも十分アートになる。その意味で前回の歌舞伎とのコラボが礎となっているし、今後の可能性に道が拓かれた公演となった。スケート選手の次のステージの選択肢が広がったという意味でもステップアップとなった。個人的には蝦夷を主人公にした前回の脚本が大いに魅力的だった。