「在日」の梁石日(ヤン・ソギル)の『血と骨』(幻冬社、1998.2)をやっと読み終える。2段組の500頁を越える大作は、実父をモデルにした暴力・性・貧困・金融・食欲・狂気・「在日」・太平洋戦争前後・孤独・家族・男尊女卑などが交差する直木賞にノミネートされた傑作だ。
ビートたけし主演、崔洋一監督の映画にもなっていて、そのピッタリな暴力シーンも話題となったようだ。自己中心の「生」の欲望を貫く主人公の行末は、孤独と猜疑が最後までつきまとう。読みだすとぐいぐいと惹きつける筆力が次の世界をたたみかける。
日本にやってきた朝鮮人の暮しの貧困とコミュニティーの暖かさ、そして高圧的な日本人による差別もリアルに描いている。「血と骨」とは、血は母より受け継ぎ、骨は父より受け継ぐという朝鮮の歌からの引用だが、血も骨から作られるということを前提にした家父長制を象徴とした言葉でもある。このことがこの小説の骨なのかもしれない。
日本人による民族差別も朝鮮人のおぞましさもそれぞれリアルに描いているのが、作者の人間に対する姿勢を感じる。主人公である父を拒絶してきた息子は自問自答する。「断ち切ったはずの絆が、どこまでも鎖のように連綿とつながっている肉親という因果関係…。自分自身でもなければ他者でもない、この不可解な因果律を愛と呼べるのだろうか?」と。