都会にいたころ、路上観察に興味をもって自称「路地裏レンジャー」と名乗って路地裏を探検したことがあった。その路上観察の新進気鋭の学者のひとりが藤森照信教授だった。きょう、二俣で講演会があるというので午前中入場整理券を確保し、午後初めて教授の顔を拝見した。
会場は200人以上が来ていただろうか。マイナーとも思える異端の建築(史)家でもあるのに、これだけの参加者を集められるのはどこに魅力があるのだろうか。参加者の顔ぶれを見ると老若男女がそれぞれ揃っている。ふつう、講演会とかミュージアムのイベントでは、白髪の「ジジババ」が圧倒的だった。
その理由がわかった気がする。自然素材と環境にこだわる教授は紙の上の設計だけでは満足しなくて、つねに現場で職人と話し合いながら作り上げていく。「秋野不矩美術館」の施工は公共施設としては初めての着手という。地元の地主・公務員・製材所のバックアップで伐採した杉や檜を手に入れ、それを建築史家らしく古代にやっていた方法で削っていったという。
だから、木材が真直ぐではない。美術館のぬくもりのひとつはそんな魂がこもっているのだ。「自然素材とはそれぞれ個性ある不規則性から成り立っている」と語る。そうした仕組みが美術館内外にあるのを言われて改めて発見する。
美術館に行く途中、若い女性が「ここはまるでジブリみたいね」と彼氏に語っていたのが印象的だ。今回の「藤森照信展」で制作された茶室「望矩楼」はまるで宇宙船のようだ。その外壁の銅板3000枚は小学生のワークショップ授業でやってもらったのだという。
秋野不矩美術館建設にまつわる初めてだらけの苦心のエピソードを楽しそうに語る藤森教授。そこに漂う軽やかなフットワークが相手をそそるのではないかと思えた。
雰囲気が評論家の佐高信に似ているなーと思いつつ、むしろだれでも味方にしてしまう藤森教授の柔軟性が、異端の建築を世界に広めている核心のように思えた講演会だった。それは人間だけではなく、モノ・自然素材・環境に対しても同じなのだった。
藤森照信氏といえば出版社をまたがった「建築探偵」シリーズの著作がありますね。
処分したと思っていた1988から1990年にかけて朝日新聞社から刊行された3冊をまだ持っていました。断捨離不足のようです。
早速読み返して、といっても建築写真家増田彰久氏との共著なので観返して(使い方が変かな)見ます。
殆んどが洋館で、内装は和洋折衷の趣きのある建築が多かった記憶があります。
武兵衛さんにも興味がおありのようでしたらお借りしていた本の返却時に持参します。ご連絡ください。