藤田尚徳は1880年生れ、この『侍従長の回想』を書いた1961年は81歳だった。初版の解説は共同通信皇室記者の高橋紘。高橋紘は2011年没。今、手元の文庫版は2015年なので、解説は保坂正康に替わっている。
81歳の高齢で府立一中を経た頭脳明晰な海軍大将であるが、回想文として文章が明解、典拠は明示されていないが、しっかりした史実の蒐集であった。手慣れた編集者の筆が入ったものだと感じた。
藤田はメモ魔だったのかもしれない。1945年2月、天皇が広田弘毅に戦争の終結方向を尋ねた時の意見が詳細に書かれていた。
そこから見えることは、『昭和天皇独白録』に書かれた「戦争をした方がいいと述べ、…全く外交官出身の彼としては、思いもかけぬ意見を述べた」という広田の好戦的な人物評価はどうも実像と違っていたのではないか、と感じる。
近衛公爵亡き後、東京裁判で文官の戦争責任を広田一人に背負わせたという見方ができる。その糸口になろう。
なぜ1961年に、この本が世に出たのだろうか?60年安保の翌年ということから、天皇制の擁護にしようとしたのだろうか、…。