夢の話でございます
ええ・・・どうして そう猫を可愛がるのかというお尋ねでございますね
はい わかっておりますとも 合点承知・・・
では ありますが
随分とチビの頃に迷い込んできた猫がございましてね
こう掌に乗せて 包めるほどの大きさでございましたよ
その猫が来て半年ばかり経ちました頃
その頃のあたしは惚れたつもりの男と暮らしておりました
夏の暑い夜のことでございます
肌の上に こう 薄物かけて 暮らしてた男(ひと)と休んでおりました
と こう 胸が苦しいのでございます
指一本動かせず
横に寝る男(ひと)に救いを求めようとするのですが 聞こえるのは健やかな寝息ばかり
あたしはこんなに苦しいのに 恐ろしいのにどうして気が付いて助けてくれないのかしら
ちらっとそう思いもしました
閉じた瞼の裏にぼんやり白い貌(かお)が浮かんできまして その細面の顔の表情が見る間に恐ろしく崩れ変化していくのでございます
それは恐ろしゅうございましたとも
瞼裏にいっぱい広がる女に殺される
そう思いました
動けないのでございますから
もし目を開けることができたら その女はべったりと この身の上にへばり付いていたでございましょう
もう駄目だと思いました
そこへとんと乗ってくるものがあり その恐い女は姿を消しました
あの猫が 確かに隣の部屋におりましたのに どうやってか 戸を引き開けて助けに来てくれたのでございます
やっとどうにか目を開けますと猫は つつと枕元へ移動し 何かを追いかけるように 狙うように姿勢を低くしながら部屋の四隅を進み 開いた戸の隙間から隣の部屋へ
そのまま力が抜けて あたしはまた眠っておりました
夢さと言われれば夢であったのかもしれませんが 例え夢の中にしても あたしは猫に救われたのでございますよ
それからね 寝てしまえば それまでの男より よほど猫がよくなりました
愛しくかわいく
その時の男とは いつしか縁が切れちまいましたのさ
男は心も変えれば浮気もする
でも猫は こう普段は勝手してるようで いざという時 助けてくれる不思議な力を持っているのでございます
幽霊とかお化けとか くわばら くわばら
「そういうお前さんの猫だって猫又じゃなかろうか」ですって
かまいませんとも 猫又 おおきに上等でございますとも
おいといておくんなさいましな