秋しぐれ 風の市兵衛 (祥伝社文庫) | |
辻堂 魁 | |
祥伝社 |
15年前 片手落ちなお裁きで江戸の相撲取りでいられなくなった土俵の鬼とも呼ばれた鬼一磯之助
体を壊し 年齢も年齢
各地を巡る浪人相撲を引退し 江戸へ戻る
江戸には 置いてきた老母と妻と娘がいる
稼いだ金をせめて届けたい 詫びたい 苦労をさせただろう
だがー妻は死んで 独り残った娘のお秀は母の看病での借金の為に水茶屋で働いていた
働くうちに惚れた男・順吉の子供が お腹にー
それを知り相手の男の了見知りたさに会いにいく鬼一
相手の男の父親は それを強請と誤解する
そして他の人間に雇われて縁ができた唐木市兵衛に交渉を依頼する
元は武家の鬼一
その気概は娘にも受け継がれておりー
しかし娘のお秀はすぐには 15年も自分達を放っておいた父親が許せなかった
本当は一人じゃなかったことが嬉しかったのにー
父親の反対 何するものぞの順吉の勢いに それだけの娘ならばーとお秀のことが気にかかり始める順吉の父親
相撲の取り口が今少し丁寧ならば 大関間違いなしの相手との対戦に勝利する鬼一
だがー15年前の事件で鬼一を逆恨みする人間の襲撃があり
市兵衛が駆けつけるも 元々体が弱っていた鬼一は 娘のことを案じながら死ぬ
鬼一との取り組みで その相撲への魂に触れた相撲取り達が 鬼一の骨納めの場へ集まり その死を惜しむ相撲甚句をうたってくれるのだった
商人には向かぬ順吉には武家からの養子縁組がまとまりそうで
乗りかかった船で 市兵衛は順吉の父親からある交渉を頼まれる
それは お秀を順吉の嫁として養子先の家に認めさせるというもの
鬼一との取り組みで二度とも鬼一に勝てなかった相撲取りの言葉がいいです
その言葉ゆえに 今後 きっと大関になるのだろう この人は
そのように思えるのです
「あっしはこの歳になって 相撲とは何かということを あの相撲で鬼一さんに教えられやした
一生の宝物に なりやした」