吉良智子,平凡社新書 (2015/07).図書館で借用.
Amazon の「BOOK」データベースより*****
第二次世界大戦中、女性画家たちは戦争を描いた。長谷川春子、桂ゆき、三岸節子、そして女性画家集団・女流美術家奉公隊らによる数々の作品は激動の時代を生き抜いた女性たちの証であり、後世に語り継ぐべきものである。これまで語られることのなかった、「もうひとつの美術史」―。*****
図は昭和館のホームページ
http://www.showakan.go.jp/events/kikakuten/past/past20140315.html
から転載させていただいた,大東亜戦皇国婦女皆働之図・春夏の部で,当時の女性画家 25 人の合作.本書の口絵にはこれとともに秋冬の部も掲載されていて,こちらは 24 人の合作だそうだ.第二章では多くのページを割いてこの絵の各部について詳細に解説している.
桂ゆきのインタビューが掲載されていて,長谷川春子から「銃後の女性の生活」をみんなで合作するから下絵を描けと言われた.できないと言ったら,日本国のために労を惜しむのかと言われ,一策として当時の新聞雑誌で女性のの労働の写真を切り抜いてペタペタ貼り付けたら下絵ができちゃった...と語っている.しかしこのコラージュによる画面構成は当時としては斬新で,桂はこうした形で創作意欲を満たしたのかもしれない.
この絵は,戦争画として焼却されるところを長谷川春子の尽力で筥崎宮に保管され,現在秋冬のほうは靖国神社に奉納されている.
このように戦時中にリーダーシップを発揮したのは長谷川春子だった.彼女には戦争に対する疑いも否定もなかったらしい.本書では他に桂ゆきと,三岸節子 (彼女は皆働之図には不参加) について詳しく記述しているが,この二人は絵を描くため・あるいは食べるために,とりあえず長谷川につきあったようだ.
桂ゆきによれば,軍部から女流美術協会の油彩画用として油を2樽せしめ,甘くないドーナツを揚げたことがあるそうだ.腹を壊さなかったのだろうか? それとも食用油を油彩に用いていたのか?
本書の随所にある男性中心の画壇,さらに男性社会への批判は,どちらかといえば小気味よく感じられる.
藤田嗣治などの男性画家の戦争画を見たことがある.おおむね写実的大作で,軍部の意図とは別な,不気味な感動を呼ぶものがあった.いっぽう本書を読んだ後でも,女性画家の戦争画は絵日記のように見えてしまう.男性とはベクトルが違い (なぜ違うかは本書で分析されている),現在目にする桂ゆきや三岸節子の作品群とも全く違う.
ちまちまとした印刷ではなく,186cm x 300cm が2枚だという「皆働之図」を生で見たらその迫力にまた違う感慨が湧くことだろう.靖国参拝はごめんなので,展覧会などで公開して貰いたい.