
南木佳士 文春文庫(2015/7).
Amazon の「BOOK」データベースより*****
還暦を迎えて既に先端医療の現場を離れた医師・江原陽子。ある日、彼女のもとに、研修医を介して奇妙な「病歴要約」が送られてくる。そこには過疎の村で終末期医療に奔走してきた元同僚・黒田の半生が記されていた。「医師は悪党」という黒田の言葉に込められた真意とは?人生を丁寧に生きようとする人たちの強さが息づく物語。*****
読了後あとがきで,陽子は著者の処女作「破水」のヒロインであることを知った.でもこの小説は「破水」を読んでいなくても差し支えないように書かれている.
タイトルどおり,午前 7:08 から午後 11:13 までの陽子の一日が時間を追って記述される.著者も医者だというが,排泄の記述あたりが医学的?で興味深い.でもメインは上記のデータペースに紹介されている,黒田の半生記で,これが陽子の日常と交互に現れる.半生記は黒田が彼のところにやってきた研修医に書かせたというスタイルで,研修医自身の文章も紛れ込んでくる.複雑な構成だが読みにくくはなく,むしろ小説を面白くしているくらいだ.
尊厳死についても織り込まれているが,正面切って議論してはいない.
「悪党」という言葉が頻出する.16 トンは高校で「楠木正成は悪党の典型」と刷り込まれたため,先入観を持ってこの小説を読むことになったかもしれない.
陽子も黒田も著者も還暦かそれを少し過ぎた世代である.この年齢を強調した小説でもあるのだが,16 トンは一回り上のため,上から目線で読みがちなのになるのが残念.歳はとりたくないものだ.
単行本出版は 2013/1.