【社説】:①毎月勤労統計 調査を長年歪めた責任は重い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①毎月勤労統計 調査を長年歪めた責任は重い
長年にわたり、統計調査を歪ゆがめた責任の所在はどこにあるのか。政府は業務のずさんな実態にメスを入れ、再発防止策の検討を急ぐべきだ。
厚生労働省による毎月勤労統計の不適切な調査を受けて、政府は2019年度予算案を修正し、改めて閣議決定した。雇用保険の追加給付などを反映し、一般会計を6・5億円増額した。
行政の失態に伴う予算案の修正は、極めて異例だ。
給付が本来より少なかった人は、延べ約2015万人で、追加給付に必要な経費は総額約795億円に上る。システム改修などにも巨額の費用を要する。
大半は、企業や従業員の保険料で運営する労働保険特別会計から賄う。元々、必要なかった負担を国民に強いることになる。
勤労統計に基づいて算定される失業手当や育児休業給付、労災保険などで給付が過少だった。厚労省は対象者に対し、丁寧な情報提供を行い、着実に給付するよう努力しなければならない。
従業員500人以上の事業所はすべて調査の対象だが、厚労省は04年以降、東京都内は約3分の1の事業所に絞り込んでいた。実態と異なる調査結果となり、政府内からも「統計法違反の可能性がある」との指摘が出ている。
看過できないのは、是正する機会があったにもかかわらず、手立てを講じなかったことだ。
当初の作業要領には、抽出調査を容認する記述があったが、14年に削除された。18年1月分からは、本来の調査結果に近づけるため、データを補正していた。調査手法に問題があると担当部局が認識していた証左ではないか。
厚労省は、総務省の統計委員会で、04~11年の調査データの一部を廃棄、紛失したと明らかにした。今後のデータ修復が困難となるのは確実だ。不適切な対応にとどまらず、悪質な隠蔽いんぺい工作と疑われてもやむを得ない。
外部の有識者らで構成する特別監察委員会を活用し、厚労省は不祥事を起こした動機や、組織的な隠蔽の有無などを解明することが急務だ。そのうえで、組織体制の見直しを含め、抜本的な是正措置を講じることが大切である。
毎月勤労統計は、国勢統計や国民経済計算と並び、56の基幹統計の一つに位置付けられる。政策立案や学術研究、経営判断の基礎として利用されることも多い。
統計の重要性を十分に認識し、政府を挙げて、信頼回復に取り組まねばならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年01月19日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。