路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【提論・明日へ】:【激変時代に歴史の物差し】 宮本 雄二さん 宮本アジア研究所代表、

2019-01-21 11:00:50 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【提論・明日へ】:【激変時代に歴史の物差し】 宮本 雄二さん 宮本アジア研究所代表、元中国大使

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【提論・明日へ】:【激変時代に歴史の物差し】 宮本 雄二さん 宮本アジア研究所代表、元中国大使 

 ◆世界はどこへ向かうか

 歴史を知ることで初めて「現代」の意味が分かる。その「現代」は今、「大変な時代」を迎えているが、どれほど大変かも、歴史の物差しを使わないと分からない。

 世界は二つの意味で大変な時代を迎えている。

宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使

 宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使

   ---◆---

 一つは、われわれが住み慣れた第2次世界大戦後の国際システムがきしみ始めたということだ。 

 欧州にも米国にも反グローバリズムの波が起こり、内向きとなり一国主義の狭いナショナリズムが力を得ている。戦後の国際秩序が動揺し始めたのだ。そこに“異形”の世界大国、中国が登場し、米国はその台頭を抑え込む決意を固め、米中対立は国際関係の基本構造に組み込まれた。

 プーチン大統領のロシアも“先祖返り”を強め、ますます旧ソ連に似てきた。権威主義と自由民主主義とが、世界において影響力を競い合う時代となったという見方もある。そのような時に米国の大統領が権威主義好みなのは皮肉以外の何ものでもない。

 確かに米中の抗争は大きな衝突の可能性を秘めているし、民主主義と権威主義の対立構図は第2次大戦前夜を彷彿(ほうふつ)とさせる。時代はますます1930年代に似てきたという人もいる。29年のニューヨークの株価大暴落に端を発する大恐慌が世界経済を縮小させ、国内の経済危機が多くの国から理性を奪っていき“狂気の世界”が始まったのだ。

 今回の米中の貿易経済戦争が世界不況を招けば、世界がいつまで理性を保てるか分からなくなる。その危険性は現にある。だから米中を衝突させるわけにはいかない。

 だが、さほど悲観的になる必要もない。あの頃は「持てる国」と「持たざる国」、つまり現状肯定派と否定派との間の必死の抗争だった。今、中国とロシアは十分な国土を持ち、特に中国は現在の国際秩序から最大の恩恵を被っている。この面で中国は現状肯定派だ。それでも米中の主導権争い、地政学的対立とイデオロギー抗争は残る。米国は経済では手を打つかもしれないが、折に触れて中国を揺さぶるだろう。摩擦は続く。

 要は経済を悪化させないことだ。経済を悪化させずに米中の対立をコントロールできれば最悪の事態、つまり戦争は回避できる。現在の国際システムの動揺は、大きな変化にシステムが適合できなくなった結果だ。現行の国際秩序を放棄するのではなく、修正し改善することこそが目下の急務なのだ。

   ---◆---

 二つ目の理由は、急速に進化する技術革新にある。ものの本によれば、物質が構成する世界(アトム)と情報が構成する世界(ビット)において、急速な進化が生じていることが今日の変化の根源にあるらしい。科学技術の世界は、異次元の変化の時代に突入している。変化は格段に速く影響はあらゆる面に及ぶ。人類は未曽有の世界に足を踏み入れているのだ。

 人類は何度も技術革新による大変化を経験している。旧石器時代から今日まで、その連続と言ってよい。しかしながらこれから経験する変化のスピードは尋常ではない。人類の知恵が果たしてその速度についていけるのか、科学音痴の私にはわからない。だが人間が経験を消化し適応するには必ず時間が必要だ。人類はこの急激な変化に本当に対応できるのだろうか。

 第一の挑戦は人間の愚かさからくる。日本は“狂気の世界”から距離を置き、むしろ世界を正しい方向に引っ張りたいものだ。第二の挑戦は人間の生物学的構造が持つ弱点そのものとなる。この弱点を再び機械が補うことになれば人間は限りなくロボットに近づく。難しい時代に入ったものだと、しみじみ思う。

 【略歴】1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。

 =2019/01/21付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【提論・明日へ】 2019年01月21日  11:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【社説】:巨大IT企業 透明公平な事業ルールを

2019-01-21 10:56:30 | 【経済・産業・企業・起業・関税・IT・ベンチャー・クラウドファンティング

【社説】:巨大IT企業 透明公平な事業ルールを

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:巨大IT企業 透明公平な事業ルールを 

 スマートフォンや情報検索、会員制交流サイト(SNS)、ネット通販などは今や日常生活に欠かせぬ道具やサービスだ。

 提供者はプラットフォーマー(PF)と呼ばれる巨大IT企業で、米国のグーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン・コムの4社が代表格だ。

 その頭文字から「GAFA(ガーファ)」と呼ばれ、いずれも検索や買い物、投稿などを通じ膨大な個人データを集めている。ここにきて不透明なデータ利用をはじめ、市場での優越的な地位の乱用、適正な課税の在り方などの問題が世界的に指摘され、ルール作りや規制強化に向けた動きが活発化してきた。

 PFにとっても取引先や消費者から安心感や信頼を得ることは不可欠だ。技術革新の実態に合った、透明で公平なルールや事業環境の整備を進めたい。

 PFのビジネスは、主にウェブ上にモノやサービスを必要とする人と提供する人を仲介する場をつくり、その取引に関わる利用料や手数料などの課金で成り立っている。特徴は、規模が大きくなるほど利便性も高まり寡占が進むほか、サイトを閲覧した人の年齢や性別、嗜好(しこう)など膨大な個人情報もビジネスの源泉になることだ。GAFAの株式時価総額は計284兆円で、実に東証1部上場企業全体の579兆円の半分に相当する。 

 しかし、弊害や問題も目立ってきた。昨年、フェイスブックで利用者8700万人分のデータ流出が問題化したのは記憶に新しい。先日はグーグルの日本法人が申告漏れを指摘されていたことも分かった。

 PFの運営する市場に出店する事業者が、一方的に契約変更や過大な手数料支払いを迫られるなど、市場支配力を背景にした圧力も指摘されている。

 こうした事態に、政府も昨年末、PFに対して重要な取引条件の情報開示などを求める「基本原則」をまとめ、今年から経済産業省、総務省、公正取引委員会が振興と規制の具体策作りを進めている。弁護士や情報工学の専門家らによる監視機関の設立も視野にあるといい、実効性のある対策を求めたい。

 また、巨大IT企業が国境を超えた事業活動で巨額の利益を上げながら、事業規模にふさわしい課税を逃れているとの批判も強い。20カ国・地域(G20)の会合などで課税ルールを議論し、調整することが急務だ。

 今やPFがネットで提供するサービスは社会インフラとも言える。まずはPFの運営管理体制の透明化を進めたい。個人データの厳重管理はもちろん、その提供・利用について、サービス利用者本人がコントロールできる環境整備も考えたい。

 =2019/01/21付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年01月21日  10:56:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【春秋】:戦時中、甘みに飢えた子どもたちは絵の具を口にした…

2019-01-21 10:42:30 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍の功罪・東京大空襲他・犠牲者へ無補償

【春秋】:戦時中、甘みに飢えた子どもたちは絵の具を口にした…

  『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:戦時中、甘みに飢えた子どもたちは絵の具を口にした… 

 戦時中、甘みに飢えた子どもたちは絵の具を口にした。先日の小欄で脚本家の回顧談を紹介したところ、福岡市西区の木村範孝さん(84)から「小生も体験した」と便りをいただいた

 ▼やはり戦中のこと。誰が発見したのか「水彩絵の具の白や黄色が甘いぞ」と言う者がいた。半信半疑でなめると、まさに。「次々になめて口の周りや舌を真っ白や真っ黄色」にして先生から叱られた友達もいたという

 ▼木村さんの体験は現在の韓国・大邱(テグ)でのもの。脚本家は山形県。恐らく縁のない両地で子どもたちは同じ大発見をしていた。渇望の中で精いっぱいの知恵を巡らせたのだろう

 ▼終戦を木村さんは大邱で迎えた。「現地住民による放火、略奪で極度に悪化」する治安。財産は一切放棄させられ、帰国の荷はリュックに入る分だけに制限された

 ▼小学5年生だった自身以下、4歳の弟まできょうだい5人。戦地の父親に代わり母親は全員を無事、博多港へ連れ戻した。自決用の青酸カリを忍ばせて。苦難の引き揚げだが、満州や北朝鮮からに比べればまだ恵まれた方だったと振り返る 

 ▼小児外科医となり九州大助教授を務めた。今も診療勤務の合間、当時の体験を書き留めている。命が尽きれば「記憶が永久に失われてしまう」と感じて。「平和のありがたさと、命は一つしかない大切なものということ。どうかかみしめてほしいのです」。貴重な伝言に耳を澄ます。

 =2019/01/21付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年01月21日  10:42:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:気前が良過ぎませんか

2019-01-21 00:20:50 | 【防衛省・自衛隊・防衛費、大綱・沖縄防衛局・軍需産業・Jアラート・シェルター】

【時代ななめ読み】:気前が良過ぎませんか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:気前が良過ぎませんか 

 何と景気のいい話であろうか。いや、マグロの初競りの話題ではない。政府が昨年末に発表した新防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)のことである。

 政府は米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35を現行の42機体制から147機体制にするという。新たに105機買い足すことになる。F35の値段は1機116億円。つまり総額約1兆2千億円のお買い物なのだ。1兆円ですよ、1兆円。

 中期防に盛り込まれた米国製高額兵器はこれだけではない。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は1基1224億円。2基導入なので2448億円なり、である。

 日本政府はこうした最新兵器を主に米国の対外有償軍事援助(FMS)という制度で購入している。この制度だと値切りにくく「言い値で買わされる」傾向があるという。FMSによる兵器購入は、2019年度予算案で7013億円に上る。5年前に比べて3・7倍の急増ぶりである。

 財政に余裕があるならともかく、消費税率が引き上げられる時代に、米国にはこの大盤振る舞いだ。 

 少し気前が良過ぎはしませんか。

   ◇    ◇

 安倍晋三政権による米国製兵器「爆買い」の背景にあるのは、もちろん「バイ・アメリカン(米国製品を買え)」を掲げるトランプ米大統領からの圧力だ。

 2017年11月に来日したトランプ大統領は、記者会見であからさまに米国製兵器購入を要求した。

 「(日本は)米国からさまざまな防衛装備を購入することになる。多くの雇用が米国で生まれるし、日本がもっと安全になる」

 最近は、こんな解説もある。安倍政権は米国製兵器を大量に買うことで、貿易赤字解消を最優先するトランプ大統領の怒りの矛先をかわし、日本車に高関税をかけられるのを防ごうとしている-。そんな高等戦術だというのだ。

 一見戦略的のようだが、米国の産業界からは、日本はこう見えていることだろう。「大統領がちょっと車の関税で脅せば、戦闘機を1兆円買ってくれる国」

   ◇    ◇

 「軍産複合体」という言葉がある。兵器を必要とする軍・国家と、兵器を生産する産業が強く結びついた状態を指す。米国ではこの「軍産複合体」が国家政策をゆがめているとの指摘がある。平和が続けば軍需産業はもうからない。だから米国は戦争と軍拡をやめられない、という見方だ。

 私が最近感じているのは「米国の軍産複合体の構造に、日本がすでに組み込まれているのではないか」という不安である。

 米国と中国が軍拡競争をする。安倍政権下で米国との軍事的一体化を強める日本は、米国側に立って中国との軍拡に参加せざるを得ない。防衛費は膨らむ一方で国民生活を圧迫するが、米国の軍需産業は笑いが止まらない-。そんな未来が見えてきそうだ。

 どこかで日本が米中の橋渡しをして、軍拡から軍縮へと局面を転換しなければ「軍需産業栄えて国滅ぶ」にならないか。実際に旧ソ連は、米国と国力以上の軍拡競争を繰り広げた結果、国家が崩壊したのだ。

 国と地方の借金は合計で1千兆円を超えている。日本は財政的にも「軍縮」しか選べないはずなのだが。 (特別論説委員)

 =2019/01/13付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2019年01月13日  10:40:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:「暑いな」とデスクは言った

2019-01-21 00:20:40 | 【皇室・天皇・褒章・皇后・皇太子・元号・宮家・皇室財産・皇族の戦争責任】...

【時代ななめ読み】:「暑いな」とデスクは言った

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:「暑いな」とデスクは言った 

 平成最後の年が明けた。節目といえば、今からちょうど30年前「昭和が終わった日」のことを思い出す。

 昭和64(1989)年1月7日。闘病中だった昭和天皇が亡くなったのはこの日の午前6時33分だった。午前5時ごろから皇居周辺の慌ただしい動きが伝えられ、報道機関もそれを受けて早朝、緊急報道態勢の立ち上げを急いだ。午前7時55分、宮内庁長官が「天皇陛下崩御」を発表した。

 当時入社7年目で警察担当だった私はこの朝、警察署をのぞいて格段の混乱が起きていないのを確かめると、夕刊の紙面づくりを手伝うため社に上がった。

 一時代の終わりを報じるという緊張感が漂う編集局で、電話受けなどをしていたところ、社会部のデスクが私に声をかけた。

 「おい永田、今日は暑いな!」
 「はあ?」
 「気象台に取材してどのくらい暑いか記事にしろ」
 「はあ?」 

   ◇    ◇

 「暑い」は大げさだが、確かにその日は1月にしては相当暖かかった。改めて気象台の記録を調べると、89年1月7日の福岡の最高気温は16・5度、最低気温は10・5度とある。

 とはいえ、またどうして激動の昭和が終わろうという時に、お天気の記事を書かせようとするのか。眉毛のないこわもてデスクだったこともあり、取りあえず逆らわないで気象台に電話したが、そのうち私にもデスクの意図が分かった。

 紙面を「崩御一色」にしたくなかったのだ。

 昭和天皇は前年の9月に大量吐血され、その後は深刻な容体が続いていた。その影響で社会に「自粛ムード」が広がった。祭りが中止され、CMののんきなせりふが変更された。「不謹慎」の批判を恐れ、同調圧力に屈しての自主規制が日本社会にまん延していた。

 そうした空気の中でこの日を迎えれば、マスメディアも「悼む」報道一色となりかねない。「『○○一色』は危うい」というのが、昭和という時代の教訓ではなかったのか。そういう問題意識があった。

   ◇    ◇

 私が夕刊に書いた「4月中旬の陽気 暖かい七草」の記事は「吉本興業も公演中止」の記事の横に小さく掲載された。

 当日の紙面を今眺めると、結果的に1面から社会面までほとんど関連記事で埋められ、やはり一色化してしまった感は否めない。

 しかし、新聞はその日の市民の興味深い動きを書き留めている。

 翌8日の本紙朝刊。テレビ局が娯楽番組を全面的に中止し「天皇特番」に切り替えたことで、福岡市や北九州市のレンタルビデオ店が「普段の5倍前後」の客でにぎわったと報じた。

 「夕刊の番組欄を見てあぜんとした。こんな日はビデオしかない」という利用者の声も載っている。

 私とデスクが心配するまでもなく、市民はごく自然体で「一色」に染まるのを拒んでいたのだった。

 「新聞は国民の日記」という言葉がある。実際「あの日の日本で何があったか」を調べるには、古い新聞を繰るのが一番早い。この記録性が新聞の重要な役割の一つである。

 さしずめ私は、昭和最後の日の「九州の日記」に「お天気」を忘れずに書き込んだ、ということだろう。 (特別論説委員)

 =2019/01/06付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2019年01月06日  10:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:「慣れないぞ」年の瀬に誓う

2019-01-21 00:20:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:「慣れないぞ」年の瀬に誓う

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:「慣れないぞ」年の瀬に誓う 

 年末は、レコード大賞とかミステリー大賞とか、各種の年間ランキングが発表される季節である。

 もし「放言・暴言政治家大賞」というのがあるとすれば、今年の大賞を麻生太郎財務相に贈りたい。読者にも異論はないと思う。

 麻生氏が今年放った発言の数々を列記してみる。

 「(環太平洋連携協定=TPP=締結署名について)日本の新聞には1行も載っていなかった。森友の方がTPP11より重大だ、と考えているのが日本の新聞のレベル」(3月)

 「(財務事務次官の女性記者に対するセクハラについて)はめられて訴えられているんじゃないか、とかいろいろなご意見は世の中いっぱいある」(4月) 

 「(財務省の決裁文書改ざんに関し)バツをマルにしたり、白を黒にしたりしたような、改ざんといった悪質なものではないのではないか」(5月)

 「『自分で飲み倒して運動も全然しない人の医療費を健康に努力している俺が払うのはあほらしい』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思った」(10月)

 「(国立大卒の市長について)人の税金を使って学校に行った」(11月)

 まだあるが、あの口調が頭に浮かんできたのでこの辺でやめる。ちなみに最初の発言の「TPP締結が日本の新聞には1行も載っていなかった」というのは事実ではない。こうなると放言というよりウソである。

   ◇    ◇

 麻生氏に限らず、こうした政治家たちの放言、暴言をなぜ新聞は報じるのか。

 書かれる政治家や一部の読者は「記者は政治家の放言を今か今かと待ち構えていて、いったん出れば『それっ』とばかりに飛び付き、大喜びでたたく」と考えているかもしれない。

 違う。ぜんっぜん違う。

 われわれ記者も本当は政治家の低レベルの発言などいちいち報じたくない。仕事のエネルギーはもっと前向きなことに使いたい。

 しかし同時に「このレベルの発言が当たり前になっては困る」とも思う。一つ一つ「これはおかしい」と指摘していかなければ「事実と見識に基づく議論」という民主主義の底が抜けてしまうのではないか。そんな危機感である。暴言や放言に「慣れてはいけない」「慣らされてはいけない」の一心で、この徒労めいた報道を続けているのだ。

   ◇    ◇

 人間の順応力というのはたいしたもので、異常な状態にも意外とすんなり慣れてしまうものだ。

 分かりやすい例が、においである。部屋の中に悪臭がこもっていたとする。最初は顔をしかめていても、しばらくすると気にならなくなる。悪臭を感じるのは本来、体に害を与える物質の存在を知らせる意味があるのだが、慣れるとその警報に気付かなくなる。

 政治家の不適切発言も、たびたび聞かされているうちに「たいしたことない」と思ってしまう。そこが危険だ。事実に基づかない言葉や人を傷つける乱暴な言葉が横行し、民主主義の土台が切り崩されていく。米国民もすでにトランプ大統領の暴言にかなり無感覚になっているのではないか。

 慣れたら誰かの思うつぼだ。誰の? そこはよく分からないのだが、なぜかそんな気がする。

 「慣れないぞ」「慣らされないぞ」と年の瀬に誓う。 (論説副委員長)

 =2018/12/30付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年12月30日  10:49:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:幸福な曲「クリスマス・イブ」

2019-01-21 00:20:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:幸福な曲「クリスマス・イブ」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:幸福な曲「クリスマス・イブ」 

 雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう

 クリスマスの歌は世界に数々あれど、日本のクリスマスはやはりこれでしょう。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」である。

 ところで私は19年前、山下さんにインタビューしたことがある。その時にこんな質問をした。

 「毎年毎年、この季節になると街中で自分の歌が聞こえてくるのって、いやになりませんか?」

 奇をてらったわけではないし、挑発するつもりもない。あれだけかかればうんざりするのでは、と本当に疑問だったのだ。山下さんはこの失礼な記者にどう答えたか-。

    ◇    ◇

 「クリスマス・イブ」は1983年にアルバム収録曲として発表され、その冬にシングルカットされた。発売当初のオリコンチャートランクは44位だった。

 その後100位外に落ちたが、CMに起用されて人気がじわじわ上がり、6年後の89年12月に初のシングルチャート1位となった。

 それ以降毎年冬になるとランクインを繰り返し、今年も12月10~16日の週にランク47位に登場。33年連続の100位入りである。

 2016年には「日本のシングルチャートに連続でランクインした最多年数」としてギネス認定されている。日本の音楽史に残るロングラン・ヒットなのだ。

   ◇    ◇

 さて冒頭の質問に、山下さんはいかにも心外といった表情で「ならないっ」と断言。その後で理由を説明してくれた。

 「ほとんどのミュージシャンの場合、自分で考えるベスト・ソングが、ベスト・ヒットになっていない。ミュージシャンはそれで悩んだりもするんだけど」

 「でも僕の場合、『クリスマス・イブ』は間違いなく最もよくできた3曲のうちの一つ。それが一番有名な曲になっているというのは、僕にとってとても幸運なことなんです」

 なるほどなあ、と今思う。物をつくる人間にとって、自己評価と周囲の評価はしばしば食い違う。会心の作が全く評価されなかったり、失敗と思う作品が褒められたり、とか。

 そこで周囲の声にとらわれ、自分を見失うことも多い。センスのいいバンドがダサい歌謡曲のような曲をやらされて売れた結果、方向性が分からなくなって解散-とか、よく聞く話だ。

 周囲の評価と自分自身のどちらを信じるか。理解されない日々をどう過ごすか。ミュージシャンに限らず、仕事を世に問う人々に共通のテーマである。

 「クリスマス・イブ」も1位まで6年かかった。

   ◇    ◇

 私はほぼ毎年、山下さんのコンサートに行く。

 ある年のステージで、山下さんは「年末になるとマンションの管理人さんが『山下さん最近忙しいでしょう』と言うんだけど、曲が忙しいんであって俺が忙しいわけじゃない」と語り観客を笑わせていた。冗談めかしつつ、自分を離れても残るスタンダード曲を作った自負、と受け止めた。

 自分が目指すものと世間の評価との幸運な一致。歌詞を読めば失恋の歌だが、聞いていてなんだか温かい気持ちになるのは、この曲自体がまれに見る「幸福な1曲」だからなのだろう。

 明日の夜、私は空を見上げて雪を待つ。 (論説副委員長)

 =2018/12/23付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年12月23日  10:47:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:「お笑い米軍基地」の戦い

2019-01-21 00:20:10 | 【米国・在日米軍・地位協定、犯罪・普天間移設・オスプレー・安保】

【時代ななめ読み】:「お笑い米軍基地」の戦い

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:「お笑い米軍基地」の戦い 

 「おまえが落としたのは金のおのか、銀のおのか」

 池から現れた神様は、次の場面でこう言う。

 「おまえが落としたのはこの米軍ヘリの窓か?」

 客席はどっと沸く。観客にとっては言うまでもなく、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属ヘリコプターが昨年12月、隣接の小学校に窓を落下させた事故をネタにしたコントだ。

 沖縄で人気の演劇公演「お笑い米軍基地」の舞台は、こんなひやひやする危ない笑いの連続である。 

   ◇    ◇

 「お笑い米軍基地」公演を主宰するのは小波津正光さん(44)。沖縄の芸能事務所「FECオフィス」に所属する芸人である。

 2005年にFEC所属タレントを率い、基地問題をネタにしたコントや演劇を詰め込んだ「お笑い米軍基地」の公演を始めた。毎年新作公演を続け、今年の夏で14年を数える。

 第1回公演のコント「フェンス」はこんな内容だ。

 米軍基地の外で野球をしている少年たち。ボールがフェンスを越えて基地の敷地に入ってしまう。取りに行こうとするが、警備の米兵に阻まれて入れない。

 少年たちと米兵が押し問答をしている最中、基地の中でバスケットボールをしていた米兵の子どもたちのボールが基地の外に飛び出す。彼らは何の妨害もされずフェンスの外に出て、ボールを回収して戻る。それを見ていた沖縄の少年たちは言う。「なんで?」

   ◇    ◇

 「社会派ですね、とか言われるが、ひねってはいない。沖縄で起きていること自体がそのままコントなんだ。それを気付かせるのが腕の見せどころ」と小波津さんは語る。

 沖縄に基地が存在するために起きる理不尽。それを笑いに変換して見る者に提示する。観客たちは「笑った後で考えさせられた」との感想を漏らすという。

 ネタにされるのは米軍や自民党政権だけではない。故翁長雄志(おながたけし)前知事や基地反対派の住民も、しばしば笑いの対象として登場した。教条的ではない「タブーなく笑い飛ばす」精神が彼らの真骨頂である。

 国と沖縄の対立が強まる普天間飛行場の辺野古移設問題で、小波津さんは、こんな提案をする。

 「AKB48のじゃんけん大会みたいに、全都道府県の代表が毎年、武道館でじゃんけん大会をして、それで負けたところがその年、基地を引き受けたらどうか。それをゴールデンタイムに生中継する。盛り上がるよー」

 笑わせた後で、鋭い怒りをのぞかせる。

 「そうしたら、基地負担が沖縄の問題じゃなく、日本全体の問題だと分かりそうなもんじゃないですか」

   ◇    ◇

 「14年間ネタに困ったことはない。毎年何かしら起きるし、何かしら落ちる」と小波津さん。「ネタに困らない」のは、基地を巡る状況が一向に変わらないことへの嘆きでもある。

 「世界最強アメリカ軍に、世界最弱沖縄お笑い芸人が立ち向かう」。これが「お笑い米軍基地」のキャッチフレーズだ。最弱と自称しつつ彼らなりの武器で、基地の矛盾と理不尽を社会に突きつけていく戦略性はなかなかしたたかだ。

 「最弱集団」の武器は、銃でも戦闘機でも軍艦でもない。「笑い」である。 (論説副委員長)

 =2018/12/16付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年12月16日  10:45:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:「待ちに待った」戦争だった

2019-01-21 00:20:00 | 【第二次世界大戦・敗戦・旧日本軍の功罪・東京大空襲他・犠牲者へ無補償

【時代ななめ読み】:「待ちに待った」戦争だった

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:「待ちに待った」戦争だった 

 「米英二国の理非横暴を撃砕するには、実力行動によるの外なきを深く思念したる日本の一億国民が待ちに待った対米英戦争は開始された」

 「この壮絶無比なる歴史上の大作戦、大壮挙の展開によって、身も心も一時にピンと引締(ひきしま)るの感を切にするのである」

 ちょうど77年前の1941(昭和16)年12月9日。同日付の福岡日日新聞(西日本新聞の前身)1面には前日の太平洋戦争開戦を受けた社説が掲載された。社内データベースで紙面の画像を検索し、開戦の社説を書き写してみた。印面が悪く虫食い部分が残るものの、ほぼ全文判読できた。

 冒頭の一文に絶句した。この時代、報道機関に対する軍部の圧力は強まる一方であり、戦意高揚の社説だろうとは予想していたが、それにしても「待ちに待った戦争」とは…。

 さらに気になるのは、この社説に漂う妙な高揚感だ。私も文章を書く身だから気付くのかもしれないが、社説の筆者がこれを「いやいやながら書いた」とは、どうも思えないのだ。 

 社説は、米英がいかに横暴で日本がいかに耐え忍んできたかを延々と述べた後、「起(た)て!大和男児(おのこ)、奮(ふる)え!大和撫子(なでしこ)」などと威勢良く締めくくっている。

   ◇    ◇

 8月に出版された「朝、目覚めると、戦争が始まっていました」(方丈社)は、開戦の一報を聞いた当時の日本国民がそれをどう受け止めたかをまとめた本である。知識人や作家の回想録などから抜き出した。

 「こういう事にならぬように僕達(ぼくたち)が努力しなかったのが悪かった」(ジャーナリスト・清沢洌、当時51歳)などと否定的に捉えたのは少数にとどまっている。

 「神々が東亜の空へ進軍してゆく姿がまざまざと頭のなかに浮(うか)んで来た」(作家・火野葦平、34歳)

 「維新以来我(われ)ら祖先の抱いた無念の思いを、一挙にして晴す(はら )べきときが来たのである」(作家・亀井勝一郎、34歳)

 出口の見えない日中戦争。難航する対米交渉。その閉塞(へいそく)状況を打破するかのような開戦の報に、国民はゲームのリセットにも似た解放感を抱いたようだ。

 「うれしいというか何というかとにかく胸の清々(すがすが)しい気持(きもち)だ。(中略)ラジオのきこえるところ至るところにひとびとが群れている。夕刊は瞬く間に売れつくした」(詩人・黒田三郎、22歳)

   ◇    ◇

 議会政治を力ずくで牛耳った軍部が、報道統制でメディアを抑え込み、戦争に懐疑的な国民を抑圧して戦争に突入していった-。太平洋戦争に至る経緯を教科書的にまとめるとこうなるだろう。しかし私はこの公式を疑い始めている。

 むしろ実態は、軍、政治家、メディアと国民が「日本は正しい」「日本は強い」と自己陶酔の言葉を唱えて手を取り合い、破滅への道を進んでいった-そんな共犯関係ではなかったか。

 開戦の社説を読むと、米英の非を難ずるだけで「世界からは日本のやっていることはどう見えるか」の視点が欠けていると気付く。国家間のトラブルを交渉で解決する辛抱を失い、国民が「日本は正しい。悪いのは全て相手国だ」という一面的な価値観に染まった時に「戦争を待ちに待つ」空気が広がる。それが怖い。 (論説副委員長)

 =2018/12/09付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年12月09日  10:40:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:野糞(のぐそ)のごとき君であれ

2019-01-21 00:19:50 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:野糞(のぐそ)のごとき君であれ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:野糞(のぐそ)のごとき君であれ 

 最初に読者の皆さんに、二つほどお断りしておきたい。第一に、今回の見出しの冒頭にある単語は「野菊」の誤植ではない。

 第二に、今回はこの単語が頻繁に出てくる。あまり美しい言葉ではないが、ご容赦いただきたい。

   ◇    ◇

 本田靖春(1933~2004)は、新聞記者からノンフィクション作家に転じたジャーナリストだ。

 読売新聞記者時代は、売血による輸血用血液確保の弊害を告発する「『黄色い血』追放キャンペーン」を展開、大きな成果を上げた。退社後は「誘拐」「私戦」など優れたノンフィクション作品を世に出した。 

 彼の仕事で特筆されるのは、犯罪に手を染めた人間をただの悪人として切り捨てるのではなく、そうした人間たちを真摯(しんし)に見詰めることによって、犯罪の背後にある社会構造のゆがみを告発していることだ。

 本田の批判の矛先は、弱者を踏みつけにする権力と、そこにすり寄る報道にも向けられる。権力と報道の関係を描く「不当逮捕」は戦後ノンフィクションの最高峰の一つと評される。

 その本田は、強者と向き合う自分の姿勢を「野糞(のぐそ)精神」と書き記している。

 「野糞は、それ自体、立ち上がることはできず、まして、相手に飛びかかって噛(か)みつくなぞは絶望的に不可能である」

 「でも、踏みつけられたら確実に、その相手に不快感を与えられる」

 せめてそれぐらいの存在になれ-と、本田は後輩たちに語っていた。それにしても強烈な例えである。

   ◇    ◇

 本田を直接知る人に会った。講談社常務取締役の渡瀬昌彦さん。編集者として長年、本田と公私にわたる親交を重ねた。

 -どんな人でした?

 「随分酒席に付いていきましたが、一緒にいて本当に楽しい人でした」

 -えっ、厳しく説教くさい人かと思ってましたが。

 「全然違う。例の『野糞精神』にしても、飲みながら『野糞のごとき君なりき…そういう感じだよな』とぼそっと語る、そんなスタイルでしたから」

 -その言葉を聞いて、どう解釈しましたか。

 「社会の木鐸(ぼくたく)とか言われていい気になってはいけない、権力者に一泡吹かせてこそジャーナリズムだよ、という反骨精神。『俺はへそが横に付いている』とも言ってました。人間的魅力にあふれ、なおかつ怒ると怖い人でした」

   ◇    ◇

 長期に及ぶ安倍晋三政権下でメディアの二極分化が進んでいる。一部のメディアは政権称賛を繰り返し、それが世論の一定の支持を得ている。何しろ記者会見で官房長官に食い下がる記者がネットで攻撃されるご時世なのである。

 渡瀬さんに「本田さんの『野糞精神』って、もう古いんでしょうか」と聞くと、「永田さんはどう思います?」と問い返された。

 私は本田の言葉を反芻(はんすう)する。古くない。こういう時代だからこそ、ますます重みを増している。講談社は来年から同社のノンフィクション賞に「本田靖春」の名を冠するそうだ。

 今の新聞は、当代の権力者にとって「野糞」の存在感を保っているか。12月4日は本田の命日だ。私は心の中で「野糞忌」と呼ぶ。本田は怒るだろうか。 (論説副委員長)

 =2018/12/02付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年12月02日  10:45:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:地面師と景気の関係は

2019-01-21 00:19:40 | 【経済・産業・企業・起業・関税・IT・ベンチャー・クラウドファンティング

【時代ななめ読み】:地面師と景気の関係は

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:地面師と景気の関係は 

 東京都品川区のJR山手線五反田駅から南西に約300メートル。廃業した古い旅館の前を、サラリーマンたちがこんな会話を交わしながら通り過ぎる。

 「ここかあ。さすがにいい場所だよなあ」「これなら飛びつきますよねー」

 大手住宅メーカー「積水ハウス」が架空の土地取引で約55億円をだまし取られた事件。「地面師」と呼ばれる詐欺師集団の巧妙な手口が世間の関心を集めている。そのグループが自分の所有であるかのように装って積水ハウスに売りつけた土地がここである。

 すぐ近くでは13階建ての複合ビルも建設中だ。東京五輪を前にした首都圏の再開発ブームが地面師たちを動かした。地面師事件の発生はある意味で景気のバロメーターなのである。

   ◇    ◇ 

 私も警察担当時代に、地面師が関わったとみられる事件を取材したことがある。今からちょうど30年前、1988年のことだ。

 同年11月、福岡法務局で不動産登記簿の原本7枚が抜き取られているのが発覚した。その前後、数人の男が不審な動きをしており法務局が身元不詳で告発、福岡中央署が捜査を始めた。

 警察の見立ては地面師グループの関与だった。原本を持ち出して所有権などを書き換えた上で登記簿に戻す。後日その登記簿の写しを使って正当な所有者になりすまし、第三者に土地を売りつける-こんなシナリオを描いたと思われた。

 現在は登記簿の原本は電子化されているが、当時は所定の手続きを取れば原本そのものを閲覧できた。今考えれば相当不用心なシステムだったので、このような手口が可能だった。

 原本抜き取りの時点で発覚したため、このシナリオは入り口で頓挫し、詐欺事件には発展しなかった。私は登記簿の場所に行ってみた。博多駅に近い超一等地で、不動産業者によれば「時価8億~10億円」とのことだった。当時はバブル真っ盛り。福岡にも次々と新しいビルが建っていた。

   ◇    ◇

 そんな経験があるものだから、今回のニュースを聞いた私は「東京って地面師が動くほど景気がいいんだな」と妙な感心をした。

 積水ハウスの事件では十数人が逮捕されている。全体の計画を描くリーダー格、土地所有者になりすます役、身分証や書類を偽造する役など、高度な役割分担で詐欺遂行を図るさまはハリウッド映画のようだ。

 その中でもとりわけ重要なのは「買い手を見つけてくる役」だという。なるほど、いくらそれらしい土地があっても、買い手(この事件では積水ハウス)がいなければこの犯罪は成立しない。再開発の事業意欲が地域社会に広がると、地面師たちがうごめきだす。

 ちなみに西日本新聞の社内データベースで「地面師」の事件記事を検索したところ、私の取材した事件から今回の事件が発覚した2017年までの間、わずか2件しか掲載されてない。景気停滞期、地面師は冬眠していたのだろう。

 今は首都圏を主舞台としている地面師たちだが、バブル期は地方でも暗躍していた。現在の地方のシャッター街には彼らの食指も動くまい。しかし「天神ビッグバン」の再開発熱が高まる福岡市なら-。すでに先遣隊ぐらい入っているかもしれない。ご用心を。 (論説副委員長)

 =2018/11/25付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年11月25日  10:31:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:アレンタウンの中間選挙

2019-01-21 00:19:30 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【時代ななめ読み】:アレンタウンの中間選挙

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:アレンタウンの中間選挙 

 今月6日、米国のトランプ大統領にとって「中間試験」ともいえる中間選挙が実施された。上院ではトランプ氏の与党共和党が過半数を維持し、下院では野党の民主党が8年ぶりに過半数を奪還した。

 下院の敗北はトランプ氏の政権運営にとって打撃だが、トランプ人気の一定の底堅さを見せた選挙結果とみることもできる。この「痛み分け」で、2年後の次期大統領選の行方は、ますます混沌(こんとん)としてきた。

 さて選挙報道が一段落した先週、私は米地元紙のサイトで、米北東部ペンシルベニア州・下院第7選挙区の選挙結果を調べてみた。

 そこにアレンタウンという街があるからだ。

   ◇    ◇ 

 米国人歌手のビリー・ジョエルは「素顔のままで」の大ヒットのためラブソングの印象が強いが、社会性の強い曲も結構歌っている。「アレンタウン」(1982年)はその一つだ。

 アレンタウンは人口10万人程度の都市で、鉄鋼など重工業で栄えた。しかし80年ごろから日本など後発国の工業製品に押され、活気が失われていく。歌にはその様子が鮮明に描かれる。

 歌詞の「俺」は、父親たちが工場で働き幸福な家庭を築いた時代を懐かしむ。それが今では、近隣の製鉄所は閉鎖され、職業安定所に列ができている。卒業証書は役に立たず、企業も組合も街から逃げ出した。この街で暮らすのが、どんどん難しくなっていく。

 「俺たちはこのアレンタウンで暮らしている」と歌う声は力強い。その上で「でも、今日は起きる気がしない」と無力感ものぞかせる。明るい曲調ながら、哀愁が漂う名曲である。

   ◇    ◇

 米国北東部から中西部にわたる鉄鋼、石炭や自動車などの重工業が衰退した地域のことを「ラストベルト」と呼ぶ。「ラスト」とは「さび付いた」という意味だ。ペンシルベニア州もその典型である。

 このラストベルトに住む人々の投票行動が、2016年の大統領選で決定的な影響を与えた。民主党と共和党が競り合うこの地域で、軒並み共和党のトランプ氏が勝利したのだ。

 ビリー・ジョエルがアレンタウンの窮状を歌ってからすでに30年余り。この間、米国の政治エリートにほっておかれたと感じたラストベルトの人々が、政界のアウトサイダーであるトランプ氏に懸けてみようと思ったのも無理はない。

 トランプ氏は当選後、強引な関税設定などで世界を敵に回しながらも、米国内の鉱工業を優遇する政策を推し進め、ラストベルトの住民を喜ばせている。

   ◇    ◇

 ふと考える。この歌の「俺」は、それからどうしたのだろうか。

 まだアレンタウンに住んでいるのか。それとも職を求めて他の州に移ったか。トランプ氏を支持しているのか。その言動に嫌気が差して反対に回ったか。薬物に溺れていないか心配だ。歌に出てくる製鉄所の跡地はカジノになったらしい。

 今回の下院選で、アレンタウンのあるペンシルベニア州第7選挙区では、接戦の末に民主党の候補が勝利したようだ。住民の心はまだ揺れている。

 ビリー・ジョエルの渋い歌声を聞きながら、行ったことのないアレンタウンの投票所を空想してみた。 (論説副委員長)

 =2018/11/18付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年11月18日  10:31:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:私がSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をしない理由

2019-01-21 00:19:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:私がSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をしない理由

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:私がSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をしない理由 

 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と呼ばれるネット上の交流サイトが全盛のご時世、私はフェイスブックもツイッターもインスタグラムも一切やっていない。

 LINE(ライン)はようやく始めた。しかし現時点で相手は妻だけなので、ソーシャル(社会的)と言っていいのか疑わしい。

 もちろん最新のテクノロジーについていけないのが一因だが、真の理由は別のところにある。それについては最後に説明したい。

   ◇    ◇

 先週話題を呼んだのは、10月の青森市議選で当選したばかりの無所属新人(28)が、短文投稿サイトのツイッターで差別的な表現を含む投稿を重ねていたことが分かり、謝罪に追い込まれた一件であった。 

 この人物は、匿名のアカウントで「片腕落として障害者雇用」「おかまの物乞い」「年金暮らしジジイを舐めすぎ」などと書き込んだ。性犯罪に関し、風俗店に行けば良かった、という趣旨の投稿もしていた。

 選挙後に一連の投稿が明るみに出て、記者会見を開き「誠に申し訳ありませんでした」と、ひたすら頭を下げた。残念なのは、投票後にこの問題が発覚したことだ。投票前なら、この人物に政治家としての資質があるのか、有効な判断材料になったはずだからだ。まあ、次回の選挙まで覚えておけばいいのだが。

   ◇    ◇

 SNSで政治家が変な言葉を発して追及されるのは珍しい出来事ではない。

 今年4月、財務事務次官のセクハラ問題を巡り、自民党議員がツイッターに野党の女性議員らがセクハラ撲滅を訴えている写真を添付した上で「私にとって、セクハラとは縁遠い人々」と揶揄(やゆ)する投稿をした。「その発言こそセクハラ」と批判を受け、自民党議員は投稿を削除し謝罪した。

 こうした現象を受けて、ネット上ではSNSを「バカ発見器」と評する向きもある。SNSでの不用意な発言にこそ本当の人格がにじみ出る。「バカ」は言い過ぎにしろ、投稿者のお粗末な人権感覚をさらけ出す、という意味で「発見器」とは言い得て妙である。

   ◇    ◇

 さて、ここまで書けば、私がSNSをしない理由がお分かりだろう。そう、バカがばれるからだ。

 私は新聞に社説などを書いて暮らしている人間だ。それが実はあまり物を知らず、軽率な性格-要するにバカ-ということが世間にばれると、非常にまずい。

 私が感心したりあきれたりするのは、SNSをやっている政治家や著名人たちが「どうして、よく吟味もしない自分の意見を、あれほど瞬発的に発信できるのか」という点だ。世間で事件が起きると専門家でもない人たちがすぐSNSで何か言う、あの風潮である。

 私の場合、完全とはいかないまでもそれなりに調べ、頭を一生懸命ひねって考えを練り上げ、ようやく読者にお見せする文章にしている。私の吟味しない見解やパッと浮かんだ意見など何の価値もない。私は愚か者だが、それが分かるくらいの賢さはある。

 政治家の発言は「レスポンス芸」などではない。「気の利いたことを言えばいい」などと勘違いしてはいないか。そこを見極めるのに、SNSは確かに便利なツールなのである。 (論説副委員長)

 =2018/11/10付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年11月11日  10:32:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:「自己責任」と言うけれど

2019-01-21 00:19:10 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:「自己責任」と言うけれど

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:「自己責任」と言うけれど 

 私は「自己責任」という言葉が好きではない。

 自分の失敗を「これは自己責任だわな」と苦笑しつつ振り返ることはある。

 しかし、苦境に陥った人を「自己責任」と言って突き放したり、攻撃したりしようとは思わない。

 ほどほどの人生経験を積み、初老に至った人間として、そのくらいの分別は備えているつもりだ。

   ◇    ◇ 

 シリアで拘束されていた安田純平さんが帰国した。私は安田さんの著作を読み仕事ぶりに感心していたこともあり、解放の一報を聞いて本当にほっとした。

 ただ同時に、安田さんが帰国後、「自己責任論」を唱える人々から非難にさらされるのではないか、と心配した。実際、ネット上では安田さんに対する攻撃的な言葉が飛び交っている。

 「危険な場所に自ら行ったのだから、拘束されたのは自己責任」。ここまでは私も、もっともだと思う。

 しかし「だから国は救出する必要はなかった」「救出に税金が使われたのがけしからん」などと続けば、首をかしげる。拘束という結果の「自己責任」と、救出する「国の義務」は本来別問題だからだ。

   ◇    ◇

 安田さんの解放情報がもたらされた先月23日には、麻生太郎財務相が閣議後の記者会見で、たまたま興味深い発言をしていた。

 「『自分で飲み倒して運動も全然しない人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしい』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思って聞いていた」。先輩の発言としているが、会見で披露するぐらいだから麻生氏の信条と合致しているのだろう。

 健康維持に努力しない人の医療費を公的に扶助する必要はない、自分で払え、という論旨であり、典型的な「自己責任論」である。

 この意見には共感する人も多かろう。「苦労して納めた税金が不用心な人間に使われるのは納得できない」という感情は分かる。

 ただ、もしこんなことを言いだす人がいたら、読者は賛同されるだろうか。

 「津波の被災者はもともと、津波が来る恐れがある海辺に好んで住んでいた人たちだ。自己責任なのだから仮設住宅など公的な扶助をする必要はない」

 明らかに暴論である。しかし、自己責任論とは、突き詰めていくとこうなるのだ。「リスクが予見できるからには、結果には全て個人で責任を負うべきで、公的な支援は必要ない」という考え方なのだから。

   ◇    ◇

 実は「自己責任論」が広まると一番都合がいいのは為政者なのである。国民の安全や福祉のセーフティーネットを苦労してつくる必要がなくなるからだ。

 再度確認したい。安田さんの負う「自己責任」は結果的に拘束されたことであり、麻生氏発言の「飲み倒して運動しない人」の場合は、健康を壊したことが、負うべき「自己責任」だ。

 それとは別の次元で、国家とか政府とかいうものには、窮地の国民を救う義務がある。もし「困っている国民を助ける」義務を放棄するのなら、政府などいったい何のためにあるのか。

 政府や政治家が「自己責任論」に便乗、またはそれをあおっていないか、気を付けた方がいい。面倒なことは「自己責任」で済ますような政府なら要らない。
 (論説副委員長)

 =2018/11/04付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年11月04日  10:57:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【時代ななめ読み】:太陽の塔は「宇宙遺産」だ

2019-01-21 00:19:00 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:太陽の塔は「宇宙遺産」だ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:太陽の塔は「宇宙遺産」だ 

 「太陽の塔」が今、ブームである。

 若い読者には解説が必要だろう。太陽の塔は、1970年に大阪で開かれた日本万国博覧会のシンボルだ。芸術家の岡本太郎(1911~96)のデザインによる高さ約70メートル、直系約20メートルの巨大な芸術作品であり、建造物でもある。

 万博後も取り壊されず、大阪府吹田市の万博記念公園に威容を示している。今年3月には展示物の修復を終えて内部公開が始まり、10月下旬までの見学者は19万人を超えた。9月からその魅力と謎に迫るドキュメンタリー映画も公開中だ。

「太陽の塔」の画像検索結果

 かくいう私も、仕事場の壁に太陽の塔の写真を貼っているほどのファンだ。

 そうした中、大阪府が太陽の塔の世界遺産登録を目指し、準備を始めているという。2025年大阪万博誘致に絡めた活動らしい。 

 太陽の塔が世界遺産-それはちょっと違うんじゃないか。太陽の塔を愛する
がゆえの異論である。

   ◇    ◇

 塔を世界遺産登録することへの最大の違和感は、作者の岡本太郎がそれを喜ぶだろうか、という点だ。

 岡本太郎は戦後の日本を代表する芸術家である。「自分はピカソを超える」と公言し、絵画、彫刻作品、評論など多分野で活躍した。写真を見ると目をむいたような表情。奇人ぶりを示すエピソードにも事欠かない。実に「芸術家らしい芸術家」と言える。

 その太郎は徹底的に権威を嫌った。予定調和を決して受け入れず、太陽の塔にしても、高名な建築家が計画していた万博中央広場の大屋根を突き破る大きさにしてしまったほどだ。

 太陽の塔は唯一無二の「変なもの」である。世界を見渡しても、巨大な像といえば権力者か宗教的シンボルがほとんどだ。平壌の金日成像は高さ20メートルほど。ブラジル・リオデジャネイロのキリスト像は約40メートル。それよりはるかに大きいスケールで、あんな訳の分からないものを造った太郎は本当にすごい。同時にそれを許容した当時の日本社会もたいしたものである。

 そのエネルギーを「世界遺産」という既存の価値体系にはめ込む必要があるのか。もし太郎が生きていたら、そんなミシュランの三つ星めいた「権威付け」に納得するだろうか。

 全国で郷土の自然や文化財の世界遺産登録に向けて頑張っておられる方々に水を差すつもりはないが、たまには「世界遺産、何するものぞ」とたんかを切る選択があってもいい。へそまがりな私はそう思う。

 太郎はこんな言葉も残している。「評価されるなんていっさい必要なし!」

   ◇    ◇

 異色のファンタジー小説で人気の作家、森見登美彦氏のデビュー作は、ずばり「太陽の塔」だ。その中で森見氏は、その魅力の本質を的確に表現している。

 「『つねに新鮮だ』 そんな優雅な言葉では足らない。つねに異様で、つねに恐ろしく、つねに偉大で、つねに何かがおかしい」

 「太陽の塔は、見るたびに大きくなるだろう」

 この小説で主人公の大学生は恋人を万博公園に連れて行く。彼女は太陽の塔を長い時間かけて眺め、こう言うのだ。「これは宇宙遺産に指定されるべきです」

 全く同感だ。太陽の塔は「世界遺産」より「宇宙遺産」がふさわしい。 (論説副委員長)

 =2018/10/28付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2018年10月28日  10:44:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする