【社説】:②「受け子」有罪 特殊詐欺の抑止につなげたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:②「受け子」有罪 特殊詐欺の抑止につなげたい
中身を知らなかった、では通用しない。最高裁が先月に言い渡した判決は、特殊詐欺捜査の追い風となるだろう。
特殊詐欺の被害者から送られてきた現金入りの荷物を受け取った「受け子」が、詐欺罪に問われた2件の刑事裁判だ。
最高裁は、詐欺罪の成立を認めて有罪とした。「他人になりすまして繰り返し荷物を受け取って、報酬を得ており、故意が認められる」といった判断からだ。
摘発された受け子が「荷物の中身が詐欺の被害金だとは知らなかった」と主張するケースは多い。今回も、被告らは「中身は現金ではなく、別のものだと思った」などと無罪を主張していた。
判決からは、不自然な釈明に対する厳しい姿勢がうかがえる。
故意の立証が壁となり、2審はいずれも無罪となった。個別判断とはいえ、最高裁判決は今後の同様の裁判に影響を与えよう。
留意すべきは、事情を知らない人が罪に問われる可能性がある点だ。詐欺罪の適用にあたっては、慎重な捜査が求められる。
金融機関で現金を振り込ませる振り込め詐欺など、特殊詐欺の被害は高止まりが続く。2017年の認知件数は約1万8000件で、被害総額は約400億円にも上る。被害金の一部は、暴力団の資金源になっているとされる。
検挙率は25%にとどまり、取り締まり強化は喫緊の課題だ。
詐欺グループは、指示役を中心に役割分担され、手口は多様かつ巧妙化している。末端の受け子による現金やキャッシュカードの受け取りに加えて、近年は電子マネーを悪用した犯行も目立つ。
若者らが、報酬目当てにアルバイト感覚で、安易に受け子を引き受けるケースが後を絶たない。ゆゆしき事態である。
最高裁は17年にも、被害者と警察が連携する「だまされたふり作戦」で、荷物を受け取った受け子を詐欺未遂罪で有罪とした。こうした司法判断の積み重ねが、犯罪の抑止につながるだろう。
特殊詐欺の被害者の多くは高齢者だ。老後の資金として貯ためた多額の金を詐取されて、心身に不調を来す人や、だまされた自分自身を責め、一人で問題を抱え込んでしまう人もいる。被害金の返還も、わずかな額にとどまる。
金融機関やコンビニエンスストアで、高齢者に積極的に注意喚起する。かかってきた電話を自動で録音する機器を、自治体が無料で貸与する。被害防止のための地道な対策を徹底させたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年01月10日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。