路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:3・11から11年 廃炉への道のり はるか

2022-03-11 07:43:50 | 【原発事故・東電福島第一・放射能汚染・デプリ・処理水の海洋放出と環境汚染

【社説①】:3・11から11年 廃炉への道のり はるか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:3・11から11年 廃炉への道のり はるか 

 東京電力による福島第一原発廃炉への「中長期ロードマップ(工程表)」では、当時の政府が事故の「収束」を宣言した二〇一一年十二月から遅くとも四十年で、すべての工程を終えることになっています。
 
 事故発生から十一年、東電が廃炉作業の最難関と位置付ける燃料デブリの試験的な取り出しを、ようやく年内に、2号機から始めることになりました。
 
 デブリとは、溶け落ちた核燃料が炉内のがれきと混ざり合い、冷えて固まったもののこと。濃度の高い放射性物質の塊です。
 
 メルトダウン(炉心溶融)が起きた三基=写真=のうち、水素爆発を免れ、これまでの調査で炉内の状況が比較的明らかになっているのが2号機です。
 
 とはいえ、人が近づけば一時間で死に至るという強い放射線が飛び交う中、遠隔操作のロボットに頼るしかない“手探り”の作業であることに変わりはありません。

 ◆デブリは除去できるか

 複数の事故原発の廃炉、解体は史上例がなく、必要な機材も破壊の状況に合わせてゼロから設計、製作しなければなりません。
 
 爆発で建屋が崩れ落ちた1号機、建屋は健全な2号機、上部が吹き飛んだ3号機、状態はそれぞれに異なります。
 
 2号機の試験作業には、全長二十二メートル、重さ四・六トンという英国製のロボットアームを用います。
 
 本来、昨年中に始める予定だったのですが、コロナ禍で製造や輸送がままならず、一年遅れになりました。今は国内の施設で性能試験および操作の訓練中。原子炉側面に開けた穴に“腕”を差し入れ、わずか数グラムの粉末を真空容器に採取して、その性状を確かめます。
 
 2号機内のデブリは推定約二百トン。三基で計八百八十トンと推計されています。今後約三十年、一日あたり八十キロずつ取り出さなければなりません。実現可能な数字でしょうか。
 
 このようにデブリの取り出し一つとっても、気の遠くなるような険しい道のりです。たとえ工程表通りに廃炉を完了することができたとしても、莫大(ばくだい)な費用がかかります。
 
 ロシアによるウクライナの原発に対する攻撃が世界を震撼(しんかん)させる中、とてつもなく危険で、お金がかかる原発という施設のやっかいさ、原発を持つことの恐ろしさについて、あらためて考えずにはいられません。
 
 原発事故の収束費用は約二十二兆円、このうち東電負担の廃炉費用は八兆円と見積もられてはいるものの、取り出したデブリや解体で生じる廃棄物の処分費用などは、含まれません。
 
 実際いくらかかるのか。東電に尋ねると、「何をもって『廃炉』とするのか、その最終形が決まっておらず、明確にお答えするのは難しい」との回答でした。
 
 通常は、運転を終了した原発を解体、撤去し、廃棄物を処理して更地にするまでが「廃炉」です。
 
 ところが東電の工程表をよく見ると、「使用済み燃料の取り出し開始まで」を第一期、「デブリの取り出し開始まで」を第二期としてはいるものの、それ以降、「廃止措置(廃炉)完了まで」の第三期に関しては、作業開始から「三十〜四十年後」と期限が切られているだけで、具体的に何をするかが書かれていない。十一年たってなお、何をすべきか、いくらかかるか、決められずにいるのです。
 
 福島と同じ「レベル7」の爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発について、ウクライナ議会は事故発生から十二年後の一九九八年に「チェルノブイリ廃炉法」を制定し、「デブリを取り出して敷地を環境上安全な状態にする」と廃炉のゴールを定めた上で、工期を約百年としています。

 ◆40年は無理、100年スパン

 東電の工程表を現在の技術レベルに照らして見る限り、今後三十年足らずのうちに、跡地や地域を「安全な状態」にできるとは思えません。
 
 原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「四十年廃炉は無理。百年、二百年という長いスパンで考えるべきだと思う。例えば『石棺方式』といいますか、建屋を丸ごとコンクリートで封じ込め、冷却し、放射線が減衰するのを待ちながら技術開発を進めていくという道筋も考えられる」と、別の選択肢を示します。
 
 地域、ひいては、この国の未来にかかわる問題です。いずれにしても、工程表を書き換えなければならなくなるのは確かでしょう。
 
 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月11日  07:43:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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【社説①】:3・11から11年 ペットだって被災する

2022-03-11 07:43:40 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【社説①】:3・11から11年 ペットだって被災する

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:3・11から11年 ペットだって被災する 

 あまりに切ない一枚です。小屋の近くでタオルを掛けられた犬=写真(上)。よく見ると、鎖につながれたままではありませんか。取り残されたわが家で、何を思いながら力尽きたことでしょう。
 
 
 東日本大震災から数週間後、福島県浪江町でのひとこまです。撮影した太田康介さん=滋賀県草津市=たちは、その亡きがらを見つけ、白いタオルをかけ、薄紫の花を一輪、供えてあげました。
 
 太田さんは大震災時、都内で保護猫と暮らす動物カメラマンでした。人々が避難した街を、えさを探して徘徊(はいかい)する犬や猫の存在を知ります。二〇一一年三月末、大量のペットフードと水を車に詰め込んで被災地に向かいました。
 
 福島第一原発の半径二十キロ圏内に入りました。がりがりに痩せた猫がキャットフードにむしゃぶりついてきました。人も車も通らぬ国道を犬がとぼとぼ歩き、豚舎では大量の豚が身を寄せ合うように息絶えていました。この一枚=写真(下)=では、倒れた仲間の横で、馬の目に涙が浮かんでいるように映ります。
 
 
 原発が制御不能となり、国は矢継ぎ早に避難指示の範囲を拡大し避難先も変更しました。多くの住民は泣く泣く、ペットや家畜を置き去りにしたまま、故郷を離れざるをえなかったのです。
 
 太田さんは週に一度、現地に通い続けました。「人間の都合で罪のない動物たちを死なせていいのか」。その一心でした。一時帰宅や立ち入り許可の権利を譲ってもらい、警戒区域内に計五十五カ所のえさ場を設け、里親のめどを付けては猫や犬を保護しました。

 ◆「同行避難」広めたい

 大震災では二万二千人余の命が奪われました。国によると、少なくとも三千百匹余の犬も犠牲になりました。ただ猫をはじめ他ペットの実態は分かっていません。
 ペットがいるために避難を躊躇(ちゅうちょ)して人も被災する。逆に、避難所に連れてきた動物の鳴き声やにおいに悩まされる。こうした過去の災害の教訓から、国は3・11以前から、指定避難所にペット専用の空間をつくるなど、ペットと共に逃げる「同行避難」という考え方を広めようとしていました。
 
 しかし、その文言が防災計画に盛り込まれていても、ほとんどの被災自治体は、避難所や仮設住宅での具体的な運用を取り決めていませんでした。例えば福島県で実際に避難所に来た犬は三百五十五匹、猫は七十九匹のみ。机上の空論にすぎなかったのです。
 
 大震災後、環境省はペットの防災ガイドラインを作りました。飼い主は少なくとも五日分のえさやトイレ砂などを備蓄する、迷子札や個体識別番号を記録したマイクロチップを装着する、ケージやキャリーバッグに入るようふだんからしつけをする、などです。
 
 国は、ペットをどう扱うか、避難所運営マニュアルなどに反映させるよう、求めていますが、NPO法人、人と動物の共生センター(岐阜市)の奥田順之代表理事はどの自治体もなかなか進んでいないと指摘します。人や予算上の余裕がなく、ペットのことは後回しにされがちだと言います。
 
 奥田代表は全国動物避難所協会を立ち上げ、ペットホテルや動物病院、宿泊施設に呼びかけ、災害時、ペットが泊まれる場所を各地につくろうとしています。「ペットがいるから避難をあきらめる。そんなことだけはないようにしたい」と奥田代表は話します。

 ◆苦楽を共にする仲間

 歴史家の渡辺京二さんは著書「逝きし世の面影」で、幕末から明治期に来日した西洋人の記録を丹念に追っています。牛や鶏を食用にすると分かり、かたくなに譲渡を拒む農民、カメや魚との別れに涙する女性、往来に寝そべる肥えた野犬…。近代化前の日本人にとって、動物は、飼うというより、生や苦楽を共にする仲間だったと結んでいます。
 
 このコロナ禍で改めて見直されていますが、われわれは目に見えない多くのものをペットから得ています。ペットたちもまた、人なくしては生きていけません。
 翻って、防災の基本とはいかに想像力を働かせるかにあります。災害からどう逃げ、どう命を守るか。われわれの仲間たちのことも決して忘れたくないものです。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月10日  07:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【社説①】:3・11から11年 避難者の人権は画餅か

2022-03-11 07:43:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【社説①】:3・11から11年 避難者の人権は画餅か

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:3・11から11年 避難者の人権は画餅か 

 ロシアがウクライナに侵攻し、多くの避難民が出ているというニュースは、根本久美子さん(44)=写真=にとって人ごとではありません。「自分ではどうしようもない大きな力に巻き込まれ、この戦争がいつ終わるとも、いつ故郷に帰れるとも分からない」
 
 
 その理不尽さに十一年前の福島の人々の姿が重なるからです。
 
 根本さんは、東京電力福島第一原発から三十キロの福島県沿岸の地域に住んでいました。二〇一一年三月、爆発した原発建屋から煙がわき上がる瞬間を見た根本さんは放射能の恐怖におびえながら県境を越え、約二百五十キロ離れた新潟市に避難します。
 
 そこで立ち上げたのが、避難者を支援する団体「スマイルサポート新潟」です。支援対象は大半が自分と同じように母子だけで避難した自主避難者でした。

 ◆コロナ禍、生活苦の悲鳴

 国が定めた避難指示区域外からの自主避難者には、原発周辺の双葉や大熊、浪江町など強制避難地域の人たちのような東電からの賠償はありません。生活費は持ち出し。夫は妻子に仕送りするため福島に残って働く。切り詰めた二重生活に耐えてきた人たちも、コロナ禍で一気に困窮しました。
 
 二十四時間対応の根本さんの相談電話には助けを求める連絡が頻繁に入ります。「食べるものがなくて」「仕事がなくなった」「コロナで陽性になった」。皆、身近に頼れる人がいないのです。
 
 寄付で集めた食糧を配ったり、送ったり。月数件だった相談は多い月で五十件以上に増えました。命が危ないと感じれば、根本さんは夜中の雪道でも駆けつけます。活動には福島県から助成を受けていますが、支援物資の送料も膨らんで資金難です。日本中がコロナ禍に苦しんでいますが、原発事故で壊された生活が、さらに追い詰められていることは分かってほしい、と根本さんは訴えます。
 
 福島県によると、原発避難者はピーク時に県内外で約十六万四千人いましたが、今年三月時点では約三万三千人です。新潟県への避難者も約七千人から約二千人に減りました。自主避難者の統計はありませんが、スマイルの支援先でも帰還する人が増えています。
 
 背景にあるのは、放射線量低下を理由に福島県が一七年三月、災害救助法に基づく借り上げ住宅の無償提供を打ち切ったことです。生活費や教育費に加え、新たに家賃まで負担することは難しいとして、避難をあきらめたのです。
 
 自主避難者が古里を離れたのは放射能の影響を避けたかったからです。根本さんの故郷の家も、裏山が除染されず放射線量は高いまま。やむなく新潟に中古の家をローンを組んで買ったものの、その選択が正しかったのか。根本さんは「いつも先が見えなくて、手探りです」と苦笑します。

 ◆社会の冷淡、政治が助長

 原発事故がなければ苦労することもなかった自主避難者に、日本社会は冷淡です。「勝手に避難した。困窮は自己責任」「いやなら福島に帰れ」。心ない言葉がネット上にあふれます。
 
 「避難するならご勝手に」と言わんばかりに自主避難者を顧みない政府の姿勢が、社会の冷たさを助長してはいないでしょうか。
 
 福島県は一部地域を残して避難区域を解除し帰還を促しています。撤去方針が示された放射線量測定のモニタリングポストは街中に存続することになりましたが、事故から十一年を経ても避難を続ける人は、「復興」を掲げる政府には不都合な存在なのでしょう。
 
 原発事故の翌一二年には、当時野党だった自民党も含む全会一致で「子ども・被災者支援法」が成立します。無用な被ばくを免れる「避難する権利」が明記された画期的な法律でしたが、政府は限られた支援策しか基本方針に盛り込まず、同法は骨抜きにされます。逃げる権利を担保する仕組みもつくられず、放置されたままです。
 
 人権は、それを守る仕組みが伴わなければ、絵に描いた餅にすぎません。避難した選択を自己責任と片付け、何も公的に支援しないのでは、避難する権利が「ある」状態とは言えないのです。
 
 国連の人権機関も、古里から避難する、しないにかかわらず、住民の被ばくを避ける方策をとるように日本政府に勧告しました。
 
 災害多発列島に住む私たちは、いつ避難者になってもおかしくありません。そのとき人権は守られるのか。自主避難者の苦境は、私たちの行く末をも映し出しているように思えてならないのです。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月09日  07:09:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:国際女性デーに考える 気づき、そして変わる

2022-03-11 07:43:20 | 【ハラスメント「セクハラ、パワハラ、モラハラ、アカハラ、ドクハラ、シルハラ...

【社説①】:国際女性デーに考える 気づき、そして変わる

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:国際女性デーに考える 気づき、そして変わる 

 職場の女性を「花」と呼びながら、上司に逆らう花は摘み取る。そんな風潮の中で起こされた日本初のセクハラ裁判で一九九二年四月、性的に中傷され、退職させられたのは女性ゆえの性差別だったと明言する画期的な判決が言い渡されました。しかしセクハラ被害は今も絶えません。男性社会に放たれた三十年前の判決は今、何を語りかけるのでしょうか。

 ◆譲歩、犠牲を強いる不法

 「まさか、と。予想もしなかった判決でした」。編集者の晴野(はるの)まゆみさん(64)=福岡市=は当時のことをこう振り返ります。
 
 晴野さんは八六年から約二年間にわたり、勤務先の男性編集長に「男と酒を飲んでばかり」「異性との交友関係が派手」などの中傷や悪評を社内外に執拗(しつよう)に流され、退職に追い込まれました。
 
 八九年、編集長と会社に対して損害賠償を求める訴訟を福岡地裁に起こします。
 原告側が使った「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」という言葉は、この年の流行語大賞に選ばれました。
 
 二年半の審理の末に出された判決は、原告側の主張通り、編集長らの行為が「働く女性としての原告の評価を低下させた」と認め、「侵害された利益は、女性としての尊厳や性的平等につながる人格権にかかわるもので、その違法性は軽視できない」と断じます。
 
 「男を立てなさい」と言って晴野さんを退職させた会社の使用者責任も認め、「女性である原告の譲歩、犠牲によって職場関係を調整しようとした不法行為がある」と、性差別を前提にしては、真の解決などあり得ないと断じたのです。原告側の全面勝訴でした。
 
 この裁判では気鋭の女性弁護団が闘いました。その一人、被告編集長の尋問を担当した角田(つのだ)由紀子さん(79)は、女性に差別的な素顔が裁判官にそのまま伝わるよう、質問を工夫したと言います。
 
 例えば編集長は、晴野さんが朝早く独身の男性ライターの家に原稿を取りに行ったことを非難しました。角田さんが理由をただすと「寝起きの男の元にいくなんてセックスだろ」という趣旨の答えが返ってきました。部下を性的な目でしか見ていないことがセクハラの原因だったと、法廷で明らかにされていきます。
 
 裁判長を務めた川本隆さん(84)=福岡市=は尋問を聞き「おや」と思うことがあったと言います。編集長は晴野さんが仕事先と酒を飲むことも非難しましたが、男には「付き合い」を認め、女はだめというのは差別じゃないか、と。
 
 裁判前の簡裁調停でも晴野さんは調停委員から「女は男の目を引くうちが花」「若くてきれいだから仕方がない」と言われました。
 
 そうした女性観は川本さん自身にもあったことに気付きます。当初は、一般的な不法行為だと思って裁判に臨んでいたからです。
 
 しかし、性差別を問うことこそ裁判の本質でした。判決は、管理職の大半を占める男性の女性観に思いを巡らせた川本さんの「気づき」の反映でもあったのです。

 ◆セクハラ禁止の法律を

 この訴訟後も数々のセクハラ裁判と向き合った角田さんにも気づきがありました。セクハラなどを禁じる法律が日本にない限り、被害が続くのでは、と。
 
 被害回復を訴訟で争う場合、通常はセクハラ行為が民法七〇九条の不法行為に該当するか否かが焦点になりますが、明治期につくられた規定は性被害を想定せず、救済も損害賠償に限られます。
 
 国際労働機関(ILO)は昨年職場でのハラスメント行為を禁じる初の条約を発効させましたが、日本は国内法の不備から批准できていません。被害実態を踏まえた性差別やハラスメント行為自体を禁じる法整備が急務なのです。
 
 国際社会が気候変動や災害、感染症などに直面する中、ロシアはウクライナに侵攻しました。危機の際、犠牲を強いられるのは自らを守るすべのない子どもや女性、社会的マイノリティーです。
 
 戦争は積み上げた道理も破壊します。性差別をなくそうと声を上げた人々の意思や努力が、戦争に押しつぶされてはなりません。
 
 裁判を終えた晴野さんは会社を設立しました。社名は「チームふらっと」。性や立場を超え、一緒に働く人は対等な仲間との願いを込めました。理不尽な性差別やセクハラに苦しめられない世の中であれ、と女性たちが投げた「気づき」の小石は、波紋を広げ、次の変化を促し続けています。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月08日  07:47:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:ウクライナ侵攻 ロシア芸術の名声に傷

2022-03-11 07:43:10 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】
【社説①】:ウクライナ侵攻 ロシア芸術の名声に傷
 
 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ウクライナ侵攻 ロシア芸術の名声に傷
 
 ウクライナに侵攻したロシアに対し、文化・芸術の世界でも抗議の声が強まり、芸術家の排除や、楽曲の演奏の中止といった措置が取られている。スポーツと同じく国境を越えて人と人が交流できる分野で、こんな事態が起きるのは大きな不幸だ。正常化に向け、ロシアが蛮行を止めるよう求める。
 
 世界の文筆家らでつくる「国際ペン」(本部・ロンドン)では、会長名の談話を発表した。「ロシア軍がウクライナに放った暴力を全面的に非難し、主権を持つ独立国家に対する軍事的侵略の終結を緊急に求めます」と訴えている。
 
 各国のノーベル賞受賞者たちも「プーチン大統領らによる戦争は不当、残虐で無益」とする書簡をオンラインで公表。作家のカズオ・イシグロ氏(英国)ら百六十人以上が名を連ねている。
 
 プーチン氏と親しい指揮者のワレリー・ゲルギエフ氏=写真、東京都港区で=とロシアの楽団の演奏会を中止したのは、パリを代表する音楽ホール「フィルハーモニー・ド・パリ」。また、ドイツのミュンヘン市はゲルギエフ氏を名門オーケストラのミュンヘン・フィルの首席指揮者から解任した。
 
 
 世界で最も人気のある指揮者の一人だけに、どちらも苦渋の決断だっただろう。だがウクライナの惨禍を見過ごさず、抗議の姿勢を示したことには敬意を表したい。
 
 日本では、中部フィルが本拠地の愛知県小牧市で今月開く演奏会で、チャイコフスキーがロシアの戦勝を祝って作曲した大序曲「1812年」の演奏を取りやめた。事態が長引けば、こうした措置が拡大することも予想される。
 
 国家が軍事力に頼らず、文化や芸術の力で他国の人々を魅了する「ソフトパワー」を考えるとき、今回の侵攻でロシアの失う国益は計り知れないものがある。それをプーチン氏は重くみるべきだ。
 
 ロシアでは旧ソ連時代を含め、偉大な文化人や芸術家らが数多く輩出してきた。その文学や音楽は世界中で愛される。ロシア芸術が得てきた名声や敬意を自ら傷つけないためにも、ロシアには一日も早く撤退を決断するよう望む。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月07日  07:37:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:判事のSNS 「罷免」に値するのか

2022-03-11 07:43:00 | 【裁判(最高裁・高裁・地裁、裁判員制度・控訴・冤罪・再審請求、刑法39条】

【社説②】:判事のSNS 「罷免」に値するのか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:判事のSNS 「罷免」に値するのか 

 SNSへの「不適切な投稿」により仙台高裁の岡口基一判事の弾劾裁判が始まった。表現の自由や裁判官の身分保障から、法曹界では訴追自体にも疑問符が付いている。罷免に値するのだろうか。
 
 殻に閉じこもりがちな裁判官の中で、岡口氏は異彩を放つ。高裁判事(職務停止中)でありつつ、多くの書物を著し、SNSの投稿で知られる人物でもある。
 
 その書き込みが問題となった。殺人事件の遺族らを傷つけたと…。確かに一般的に人を傷つけることは良くない。だが、人が何に傷つくか、実は予測するのは難しい。相手の受け取り方にもよるからだ。傷つける意図はないのに、予想外の反応を受ける場合もある。
 
 それゆえ一般的に「傷つけられた」だけでは、法的責任は問われない。表現行為への懲罰は慎重の上に慎重を期さねばならない。
 
 国会議員による弾劾裁判で「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」と判断されると、罷免され、法曹資格さえも失う。
 
 過去に裁判官が罷免されたケースは七件だが、買春や盗撮など犯罪か、それに匹敵する職務上の重大な不正の場合だ。職務外のSNS投稿という表現行為が訴追対象になるのは初めてで、過去事例とは明白に異なる。
 
 傷ついた遺族らの気持ちは十分に察するし理解する。だが、あまりに不明確で主観的な判断基準に基づいて、一人の判事を罷免することには反対する。
 
 裁判官にも表現の自由が及ぶことは自明の理であるし、その表現行為と法曹資格を奪うほどの苛烈な懲罰とは、果たしてバランスが取れることだろうか。
 
 同時に憲法が保障する裁判官の身分保障を脅かしうる。まかり間違えば、この前例が政治的意図をもって国会議員による司法介入を招く可能性さえあるからだ。多くの法学者や弁護士らが罷免に反対する声を上げているのは、そうした危機感の表れでもあろう。
 
 岡口氏の投稿は罷免に値する非行なのか。国民への背信なのか。むしろ投稿の多くは、社会の少数派に寄り添う内容である。
 
 そうした市民派の判事であることも念頭に置きたい。岡口氏は遺族らとの面会を裁判所から禁じられ、話し合う機会もなかったという。最高裁による二度の「戒告」で十分なのではないか。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月07日  07:37:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:週のはじめに考える 鄧氏の名消えゆく中国

2022-03-11 07:42:50 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【社説①】:週のはじめに考える 鄧氏の名消えゆく中国

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える 鄧氏の名消えゆく中国 

 中国の「改革開放の総設計師」と言われた鄧小平氏の名前を中国メディアで目にすることが減りました。秋の共産党大会で人事慣例を破り、異例の三期目続投を狙う習近平総書記(国家主席)に配慮した報道だとの見方があります。「政治の年」を迎えた中国で何が起こっているのでしょうか。
Deng Xiaoping and Jimmy Carter at the arrival ceremony for the Vice Premier of China. - NARA - 183157-restored(cropped).jpg
1979年1月
ジミー・カーター(左)やリチャード・ニクソン(中央)と(1979年のアメリカ訪問にて)

 ◆対極の鄧、習氏の政策

 鄧氏は三度の政治的失脚から不死鳥のようによみがえりました。一九九〇年に国家中央軍事委員会主席を退いた後は公職にはつかないまま「中国の最高指導者」と呼ばれ、「建国の父」毛沢東に次ぐ、新中国「第二世代の指導者」として、経済発展に手腕を発揮してきました。
 
 二月十九日は、鄧氏の死去から二十五年の節目でした。しかし、北京では大規模な追悼行事はなく、共産党機関紙・人民日報は同日付の一面トップで習政権の食糧政策について報じたのです。
 
 その直後の二十一日は鄧氏の歴史的演説、いわゆる「南巡講話」三十周年にあたりましたが、やはり、鄧氏についての報道は目立たず、新聞は習氏が主導した北京五輪の記事で埋め尽くされました。
 
 南巡講話は、九二年に鄧氏が上海や深センを視察した際に発した、改革開放に向けた大号令です。中国現代史の節目の一つともいえる記念日としては、違和感をおぼえる報道ぶりでした。
 
 鄧氏の業績をかすませるような扱いは、習氏の政策が「鄧路線」と対極にあるため、メディア側が習氏に配慮したからだという見方が中国紙記者からも聞かれます。
 
 鄧氏と習氏の政策の違いを具体的に見ていくと、政治手法では「集団指導体制」と「権力集中」、経済政策では「先富論」と「共同富裕」、外交政策では才能を隠して内に力をためる「韜光養晦(とうこうようかい)」と対外強硬的な「戦狼外交」と確かに対照的なものです。
 
 政策が違うだけではなく、習氏が鄧氏の権威に挑戦するような動きもありました。習氏が主導した昨秋の「第三の歴史決議」は、鄧氏の評価を江沢民、胡錦濤の元、前総書記と同じレベルに引き下げました。習カラーを全面的に打ち出すには、死後も「祖国を豊かにした」と評価される鄧氏の人気が目障りなのかもしれません。

 ◆危険な習氏の「毛沢東化」

 さらに、習氏には自身を鄧氏より上位に置くだけでなく、毛氏と肩を並べる指導者と位置づける言動が目立つのです。「建国の父」と同格を目指す野心もあるでしょうが、共産党支配の下で社会主義を堅持しようとする考えが毛氏の理念に近いからでもあるのです。
 
 鄧氏は「社会主義市場経済」を掲げ、豊かになれる人から先に豊かになる「先富論」を唱えました。それに対し、拝金主義のまん延により拡大した格差を是正しようと習氏が打ち出したのが、ともに豊かになる「共同富裕」です。ただ、そもそもは毛氏が唱えた考えであり、習氏が三期目に目指すのは「毛時代への回帰」の色合いが濃いと言えます。
 
 その最大の特徴は、共産党による統治の強化です。それゆえ、習政権は国有企業より強くなりすぎた民間企業を脅威ととらえ、IT通販大手「アリババ」に独占禁止法違反で巨額な罰金を科すなどIT企業たたきをしています。
 
 さらに、鄧氏の事実上の指名でトップの座につき、二期十年余で権力を継承していった江氏、胡氏に比べ、習氏には自力で権力闘争を勝ち抜きトップに上り詰めたという自負が強いのでしょう。
 
 だからこそ、鄧氏が毛独裁時代を教訓に党中枢に導入した「集団指導体制」という言葉を習氏は歴史決議から消し去り、権力集中を進めていると見るのが自然です。
 
 しかし、鄧氏による「政治的な知恵」ともいえる「集団指導体制」を尊重せず、習氏が毛時代のように独裁傾向を強めているのは実に危険な動きに見えます。

 ◆台湾武力行使に懸念も

 習氏の反腐敗闘争で、この十年で九十万人余が党から追放されました。ただ、腐敗撲滅は政敵打倒と表裏一体です。権力が集中する習氏におもねりがはびこるのは、鄧氏の名前が消えゆく最近の報道で見た通りです。さらに、絶対的な権力者に取り巻きから耳の痛い情報が入らず独善化するのは、歴史の教えるところでもあります。
 
 ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにした国際社会から、中国による台湾統一に向けた武力行使の動きに懸念が強まっています。鄧氏の「韜光養晦」をかなぐり捨て、「毛沢東化」する習氏の統治下で、その可能性はかつてなく高いといえます。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月06日  06:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:日本の対ロ制裁 生活基盤を支えてこそ

2022-03-11 07:42:40 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【社説①】:日本の対ロ制裁 生活基盤を支えてこそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:日本の対ロ制裁 生活基盤を支えてこそ 

 ウクライナに侵攻し、一般市民や原発にも攻撃を加えるロシアの蛮行はとても容認できない。
 
 日本も欧米と協調しながらロシアへの経済制裁に乗り出すのは当然だ。同時に国内経済への反動も大きく、私たちも生活面で耐え忍ぶ必要があるが、生活基盤が支えられていてこその忍耐でもある。政府は、平和を守るためにも暮らしの支援の強化に努めるべきだ。
 
 経済制裁の軸は国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシアの銀行排除だ。国際的な決済網からの追放でロシアは日米欧などとの貿易が極めて困難になった。
 
 日米欧はロシア中央銀行の外貨資産も凍結し、信用を失ったルーブルの価値は暴落した。ロシア国内では急激なインフレが起き、多くの市民は預金を引き出すことさえできていない。
 
 さらに、トヨタ自動車などがロシアでの生産を停止。米エクソンモービルや英シェルなど大手石油会社も撤退を決め、外国資本流出の歯止めも利かない状態だ。当初、制裁の即効性を疑問視する声もあったが、ロシア経済は予想以上の早さで窮地に追い込まれているとみていい。
 
 今後の焦点は日米欧がロシア産原油の輸入停止にまで踏み切るかどうかだ。原油の売り上げ収入が激減した場合、ロシアは決定的な予算不足に陥り、戦費の調達にも支障をきたすはずだ。
 
 ただ制裁の反動でガソリンや電気・ガス、食料品など日本国内の物価の上昇も避けられない。
 
 ガソリンを巡っては、現行の石油元売りに対する補助金だけで価格上昇を抑えられない場合、課税引き下げを可能にする「トリガー条項」を速やかに発動すべきだ。必要な法改正に向けて与野党が協力するよう重ねて求めたい。
 
 電気やガス料金、食料品価格についても、企業には非常事態を考慮した柔軟な姿勢を期待したい。政府も不当な値上げがないか、注意深く監視すべきだ。好決算企業が多い中、今春闘での賃上げの流れを止めないよう経済界全体にもくぎを刺しておきたい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月05日  07:59:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

 

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【社説②】:重点措置の延長 対策強化へ知恵さらに

2022-03-11 07:42:30 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【社説②】:重点措置の延長 対策強化へ知恵さらに

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:重点措置の延長 対策強化へ知恵さらに

 新型コロナウイルス感染の広がりを二週間で抑え込めるのか。

 政府が、「まん延防止等重点措置」を適用している三十一都道府県のうち、首都圏や愛知、岐阜、静岡、石川など十八都道府県で期限を三月六日から二十一日まで再延長することを決めた。三重、長野など十三県では解除する。
 
 新規感染者数は減少傾向だが、減り方は鈍化し、病床使用率も高止まりしている。繁華街では夜の人出が増加し始め、現時点では、オミクロン株感染による致死率は季節性インフルエンザより高いとの分析もある。感染力がさらに強いとされる別系統のオミクロン株による感染拡大も懸念される。
 
 しかし、岸田文雄首相は二週間の期限延長で感染収束ができるのか、明確な見通しを語ってはいない。地域によっては飲食店への時短営業要請などが続く。感染収束の見通しと二週間の根拠を丁寧に説明すべきではないか。
 
 政府はこれまで、重点措置の適用は経済圏を一にする地域全体を対象にしてきたが、可能な地域から解除する方針に転じた。三月一日に緩和した水際対策も、さらに緩和するという。
 
 長引くコロナ禍で経済へのダメージは深刻さを増しており、社会経済活動を一刻でも早く再開したいとの姿勢がにじみ出ている。
 
 しかし、感染収束に向かわない現状では、さらなる対策の強化に知恵を絞らねばなるまい。
 
 重症化しやすい高齢者に感染が広がり、特に高齢者施設でのクラスター(感染者集団)が多発している。医療が逼迫(ひっぱく)しているために入院できずに施設にとどまらざるを得ない状況は放置できない。
 
 大阪府は施設に往診する医療チームへの支援を始めた。病院での治療を終えた高齢者が移る臨時医療施設の整備と併せて、患者の受け皿を広げる狙いがある。高齢者への三回目のワクチン接種を促進しつつ、医療と介護との連携を強める手だてをさらに講じたい。
 
 保健所の人員不足は依然、解消されていない。特に、感染経路の調査や健康観察などを担う保健師の確保が急務だ。
 
 自治体内での人員のやりくりや業務の外部委託、医療機関による健康観察など保健所の負担軽減に取り組んではいるが不十分だ。濃厚接触者調査の簡略化や待機期間短縮などオミクロン株の特性に合わせた対応を進める必要もある。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月05日  07:58:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:ロシア非難決議 国際社会の結束示した

2022-03-11 07:42:20 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【社説①】:ロシア非難決議 国際社会の結束示した

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ロシア非難決議 国際社会の結束示した 

 ロシアのウクライナ侵攻を巡って開かれた国連総会の緊急特別会合で、ロシア軍の即時撤退を求める決議が圧倒的多数の賛成で採択された。法的拘束力はないが、加盟国の七割強に当たる百四十一カ国が賛成した事実は重い。ロシアは国際社会の批判を誠実に受け止め、無条件撤退を決断すべきだ。
 
 国連は一九四五年、二度にわたる世界大戦の反省を踏まえ「戦争の惨劇から次の世代を救うため」(国連憲章)に発足した。
 
 国連の中核組織である安全保障理事会は、世界の平和と安全の問題に責任を持ち、法的拘束力を持つ決定をすることができる。
 
 しかし、ウクライナ侵攻を非難する安保理決議案は、五大国で構成する常任理事国の一つ、ロシアが拒否権を発動し否決された。
 
 安保理が常任理事国の利害衝突で機能不全に陥るのは今回に限らないとはいえ、プーチン大統領が核兵器使用を示唆したり、百万人を超える難民が周辺国に押し寄せて人道的な危機が拡大するなど、事態は極めて深刻だ。
 
 安保理に代わる緊急特別会合での決議採択で、国連は一定の役割を果たしたと言えるだろう。
 
 決議は、民間施設への攻撃や、子どもを含む民間人に死傷者が出ていると伝えられていることに「深刻な懸念」を表明。全てのロシア軍が即刻、無条件で撤退するよう求める内容だ。
 
 緊急特別会合では、決議への賛成を呼びかけたウクライナの国連大使に対し、各国が協力と連帯を表明したが、ロシアの国連大使は民間人への攻撃を否定し、決議が緊張をさらに高めかねないと警告した。
 
 こんな、恫喝(どうかつ)を繰り返していては、国際的な孤立は一層深まるばかりだろう。
 
 決議に反対したのはロシア、北朝鮮、ベラルーシ、シリア、エリトリアの五カ国にすぎない。ロシアは、国際社会が一致して、武力攻撃が不当で、大義名分がないと認めたことに気付くべきだ。
 
 国連にとって、この決議は最初の一歩にすぎない。外交的解決に向けてより結束を強め、引き続き努力を尽くす必要がある。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月04日  07:02:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:水平社宣言100年 反差別の志受け継いで

2022-03-11 07:42:10 | 【人権・生存権・同性婚・人種差別・アイヌ民族・被差別部落・ハンセン病患者】

【社説①】:水平社宣言100年 反差別の志受け継いで

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:水平社宣言100年 反差別の志受け継いで

 「人の世に熱あれ、人間(ジンカン)に光あれ」。百年前に創設された全国水平社の宣言文だ。部落差別の解消のみならず、水平社の理念は人権運動総体をけん引した。その志を受け継ぎたい。

 全国水平社の創設は一九二二年三月三日。京都市での創設大会には被差別部落出身者ら三千人が参加した。明治政府は一八七一年の解放令で「穢多(えた)」「非人(ひにん)」などの身分制度を廃止したが、その後も厳しい差別が続いた。その解消を目指し、水平社は日本で初の当事者団体として結成された。
 
 その歩みは戦後、部落解放全国委員会(現在の部落解放同盟)に継承され、運動により部落差別の解消を「国の責務」とした同和対策審議会答申が勝ち取られた。
 
 一方で水平社時代の戦争協力や戦後も同対審事業を巡る不祥事など、運動には曲折があった。
 
 ただ、日本初の人権宣言として百年前に放たれた水平社宣言の光彩はいまも色あせていない。宣言は当時、米誌でも紹介され、その後は障害者、アイヌ民族など他の人権運動に影響を与えた。
 
 宣言の画期性は差別された当事者が同情を乞うのではなく、自尊の精神を抱いて社会変革を訴えた点にある。さらにその訴えを自分たちだけに閉ざさず、「人間を冒涜(ぼうとく)してはならぬ」と社会全般に普遍化したことにあるだろう。
 
 言うまでもなく、差別をなくす闘いは容易ではない。現在も被差別部落を巡っては結婚などの差別が残り、地名の一覧がネット上に掲載される事件も起きている。
 
 在日コリアンやアジア人らへのヘイトスピーチ、技能実習生らに対する暴行や搾取の横行、入管施設での長期収容や死亡事件にも人権感覚の欠如が表れている。
 
 日本だけではない。社会格差の拡大は排外主義の台頭を促し、ネット社会は偏見や憎悪を助長しがちだ。特に非常時には人権意識が損なわれやすい。コロナ禍での感染者への差別は記憶に新しい。
 
 現代社会を見つめれば、水平社宣言が過去の遺物ではないことが分かる。次の百年に向け、私たちにはその理念を共有し、反差別のバトンを受け継ぐ義務がある。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月03日  07:39:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:絶えぬ虐待死 現場力の充実忘れるな

2022-03-11 07:42:00 | 【学校等の陰惨ないじめ・暴力・体罰・自死・家庭での虐待・不登校・児相】

【社説②】:絶えぬ虐待死 現場力の充実忘れるな

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:絶えぬ虐待死 現場力の充実忘れるな 

 親の手で幼い命が奪われる悲惨な事件が後を絶たない。神奈川県大和市で、小学一年の次男を窒息死させたとして、四十二歳の女が逮捕された。岡山市では、六歳の女児が鍋の中に長時間立たされるなど、母親と交際相手による信じ難い蛮行の末に亡くなった。
 
 大和市の女は、前夫らとの間に計四人の子をもうけ、次男以外はいずれも乳幼児のころに死亡していた。事件性は当時疑われなかったというが、児童相談所は「要注意」とみて、次男を親元から離す一時保護を二度、実施した。
 
 二度目に保護した際、女は次男を施設に入所させることを拒否。児相は入所の必要性を横浜家裁に申し立てたが、家裁は却下した。児相は一時保護を解除せざるを得ず、次男は九カ月後、女に鼻と口をふさがれ死亡したとされる。
 
 女には、精神疾患の一種で、わが子を傷つけることで周囲の気を引こうとする「代理ミュンヒハウゼン症候群」の疑いがあったという。危険性を認識していた児相からすれば痛恨の極みに違いない。
 
 児童虐待の認知件数は増加に歯止めがかからず、毎年五十人前後が命を落としている。児相の対応が後手に回り、批判を浴びる例は少なくないが、大和市では、司法判断の結果、幼い命を守れなかった。綿密な検証が求められる。
 
 今国会では一時保護の妥当性を家裁が判断する制度の導入に向けて児童福祉法の改正案が審議される見通しだ。現行は児相の判断で一時保護ができる。司法審査制度により、透明性や中立性が高まるとの期待の一方、大和市のケースは、親子を引き離すことに対する「慎重さ」の代償も物語っていよう。最前線に立つ児相にさらに事務手続きの負担をかければ、迅速な対応を損なうことにもなりかねない。逆に、児相の判断停止につながらないかとの懸念もある。
 
 国、地方は模索を続ける。妊産婦から、虐待や貧困問題を含む子育て世代まで、児相とも連携し一元的に支える「こども家庭センター」を各市区町村に設置することが検討され、二〇二三年度には「こども家庭庁」も発足する。
 
 制度や組織の変更に伴い、児相が矢面に立って対処する気概や当事者意識を失っては本末転倒だ。児童福祉司や児童心理司の増員をはじめ、医師、弁護士、警察との情報共有など、現場力を着実に充実させることが肝要である。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月03日  07:39:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【筆洗】:岩手が生んだ宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はよく知られる。いじ…

2022-03-11 07:41:55 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【筆洗】:岩手が生んだ宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はよく知られる。いじ…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:岩手が生んだ宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はよく知られる。いじ…

 岩手が生んだ宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はよく知られる。いじめられっ子の少年ジョバンニが親友と、銀河を列車で旅する物語

 ▼船の沈没事故に遭って救命ボートにも乗れず「神さまのとこへ行く」という青年らも列車に乗り、途中で降りる。他人を押しのけてボートに乗るより天に召される方が幸せという青年ら。死が暗示される銀河で、ジョバンニは幸せとは何かと悩む

 ▼岩手などで多くの命を奪った東日本大震災から十一年。児童ら八十四人が亡くなった宮城県石巻市の旧大川小学校では、校庭の隅のコンクリート壁に銀河鉄道の夜など賢治の世界が描かれている。先の報道で知った

 ▼震災の約九年前に、在校生が銀河を走る列車などをかいた。壁画の一部の損傷が学校を襲った津波の力を示す。これから災害に遭う人が命を失わないよう、悲しみと教訓を伝える校舎は壁画とともに残された。娘を亡くした父親は「子どもたちが星になって見守ってくれている。ここは命を考える場所」と語る

 ▼物語では、ジョバンニの親友も銀河で姿を消す。一人きりで現実の町に戻される前、ジョバンニは天の川の孔(あな)を見て誓う。「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く」

 ▼幸せとは勇気を持って人のために生きること、だろうか。それはきっと、星になった人のためでもいい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】  2022年03月11日  07:02:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【岸田首相の一日】: 3月10日(木)

2022-03-11 07:41:50 | 【社説・解説・論説・コラム・連載】

【岸田首相の一日】: 3月10日(木)

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【岸田首相の一日】: 3月10日(木)

 【午前】8時24分、東京・豊洲の豊洲市場。金子原二郎農相出迎え。「高島屋海苔店」でのりを購入。44分、食品関連企業の経営者らと車座で意見交換。9時36分、報道各社のインタビュー。10時11分、官邸。16分、磯崎仁彦官房副長官。

 【午後】0時53分、国会。1時、参院予算委員会。5時13分、官邸。22分、国家戦略特区諮問会議。58分、村田隆内閣危機管理監、秋葉剛男国家安全保障局長、滝沢裕昭内閣情報官、神田真人財務官、外務省の鈴木浩外務審議官、宇山秀樹欧州局長、保坂伸資源エネルギー庁長官、増田和夫防衛省防衛政策局長。6時27分、山口那津男公明党代表と与党党首会談。7時23分、報道各社のインタビュー。51分、国家安全保障会議。8時42分、公邸。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政局・岸田首相の一日】  2022年03月11日  07:37:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【筆洗】:先の戦争中、金魚を飼って拝めば、爆弾で死ぬことはないという…

2022-03-11 07:41:45 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【筆洗】:先の戦争中、金魚を飼って拝めば、爆弾で死ぬことはないという…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:先の戦争中、金魚を飼って拝めば、爆弾で死ぬことはないという…

 先の戦争中、金魚を飼って拝めば、爆弾で死ぬことはないという迷信が信じられていたことを以前に書いた

 ▼ある食べ物にも同じ効果があると人びとの間では信じられていたそうだ。らっきょうである

 ▼映画「無法松の一生」の主人公で元気者の松五郎の好物がらっきょうだったことを思い出したが、それとは無関係らしい。「脱去」という言葉が理由である。敵機が空襲を終えて去っていくという意味で当時はよく使われたそうだが、その脱去と音が似ているのでらっきょうは空襲除(よ)けになると信じられていたそうだ

 ▼<またの夜を東京赤く赤くなる>三橋敏雄。約十万人が犠牲となった一九四五年の東京大空襲から本日で七十七年となる。以前は金魚やらっきょうの話を聞いても当時の人はそんな根拠のないことを信じていたのかという驚きの方が先にきたが、ロシア軍のウクライナ侵攻が続く今はそうではない

 ▼民間人さえ容赦しない酸鼻を極める空爆。防ぎようも逃げ場もない。絶望的な状況に置かれた時、人はひどい駄じゃれだろうと、らっきょうを信じるしかなかったにちがいない

 ▼キエフの今に東京大空襲の痛みをより生々しく感じる。そして戦争は遠い昔のことではなく、ひとたび野心と悪意にとりつかれた人間が出現すれば、またたく間に、金魚とらっきょうの時代はめぐってくる。認めたくない現実をかみしめる。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】  2022年03月10日  07:04:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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