路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

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【社説①】:ヤジ排除は違法 警察は「言論」を奪うな

2022-03-30 07:56:55 | 【警視庁・警察庁・都道府県警察本部・警察署・刑事・警察官・警部・監察官室・...

【社説①】:ヤジ排除は違法 警察は「言論」を奪うな

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ヤジ排除は違法 警察は「言論」を奪うな 

 「安倍辞めろ」のヤジを飛ばした市民を警察が排除した是非を問うた訴訟で、札幌地裁が「警察官は表現の自由を制限した」とし、損害賠償を認めた。大いに評価する。警察が市民の「言論」を奪うことこそ、排除に値する。
 
 二〇一九年七月に街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした男女二人に対し、北海道警は肩や腕をつかみ、演説場所から移動させた。だが二人は「安倍辞めろ」「増税反対」などと声を上げただけである。
 
 警察官職務執行法では、人の生命・身体に危険を及ぼすなどの場合には、危害を受ける恐れのある者を避難させうると定める。札幌地裁では当時の動画を点検しても、警職法の要件を満たさず、「違法だ」と弾劾した。
 
 二人の言動が「公共的・政治的事項に関する表現行為」であることも認めた。それゆえ同地裁は警察官の行為が「(憲法の)表現の自由を制限したというべきである」と断じた。
 
 原告の女性は歩いて移動中だったが、警察官は長時間、つきまとった。これについても「移動の自由を侵害した」と認めた。
 
 札幌地裁の判断には一つ一つ、うなずける。当時の現場が危険な状況でなかったことが、動画という“動かぬ証拠”で残っていたことが大きかった。北海道に対し損害賠償の支払いも命じている。
 
 増税に反対したり、首相辞任を求める声を上げるのは、民主主義社会ではポピュラーな光景の一つである。市民の声が尊重されるのは当然のことでもある。それなのに憲法で保障された表現の自由を侵してまで警察が封じようとしたのはなぜなのか。
 
 一七年の東京都議選では政権批判する人たちを指さして、安倍首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言した。一九年の参院選では安倍首相の遊説日程を明かさない「ステルス遊説」が話題となった。
 
 批判の声を表に出さない戦略だったとされる。道警のヤジ排除は同じ思考回路でできていたのではないか。遊説でのヤジは政治批判の声を一般市民が直接、首相にぶつける希有(けう)な機会でもある。
 
 警察官の行動は、そんな政権批判の意見を事実上、封じ込めたに等しい。道警は首相に忖度(そんたく)したのか。市民排除に至った意図や経緯も明確に説明すべきである。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月30日  07:56:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:経済対策を指示 暮らしへの思い足りぬ

2022-03-30 07:56:50 | 【金融・金融庁・日銀・株式・為替・投資・投機・FRB・「ドル円」・マーケット】

【社説②】:経済対策を指示 暮らしへの思い足りぬ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:経済対策を指示 暮らしへの思い足りぬ 

 岸田文雄首相が緊急経済対策の策定を指示した。円安と原油高で物価上昇に拍車がかかり対策を講じるのは当然だ。だが取りまとめ時期が四月末と遅い。暮らしへの思いが足りないのではないか。
 
 外国為替市場では円安傾向が鮮明になっている。対ドル相場は一時、六年七カ月ぶりに一ドル=一二五円台を付けた=グラフ。
 
 
 米国がインフレ抑止のために金利を上げ、日本の長期金利も上がり始めたが、日銀が長期金利の上昇抑制策を実行した結果、金利の高いドルが買われ円を売る動きが一層強まった。
 
 長期金利上昇は国債の価値低下を意味し、日本経済の信用も揺らぎかねない。日銀の措置はやむを得ないだろう。
 
 ただ金利を低下させれば円安圧力が強まるのは避けられない。円安は輸入価格の上昇を通じて物価高騰を加速させる。
 
 値上げの波はウクライナ情勢に伴いエネルギー価格にとどまらず生活必需品全般に広がっている。コロナ禍で深手を負った暮らしに、物価高がさらなる打撃を与えている形だ。流通コストの増加に苦しむ飲食店などの店舗や中小企業にとっては死活問題である。
 
 だが日銀の黒田東彦総裁は二十五日の衆院財務金融委員会で円安について「経済にプラスに作用している構図は変わりない」と発言した。円安容認と受け取られかねず疑問を持たざるを得ない。
 
 政府の動きも鈍い。値上げは四月一日から一段と加速する。本来なら三月中に対策の具体的メニューを国民に示すべきだった。もし今夏の参院選対策を念頭に取りまとめを遅らせているのなら見過ごせない。
 
 政府は原油や穀物、水産物を対象にした物価抑制策と中小企業や生活困窮者への支援を経済対策の軸に据える。だが全体の取りまとめを待っていたのでは支援は間に合わない。的を絞った対策を準備が整い次第実行すべきだ。
 
 その際、大規模な円買い介入も視野に入れた円安防止策の検討も進めてほしい。年金生活者への五千円給付は一転、白紙から見直すことになったが、当然である。 

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月30日  07:55:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:米アカデミー賞 評価を受けた「普遍性」

2022-03-30 07:56:35 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【社説①】:米アカデミー賞 評価を受けた「普遍性」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:米アカデミー賞 評価を受けた「普遍性」 

 濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が、映画界屈指の栄誉とされる米アカデミー賞の「国際長編映画賞(旧外国語映画賞)」に輝いた。期待された作品賞こそ逃したものの、日本映画の新たな魅力を世界に知らしめた、その快挙を喜びたい。
「ドライブ・マイ・カー」ビジュアル
 
 アカデミー賞は「米映画芸術科学アカデミー」会員の投票で選ばれる。二〇一六年、当時約六千人だった会員の大半を高齢の白人男性が占め、演技部門の候補者が白人に偏り過ぎていたことが問題になり、アカデミーは女性と非白人、アジアなど外国人会員の数を大幅に増やす改革を試みた。
 
 二〇年、ポン・ジュノ監督による韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が非英語の映画としては初の作品賞を受賞した。改革の効果という面もあろう。
 
 日本映画史上初めて作品賞にノミネートされた「ドライブ・マイ・カー」への高い評価も「多様化」の流れの中にはあるものの、もちろん、それだけではない。
 
 秘密を抱えた妻を亡くした演出家兼俳優が、深い喪失感と向き合いながら、再生の光を見いだす物語。サムライもニンジャも登場せず、〇九年に外国語映画賞を受けた「おくりびと」(滝田洋二郎監督)のような日本情緒も漂わない。娯楽性の希薄な約三時間の長編が、全米で四カ月の拡大ロングランを続けている。
 
 世界中がコロナ禍による喪失感と焦燥感、ロシアのウクライナ侵攻による不安感に包まれる中、濱口監督が作品に込めた救済と希望のメッセージが、言葉の壁を越えて、観客の心の内に深く静かに染み入った。
 
 原作となった村上春樹氏の文学同様、一種「無国籍」的な劇空間が幅広い層の理解につながった面もあるだろう。
 
 作品の重要な部分を占める劇中劇、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」。日本語、英語、北京語など数カ国語が飛び交う「多言語劇」のラストシーンで、ヒロインのソーニャが韓国手話で“語る”台詞(せりふ)が象徴的だ。
 
 <生きていきましょう/長い長い日々を/長い夜を生き抜きましょう>
 
 「多様性」の中の「普遍性」−。日本映画の新たな地平を切り開き、広く世界に知らしめた。「国際長編映画賞」の名に、これほどふさわしい作品はない。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月29日  08:08:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:中国の感染拡大 ゼロコロナ転換も探れ

2022-03-30 07:56:30 | 【感染症(1類~5類)・新型コロナ・エボラ・食中毒・鳥インフル・豚コレラ】

【社説②】:中国の感染拡大 ゼロコロナ転換も探れ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:中国の感染拡大 ゼロコロナ転換も探れ 

 北京五輪と全国人民代表大会(全人代=国会)が終わった中国で、上海をはじめ大都市での都市封鎖が行われるなど、オミクロン株を中心とした新型コロナウイルスの市中感染が急拡大している。
 
 都市封鎖などの強権的手法を伴う「ゼロコロナ政策」により、中国は北京を重点に感染を抑え込んできたが、地方でゆるみが見られるのが心配だ。
 
 二十七日現在の中国の感染者数は計約百二十六万三千八百人と、人口比で考えると六百三十八万五千人余の日本や欧米より断然少ない。だが、五輪期間中の新規感染者は一日数千人前後だったのに対し、三月に入り四千人を超える日が続き、二十六日は五千五百五十人と新規感染が急拡大している。
 
 習近平国家主席は三月中旬の会議で「ゼロコロナ政策」の徹底を指示。例えば、深圳市で二十日まで一週間の都市封鎖が実施されたのをはじめ、二十四日には瀋陽市で、二十八日には上海市の東半分で都市封鎖が始まった。
 
 中国は封鎖期間を短くするよう努力しているが、生産や消費への悪影響は避けられそうもなく、厳しい規制が市民生活に及ぼす影響も深刻になっている。
 
 今年の経済成長率目標は昨年より低い「5・5%前後」とされた。深圳市では厳し過ぎる規制に抗議するデモが発生したほか、情緒不安定になる人も多く、上海では老人の飛び降り自殺もあった。
 
 多くの国は「ウィズコロナ」の道を模索しており、中国も「共産党統治の優位性」と胸を張ってきた「ゼロコロナ政策」の転換の道を探るべきであろう。
 
 ただ、封鎖など強力な措置を徹底せざるをえない背景には、ワクチンの問題もありそうだ。昨年末に香港大の研究チームは、中国のシノバック製のワクチンはオミクロン株の感染予防効果が低いとの研究結果を公表している。
 
 世界一の人口を抱える中国が政策を急転換させるには課題も多いが、コロナ対策と経済・社会政策の両立という「出口戦略」の構築が必要な時期に来ていよう。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月29日  08:07:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す

2022-03-30 07:56:15 | 【経済安全保障・戦略物資の供給網強化、基幹インフラの安全確保、先端技術開発他】

【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す 

 安全保障関連法が施行されて二十九日で六年が経過する。自衛隊は冷戦終結後、海外に頻繁に派遣され、今では「敵基地攻撃能力の保有」や「核共有」まで議論されている。戦争放棄と戦力不保持の憲法九条は、戦後日本の「平和国家」の在り方そのものだ。緩んだ九条の「たが」をいま一度、締め直す必要がある。
 
 昨年十二月に公開された外交文書は、一九九〇年八月に始まった湾岸危機が自衛隊海外派遣の「起点」になったことを示す。
 
 同年九月二十九日、米ニューヨークで行われた海部俊樹首相とブッシュ(父)米大統領との日米首脳会談。会談内容を記録した極秘公電によると、ブッシュ氏は多国籍軍による対イラク攻撃を念頭に「日本がFORCES(自衛隊)を参加させる方途を検討中と承知している。有益であり、世界から評価される」と、日本に対しても軍事的な協力を求めた。

 ◆自衛隊広がる海外派遣

 海部氏は、武力の行使を禁じた憲法九条を守る必要があるとした上で「汗を流す協力をしたい」と自衛隊員の派遣に意欲を示した。
 
 
 海部政権が当初目指したのが、非軍事の別組織として国連平和協力隊を創設し、自衛隊員を参加させる案だった。根拠となる国連平和協力法案は世論の反発もあり廃案となったが、湾岸戦争終結後の九一年四月には海上自衛隊の掃海艇を機雷除去のためペルシャ湾に派遣した=写真、海自横須賀基地で本社ヘリ「おおづる」から。
 
 五四年の自衛隊創設以来初の海外派遣だった。
 
 中曽根内閣の官房長官として掃海艇派遣に反対した後藤田正晴氏は湾岸危機の際、海部氏に海外派遣が「アリの一穴になる」と忠告した。堤防は小さな穴から亀裂が広がりやがて崩壊する例えだ。
 
 湾岸戦争後、九二年に国連平和維持活動(PKO)協力法が制定されると、自衛隊は頻繁に海外派遣されるようになる。
 
 九七年に策定された新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)と九九年制定の旧周辺事態法で、自衛隊の米軍に対する後方支援活動も合法化され、日本領域外での活動が可能になった。
 
 二〇〇三年のイラク戦争では、ブッシュ(子)政権の求めに応じて、イラクで人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特別措置法、「テロとの戦い」ではインド洋で米軍などへの給油活動を行うテロ対策特措法が成立した。
 
 後藤田氏の懸念通り、自衛隊の活動地域は海外に広がり、役割も多岐にわたるようになったが、活動内容は「専守防衛」を逸脱しない範囲に限定されていた。武力の行使も、日本への急迫不正の侵害がある▽ほかに排除する適当な手段がない▽必要最小限度の実力行使にとどまる−との「三要件」に該当する場合に限られていた。
 これを根本から覆したのが、安倍晋三首相率いる政権だ。
 
 一四年には、長年の国会論議を通じて確立し、歴代内閣が継承してきた「集団的自衛権の行使」を憲法違反とする政府の憲法解釈を一内閣の判断で変更し、集団的自衛権の行使を可能とすることを閣議決定した。
 
 翌一五年には安保法の成立を強行し、外国同士の戦争への参加を可能にした。それまではPKOなどを除く自衛隊の海外派遣にはその都度、法律をつくる必要があったが、安保法により法整備を経ずに派遣できるようにもなった。
 
 湾岸危機で緩み始めた九条の「たが」は国際情勢の変化を名目にどんどん外れているように映る。
 
 安倍政権以降、防衛費は膨らみ続け、長射程ミサイルの導入計画が進む。ヘリコプター搭載型護衛艦は事実上空母化され、ステルス戦闘機の搭載が可能となる。

◆敵基地攻撃、核共有まで

 中国や北朝鮮のミサイル開発を受けて、長年、憲法違反とされてきた「敵基地攻撃能力の保有」検討を岸田文雄首相が言明。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、米軍保有の核兵器を日本に配備して日米が共同運用する「核共有」を巡る議論も活発化している。
 
 ただ、九条の平和主義や、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則は日本国民の血肉と化した国是であり、内外に多大な犠牲を強いた先の大戦の反省に基づく誓いだ。日本人の生き方そのものでもある。
 
 今、私たちが議論すべきは九条の「たが」を外して軍事力を強化することではなく、九条の精神に立ち返り、外交力を磨くことではないのか。安保法施行六年を、あらためて考える機会としたい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月28日  07:04:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」

2022-03-30 07:55:55 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」 

 いやな上司も、よりいやな上司が現れると、ましな上司に見えてくる−みたいなこと、世間ではままありますが、似たことが国際情勢でも起きている気がします。
 
 米国と中国は、民主主義と権威主義を代表する大国として鍔競(つばぜ)り合いを続ける中で、その距離はこれまでになく広がっていました。それを仮に「10」とします。ところが、中国と同じ辺りにいたロシアがウクライナ侵攻という暴挙で一気に中国よりはるか遠くへ。その結果として不思議なことが…。
 
 侵攻後の米・ロの距離を「10」とすれば、中国の位置はロシア寄りの「8」辺りでしょうか。つまりは相対的に米国と中国の距離は縮まったようにも見えるのです。

 ◆ロシアから遠ざけたい

 中国は経済制裁に反対し、プーチン大統領の無体な主張に一定の理解を示しています。それでも米国には、中国がにわかに「ロシアに比べればまだ話ができる相手」に見えてきているのではないでしょうか。実際、侵攻を巡って今月半ば、高官協議に続き、バイデン大統領と習近平国家主席のオンライン首脳会談も行われました。
 
 米国の狙いは無論、けん制。ロシアからの輸入増など経済制裁の底が抜けるような支援はダメ、軍備支援などもってのほか、というわけです。いわば「8」の中国を「7」か「6」、できれば「5」に近づける。間違っても「9」の方には行かせない−。米国の強気の要求に中国が反発、ひとまず結果はほぼ物別れでしたが、中国も西側との経済的紐帯(ちゅうたい)による利益は無視できない。その辺りをテコに今後も働きかけは続くでしょう。
 
 もし中国がロシア寄りの姿勢を改めるならば、ロシアには大打撃だからです。孤立は決定的、侵攻継続も再考を迫られましょう。煎じ詰めれば、ウクライナを救うためのカギは中国が握っていると言えなくもありません。
 
 今、世界が目撃しているのは、独立した民主主義国家が権威主義的体制の大国に武力で蹂躙(じゅうりん)されている様です。もし、民主主義陣営が、この暴挙を厳しくたしなめ、こんな愚行は「見合わない行為」だと世界に示せなければ、その他の権威主義的な強権を勇気づけることにもなりかねません。今後の権威主義との争いの行方にもかかわります。もっとも、その帰趨(きすう)は中国が「5」の方に傾くか「9」に寄っていくかに左右される。つまり、権威主義陣営の代表ともいうべき国がどう動くかにかかっているのですから皮肉な状況です。

 ◆強権だからこその蛮行

 ロシアへの経済制裁は苛烈で、国民も苦汁をなめていますが、情報を遮断してメディアや反戦デモを弾圧、不満を力で抑え込むことで今のところはプーチン政権が大きく揺らぐ気配はありません。
 
 これは、権威主義的な強権だからこそできることです。同じような状況になって、それでも耐えられる政権が、まともな民主主義の国のどこにあるでしょう。
 
 有力な政敵は容赦なく排除し、反対者は抑圧する。それを徹底してきたからこそ後顧の憂いなく妄想的行動にも突き進めてしまう。要は、ロシアのような強権を確立した国でなければ、あんな蛮行はできないということでしょう。
 
 そうした文脈からも、にわかに懸念が募ってきたのが中国と台湾の関係です。中国が武力行使をちらつかせ、台湾への軍事的圧力を強めている点も、ロシアの侵攻前の態度と不気味に重なります。
 
 言論は統制下、国民監視も行き届き、法治は名ばかり。そんな体制で年々独裁色を強めているのが習氏の中国です。その座を脅かす人物や勢力は影もなく、国民の反発を心配する必要がないという点でもプーチン氏以上でしょう。例えば、台湾への武力行使に抗議する反戦デモが北京で起きる−。そんな図は想像もできません。
 
 そして今、ロシアへの経済制裁を見て、こう高をくくっているとしても意外ではない。「『ロシア外し』はできても『中国外し』は無理だ」。実際、グローバル経済における存在感の大きさはロシアとは段違い。制裁を科す側が浴びる「返り血」の量もまた比べものにならないということです。

 ◆結局「中国がどう動くか」

 無論、米国といえども、経済制裁が難しいからといって簡単に武力に訴えるわけにもいかない。となれば、そもそも台湾有事を予防する方向へと考えが向かうのが自然でしょう。そう考えると、前政権時代から続く対中強硬路線の見直し、米側の歩み寄りを伴う劇的な米中接近がない、とは言い切れない気もしてきます。
 
 ともかく、結局は中国がどう動き、中国をどう動かすか−。今度もまた、話はそこに行き着いてしまいます。つまりは、それが国際政治の「現実」なのでしょう。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月27日  07:40:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ

2022-03-30 07:55:40 | 【北朝鮮・朝鮮半島・拉致問題・独裁・朝鮮総連・朝鮮学校】

【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ 

 北朝鮮が発射した新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)が、北海道沖百五十キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水した。ミサイルの性能を誇示して米国に圧力をかけ、制裁を緩和させる狙いだろうが逆効果だ。市民を不安に陥れる許しがたい暴挙であり、ただちに中断するよう求める。
 
 北朝鮮は新型ミサイル「火星17」を通常より高い角度で打ち上げたことを認めた。飛行時間や高度は過去最高の数字で、性能の向上が著しい。岸信夫防衛相は通常の角度で発射した場合、米本土全域が射程に入るとの分析結果を明らかにしている。
 
 国連安全保障理事会決議の明らかな違反であり、二〇一八年四月に北朝鮮が約束した核実験とICBM発射の猶予(モラトリアム)を、わずか四年で破ったことになる。無謀な行動と言うしかない。
 
 ただ、安保理では現在、ロシアのウクライナ侵攻を巡って米国と中ロが対立しており、北朝鮮への追加制裁で足並みをそろえることは難しい。このタイミングで発射したのは、安保理の混乱した状況を見越してのことだろう。
 
 隣国の韓国は大統領選が終わったばかりだ。五月に就任する尹錫悦(ユンソンニョル)次期大統領は北朝鮮に対し、先制攻撃を含む強い姿勢で臨むことを明らかにしており、政権移行期を狙って、北朝鮮側が揺さぶりをかけてきた可能性もある。
 
 北朝鮮は今年に入り、中距離ミサイルなどの発射実験を繰り返してきた。モラトリアムを破る今回の発射は、一線を越えたことを意味する。米国は北朝鮮に対する独自制裁の強化を発表し、米朝対話再開はいっそう難しくなった。
 
 最高指導者の金正恩(キムジョンウン)総書記は今回、発射現場を視察して「米帝国主義との長期的対決へ徹底的に準備する」と宣言した。北朝鮮は、四月十五日に故金日成(キムイルソン)主席の百十回目の誕生日などを控えており、国威発揚のため発射を継続するつもりなのだろう。
 
 ICBM発射を受けて、日韓両国の外相が電話で会談し、協力を確認した。日米韓の協力をより緊密にして、隙のない北朝鮮対応に努めてほしい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月26日  07:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと

2022-03-30 07:55:30 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと 

 ロシアの侵攻を受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領が、日本の国会でオンラインで演説しました。
 
 「アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのが日本だ。制裁の継続をお願いする。ロシアが平和を望むための努力をしよう。ウクライナに対する侵略の津波を止めるために、ロシアとの貿易を禁止しなければいけない」
 
 国際法に反したロシアの蛮行で自国民が犠牲となり、今なお危機にひんしている国家の代表として、国際社会に対して協力を呼び掛ける姿には胸が打たれます。ロシアの軍事行動を一刻でも早く食い止め、少しでも多くの命を救わねばなりません。
 
 憲法九条で国際紛争を解決する手段としての戦争や武力による威嚇、武力の行使を放棄した日本は、軍事的協力はできませんが、ロシアに停戦を促すための経済制裁や戦後の復興、民生安定などできる限りの協力はすべきです。
 
 私たち論説室も二十五日社説で、大統領演説に「日本らしいウクライナ支援で応えたい」と応じました。
 
 ただ、同日の本紙特報面も報じていたように、演説後、山東昭子参院議長が「貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」と述べたことには、違和感を覚えました。
 
 侵略をしたロシアが悪いと分かってはいても、国のために市民が命を賭して戦う姿を称賛することは、太平洋戦争当時の「本土決戦」「一億玉砕」のスローガンとどうしても重なってしまうのです。
 
 年配の読者の方からも「私たちが子どものときの状況と同じで心が痛みます。人ごとと思えません。私も夫も中学校教員でした。教え子たちや子、孫が平和に生きられる世界を強く望みます」との意見が届きました。
 
 ウクライナ国民と連帯することに全く異論はありませんが、それ一色に染まり、疑問や異なる意見を言い出しづらくならないようにはしたい。多様な意見の存在こそが、ロシアと対極にある民主主義、自由主義の価値だからです。
 
 戦争は人々を熱狂させ、為政者はそれを利用しようとします。それが歴史の教訓でしょう。だからこそ、どこかに冷静さを持ちながら議論することが、より大切になると思えてならないのです。 (と)

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【ぎろんの森】  2022年03月26日  07:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ

2022-03-30 07:55:20 | 【国会(衆議院・参議院・議運 ・両院予算委員会他・議員定数・「1票の格差」...

【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ 

 安倍晋三内閣が二〇一七年に臨時国会を約三カ月開かなかったことは違憲だとした訴訟で、福岡高裁那覇支部は「極めて重要な憲法上の要請だ」と認めた。少数派の意見を国会に反映させる憲法の意義を踏みにじってはならない。
 
 憲法五三条は、衆参いずれかの総議員の四分の一以上の求めがあれば、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないと定める。
 
 一七年六月二十二日に野党は召集を要求したが、実際の召集は九月二十八日。かつ安倍内閣は冒頭で衆院を解散してしまった。
 
 当時、野党は森友・加計学園問題を追及する構えだったが、審議できなかった。そのため国会議員らが「違憲だ」として、国家賠償法に基づき提訴していた。
 
 那覇支部は五三条について「少数派の国民の意見を国会に反映させる趣旨に基づく」と述べた上、「合理的期間内に召集すべき憲法上の義務を定めたものだ」と指摘した。その上で「国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させる観点からも(臨時国会召集の)義務は極めて重要な憲法上の要請だ」と断言した。
 
 少数派を守る意義を、強い表現で述べた点は大いに評価したい。同種の訴訟は東京や岡山でもあるが、岡山訴訟でも違憲の余地があるとの判断が出ている。
 
 もっとも那覇支部は召集は国会と内閣という国家機関相互の義務だとして「議員個人に義務を負っているとは言えない」と述べた。それゆえ損害賠償は認めず、憲法判断にも立ち入らなかった。
 
 あたかも内閣が憲法を無視しても、裁判所はなすすべなし、との姿勢である。だが、それは国賠法という枠組み内での結論にすぎず議会制民主主義という枠組みで考えれば明らかに問題がある。
 
 英国では一九年、欧州連合(EU)離脱を巡り、ジョンソン首相が議会を長期にわたり閉会した措置を、英最高裁が「違法・無効」と判断したことがある。長期閉会は議会審議を封じるためで「民主主義の原理に深刻な影響がある」と考えたためだ。
 
 国会を開かないという議会制民主主義で越えてはならない一線を越えた場合、司法が下位にある法律の枠で対処し、上位にある憲法判断を回避しては民主主義原理が機能しない。最高裁は三権分立の観点からも内閣の行き過ぎに歯止めをかける判断をすべきである。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月25日  07:08:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えたい

2022-03-30 07:55:15 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えた

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えた 

 戦地からのメッセージを真摯(しんし)に受け止める。ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会で行ったオンライン演説=写真。停戦に向けた非軍事的貢献や戦後の民生安定に協力する。そんな日本らしいウクライナ支援で応えたい。
 
 
 軍事援助はできない日本の事情を分かっているのだろう。欧米での演説で、飛行禁止区域の設定や武器供与を求めたのとは違って、ゼレンスキー氏が日本に期待したのは、主に対ロシア制裁の継続と復興支援だった。
 
 「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本だ。制裁の継続をお願いする」としたうえで、「侵略の津波を止めるため」にロシアへの経済的な締め付けを強めるよう訴えた。
 
 戦後復興については「避難した人々が古里に戻れるようにしなくては。住み慣れた古里に戻りたいという気持ちを日本の皆さんもきっとお分かりだろう」と語った。
 
 東日本大震災に直接言及することはなく、日本人の共感をさりげなく引き出す狙いだったのだろう。こんな意図が随所に見られる演説だった。
 
 ウクライナ政府の推計では、道路、橋など千二百億ドル(約一四・五兆円)相当のインフラがこれまでに破壊された。ゼレンスキー氏の要請に応えて、日本は戦災復興に協力を惜しんではならない。
 
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、国外に逃れたウクライナ避難民は三百六十万人を超えた。日本は避難民受け入れの枠を拡大するとともに、多数の避難民を受け入れているポーランド、ルーマニアなどのウクライナ周辺国への支援を進めてほしい。
 
 国連開発計画(UNDP)は戦争が長期化した場合、向こう一年でウクライナ国民のほぼ三分の一が一日五・五ドル(約六百六十円)未満で生活する貧困層に陥るとの見通しを示している。国連を通じた生活支援も求められるだろう。
 
 ロシアの無差別攻撃は続き、民間人の死傷者は増える一方だ。国際社会が結束し、プーチン政権を停戦・撤退に追い込む必要がある。岸田政権はアジア諸国への働き掛けにも力を入れてほしい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月25日  07:08:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く

2022-03-30 07:54:55 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く 

 ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、国連が機能不全に陥っている。安全保障理事会常任理事国であるロシアが「拒否権」を行使する一方、根拠を欠く主張で混乱させているためだ。安保理改革の必要性を訴えてきた日本は他国と協力して改革への動きを加速したい。
 
 ロシアは安保理で、米国が関与する生物兵器開発計画がウクライナに存在すると主張し、「安保理を政治宣伝に利用している」と批判する米欧と厳しく対立した。
 
 国連も存在を否定するこの計画をロシアが執拗(しつよう)に主張するのは、侵攻の正当性をアピールし、自ら生物兵器を使用する口実にしているのではないか。国際的な平和と安全に責任を持つべき常任理事国としての役割の完全な放棄だ。
 
 ロシア非難決議案はロシアの拒否権行使で否決された。代わりに採択された国連総会緊急特別会合の決議に法的拘束力はなく、侵攻を止めるには至っていない。
 
 ロシアは独自に、ウクライナ市民の保護などを求める人道に関する決議案を安保理に提出したが、侵攻に関するロシアの責任やロシア軍の撤退などは盛り込まれておらず、批判を受けて撤回した。国際世論の批判の矛先を自国からそらし、安保理を混乱させる狙いと言わざるを得ない。
 
 国連憲章は二条で加盟国の「主権平等原則」を明記するが、「拒否権」を持つのは五常任理事国だけ。ロシアに限らず常任理事国の暴挙は止められない構造だ。
 
 国連憲章は、加盟国の三分の二の賛成で改正できるが、五常任理事国すべての賛成が条件であり、ロシアを常任理事国から外すなどの抜本的改革は困難だ。
 
 しかし、安保理に象徴される国連の機能不全が続けば、国連や傘下の国際機関に対する不信感がさらに高まるのは避けられない。
 
 岸田文雄首相は国会で、ロシアの国際法違反を指摘し、拒否権改革に取り組む姿勢を強調した。
 
 常任理事国のフランスも拒否権行使の抑制などの改革を提案している。難しい課題だが、国連が本来の役割を果たすため、粘り強く安保理改革への理解を広げたい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月24日  07:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して

2022-03-30 07:54:50 | 【雇用・正規、非正規・パート・賃上げ・失業率・求人・労働組合・労働貴族の連合】

【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して 

 今年の春闘で注目された出来事の一つは、トヨタ自動車による前倒し「満額回答」だろう。春闘の存在意義が曖昧になるとの論点とは別に、日本を代表する企業自ら「賃上げ」の社会的意義を発信したことには大きな意味がある。
 
 日本は「経済大国」のイメージとは裏腹に、今や先進国の中では「低賃金の国」だ。経済協力開発機構(OECD)によると、物価水準を考慮した購買力平価ベースでみた二〇二〇年の日本の平均賃金(年額)は四百三十九万円(一ドル=一一四円換算)で加盟三十五カ国中二十二位。一九九〇年と比べると4%しか増えていない。
 
 トップの米国は七百九十一万円で50%増。韓国も一五年に金額で日本を抜き、伸び率は90%だ。
 
 減税や雇用規制の緩和で優遇して企業の財務状況をよくすれば、投資も増え、賃金が上がり、消費が上向く。モノが売れれば利益は増え、設備投資も賃金もまた伸びる。近年の日本の政権が描いてきたシナリオだが、利益は内部留保や株主配当へと回り、賃金はほぼ横ばい。消費も伸びなかった。
 
 そんな中でのトヨタの異例の行動だ。豊田章男社長は労組側との一回目の交渉で事実上の満額回答を示した際、「良い風を吹かせたい」と発言した。日本を代表する企業として「まずは賃上げから経済の好循環を」というメッセージを発したと受け止めたい。
 
 トヨタの姿勢が呼び水になり、今年の春闘では自動車大手各社などで満額回答が相次いだ。
 
 しかし、大企業社員の給料が上がっただけでは消費拡大につながらない。全従業員の七割を占める中小企業への広がりこそ課題だ。
 
 トヨタの労使交渉では、仕入れ先の収益向上支援を促進させることも確認し合った。大手が過剰な値下げ要求を慎むことは中小の賃上げ環境づくりに欠かせない。
 
 政府は賃上げ企業に対する法人税減税で、賃上げを促進させる考えだが、各企業はかつて米フォードの創業者ヘンリー・フォードが提唱した「賃金動機」こそ思い出すべきだろう。「経営は、利潤ではなく賃金を上げられることを動機とすべきだ」という考えだ。
 
 その理念に基づいて、フォードは高価な自動車も買えるようにと破格の賃金を労働者に支払った。従業員=消費者。その教えに基づけば、脱「低賃金」しか、経済再生への道はあるまい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月24日  07:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか

2022-03-30 07:54:35 | 【電力需要・供給、停電・エネルギー政策・原発再稼働・核ゴミの中間最終貯蔵施設他

【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか 

 政府が東京、東北両電力管内を対象に初の「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」を発令した。地震による火力発電所の停止が続き、気温低下で電力需要が急激に増えたためだ。
 
 警報発令の必要性は認める。同時に、需給見通しの甘さが唐突な警報発令につながり、家庭や企業による節電量の不足につながっていることも指摘したい。
 
 十六日の福島県沖を震源とする地震の後、東京、東北両電力管内の複数の火力発電所が停止。関東一円での大規模停電を避けるために、都内などの一部地域で自動的に停電させる「負荷遮断」を実施せざるを得なかった。
 
 その後も火力発電所の一部は依然、復旧していない。二十二日からは予想以上に気温が下がることが判明したため、二十一日夜になって警報が発令された。
 
 今の時期、気温が真冬並みに下がることは珍しくない。厳冬は元々、予想されており、昨年十二月には悪天候で電力使用量が増え、一時、供給量の96%に達する厳しい状況に陥った。
 
 こうした経緯から、需給逼迫はより早く正確に予想できたのではないか。半日でも発表を前倒しできていれば、大口需要者である企業の出勤自粛や工場の操業停止、鉄道の間引き運転なども可能だったはずだ。
 
 今後の需給逼迫に備え、経産省や気象庁など関連省庁と各電力会社、節電を実施する民間企業との情報共有体制を強化しておくべきだ。医療機関など停電が絶対に許されない施設に対するきめ細かい指導・点検も、国と自治体が協力して早急に行ってほしい。
 
 火力発電を巡っては施設の老朽化に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて、燃料となる液化天然ガス(LNG)の深刻な不足が懸念されている。
 
 ただ、この状況が原発有用論を勢いづかせることは避けたい。
 
 ロシアの蛮行でチェルノブイリ原発の電源が一時的に喪失して原子炉の冷却ができなくなった。福島第一原発事故を経験した日本国民は、その深刻さを最も熟知しているからだ。
 
 一時的な逼迫を乗り切れば、火力や水力に各種再生エネルギーを組み合わせた複合的な発電と、官民を挙げた節電効果で必要な電力は十分まかなえる。電力需給の逼迫が安易な原発再稼働に直結せぬよう、くぎを刺しておきたい。 

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月23日  08:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り

2022-03-30 07:54:30 | 【財務省・財政予算健全化・基礎的収支・会計検査院・国債・国と地方の借金】

【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り 

 二〇二二年度予算が成立した。世界的な感染症のまん延と国際秩序の流動化に直面する激変の時代に、岸田内閣は国会審議を通じ、国民の安全と暮らしを守る責務を果たしたと言えるのか。危機の舵(かじ)取りに対する国民の審判は、夏の参院選で下る。
 
 一月十七日に召集された今国会で、野党側は新型コロナウイルス感染症の第六波やロシアによるウクライナ侵攻を中心に、岸田内閣の対応をただした。
 
 新規感染者数は減少傾向にあるもののピーク時に全国で十万人を超え、一月以降の感染死者数は第五波(昨年八〜十月)の約三千人から八千人超に増えた。
 
 まん延防止等重点措置も全面解除されたが、ワクチン追加接種の遅れや検査キットの不足など対応の不備も目立ち、岸田文雄首相=写真=が指導力を発揮したとは言い難い。予想される第七波への備えに万全を期すよう求めたい。
 
 対ロシア経済制裁を巡り、米欧と歩調を合わせるのは当然だが、日本としてより強いメッセージを出す必要があったのではないか。
 
 新年度予算に計上したロシアとの経済協力に関する事業費約二十一億円を、野党の修正要求にもかかわらず、そのまま成立させたことはロシアへの誤ったメッセージになりかねない。理解に苦しむ。
 
 背景にプーチン大統領と経済協力に合意した安倍晋三元首相への配慮があるのなら看過できない。
 
 覇権主義国家と対峙(たいじ)するには、民主主義の再生こそが重要だ。しかし、昨年の自民党総裁選で「民主主義の危機」を訴えた首相がその後、積極的に問題提起することはなく、国会で真剣に議論されることもなかった。
 
 看板政策の「新しい資本主義」も今なお具体像を結ばない。原油高の影響で物価上昇が続き、暮らしへの支援も十分とは言えない。首相が掲げる「成長と分配の好循環」には程遠い状況だ。
 
 参院選は七月十日とみられる投開票まであと百日余に迫る。自公政権に対抗する野党勢力の結集が進まず、政府・与党に緩みが生じているなら、首相が唱える「信頼と共感の政治」は実現できまい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月23日  08:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を

2022-03-30 07:54:16 | 【経済対策・物価対策、原油など資源価格の高騰・幅広い品目の値上げ、消費者物価】

【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:」【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を 

 政府・与党が新たな経済対策の策定に乗り出した。ロシアのウクライナ侵攻が続く中、物価の高騰は深刻化しており対策実施に異論はない。ただ夏の参院選目当てのばらまき策にならぬよう強くくぎを刺しておきたい。
 
 対策について政府・与党は二〇二二年度予算成立直後から取りまとめに入る。対策の柱は課税の一部停止によりガソリン価格を引き下げるトリガー条項の発動だ。
 
 資源大国ロシアの蛮行は原油高騰に拍車をかけている。石油元売りへの現状補助金を継続しただけでは不十分で発動は当然だ。
 
 エネルギー価格の高騰は流通全般に悪影響を及ぼし物価高の最大要因になっている。暮らしへの打撃はもちろん、中小企業や飲食などの商店にとっても致命傷になりかねない。
 
 条項発動には法改正が必要だ。早期の国会議決に向けた与野党の協力を求めたい。条項の対象はガソリンと軽油だけだが、暖房用の灯油、農業機械や漁船に使う重油も対象に含めるよう制度設計の変更も急いでほしい。
 
 為替市場における円安も物価高の要因になっている。輸入コストが上がるためだ。
 
 米連邦準備制度理事会(FRB)は米国内のインフレを防ぐため利上げを決定した。一方、日銀は十八日、大規模金融緩和の継続を決めた。景気の好循環が起きていない日本では、物価が上がっていても急激な景気後退を引き起こしかねない利上げは困難だ。
 
 だが日米の金利差拡大がさらなる円安要因となる恐れは強い。政府・日銀には、大規模な為替介入も視野に入れた万全の円安対策を準備するよう強く促したい。
 
 経済対策を巡っては年金生活者への五千円の給付金も検討されている。総額約一千億円の予算を使って一部の高齢層に五千円を配ることにどれだけの効果があるのか理解に苦しむ。選挙対策を念頭に置いたばらまきと批判されて当然だ。
 
 今必要なのは生活に苦しんでいる人々に的を絞った効果の高い施策だ。場当たり的な政策は直ちに撤回すべきである。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月22日  07:58:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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