【社説①】:民事裁判IT化 安心して託せる制度に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:民事裁判IT化 安心して託せる制度に
民事裁判をIT化するための民事訴訟法の改正要綱が、法制審議会から法相に答申された。
法務省は2025年度中の実施を目指している。
現行法は訴状を書面で裁判所に提出し、原告や被告、代理人の弁護士らが裁判所に出廷して主張を述べることを義務づけている。
打ち合わせや移動などにかかる手間や時間、出費は小さくない。
IT化でそういった手続きのほか、証人尋問や判決言い渡しもオンラインで可能になるという。当事者の負担が軽減され、裁判がより身近になると期待できる。
その一方で、IT機器に不慣れな人への対応や情報セキュリティー確保などの課題も残る。
利便性を高めながら、国民が壁を感じず安心して審判を託せる仕組みを構築していくのが大切だ。
民事裁判のIT化が遅れている日本はビジネスがしにくいと海外で指摘されていた。経済界の要望を受け、法制審は20年から見直しを議論してきた。
要綱によると、弁護士にオンラインでの書面提出を義務づけ、法廷でのやりとりはウェブ会議方式でも行えるようにする。裁判官は従来通り公開の法廷で審理を仕切り、市民は傍聴できる。
裁判所に出向かなくて済めば、道内のように往来に時間がかかる地域のメリットは大きい。
コロナ禍のように外出自粛が求められる事態に活用の道を広げることも可能だろう。
気がかりなのはITを使わない人が不利な扱いを受けないかだ。
裁判を受ける国民の権利が妨げられることがあってはならない。
弁護士がつかない訴訟では紙でのやりとりも引き続き認められる。裁判所はその周知を徹底し、親身な対応に努めてほしい。
裁判官は法廷で直接証人らの話を聞き、心証を形成している。そんな対面式の利点を審理に生かすべき局面もあるだろう。柔軟な訴訟指揮が裁判所に求められる。
裁判資料には個人情報や営業秘密が含まれる。要綱には言及がないが、漏えいなどを許さない安全なシステムの確立が不可欠だ。
IT化で裁判所が都市部に集約されるのではとの懸念も聞かれる。弁護士も減る司法過疎に地域が陥る事態は避けねばならない。
当事者が同意すれば審理を6カ月で終える仕組みも新設される。拙速な裁判にならないよう注意する必要がある。手続きが簡略化されても原告と被告の主張に十分耳を傾けるのが裁判の基本だ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月03日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。