【社説】:被買収議員の処分 金受け取った責任重い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:被買収議員の処分 金受け取った責任重い
有権者への裏切り行為を考えれば、むしろ遅すぎるくらいだ。2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、検察当局はきのう、河井克行元法相夫妻から現金を受け取った広島県議や広島市議らに公選法違反(被買収)罪で略式起訴する方針を伝えた。一部の議員に辞職の動きが相次いだ。
検察当局は当初の捜査で、現金を受け取った100人を不起訴処分にした。しかし、国民から選ばれた審査員による検察審査会が「公職に就いていたにもかかわらず、10万円以上の高額の金員を受領し、直後に返還するなどしておらず、辞職もしていない」として県議や市議ら35人を「起訴相当」と議決。風向きが変わった。
現金を配った克行元法相は、懲役3年の実刑が確定した。自民党公認で参院議員となった妻の案里氏も有罪が確定し、当選無効となった。2人が悪いとしても、金を受け取った側が一人も刑事責任を問われないのはおかしい。過去の処分と比べても整合性を欠いている。
検審は、再捜査を求める理由を「金員の受領が重大な違法行為であることを見失わせる恐れがある」とした。市民感覚に照らして、もっともだ。
今回の事件を、悪質な国会議員がたまたま近しい地方の政治家を巻き込んだ特異な事件だと捉えるべきではない。長年の金権体質が土台にあったからこそ、大規模に広がったのではなかろうか。
「普通のことだから」「儀礼的な贈呈はよくあった」。起訴相当とされた広島市議5人が2日の記者会見で繰り広げた主張は、普段から現金のやりとりが絶えない政治土壌をあぶり出した。買収資金とは認めず、揚げ句は「みじんの罪悪感もなかった」と言い放った。
やはり政治家間の現金のやりとりを厳しく制限する策が必要である。政治資金規正法は「陣中見舞い」「当選祝い」などの名目でも寄付行為として認めてきた。だから買収ではないと言い訳ができてしまう。事件に照らせば、「票のとりまとめ」「選挙応援」のためと両者が内心知りながら授受を正当化する根拠にすら見える。
「政治とカネ」を巡る事件で公職にある者への検察の対応も問われている。検察当局に裁量があるにしても、一つ一つの内容に照らし処分を決めるのが筋だろう。検審の議決は「1万円に満たない金額で起訴されている事案もある。はるかに上回る10万円以上の受領額は高額だ」と指摘している。
200万円を受け取った議員もいるが、不起訴や略式起訴という結論になるのであれば、何か事情でもあるのかと勘ぐられかねない。
検審が今回、起訴相当か不起訴相当かを決めた基準の方がよほど分かりやすい。受け取った現金の多寡、その金の返還や寄付の有無や時期を考慮した。事件当時に公職に就いていたか否かや、その後の辞職の有無も判断に入れており、市民感覚に沿っているのでないか。
国民が納得できる結論をどう導くかが検察に突きつけられた。市民感覚との距離を縮めなければ、「政治とカネ」の問題は繰り返され、有権者の政治不信は募るばかりだ。議員が辞職すれば済む話ではない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月10日 06:04:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。