《社説②》:日野自動車の検査不正 問われる業界の規範意識
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:日野自動車の検査不正 問われる業界の規範意識
また自動車業界で検査不正が発覚した。今回は商用車大手の日野自動車である。
排ガスを制御するシステムの試験中に浄化装置を交換し、長期間走行しても国の基準を満たす性能があると偽った。機器の設定を操作して燃費も水増ししていた。
こうした手法で国の認証を得たエンジンは、11万5000台を超えるトラックやバスに搭載されている。
燃費などの目標や開発日程を厳守するよう、現場に強い圧力がかかっていたことが一因という。第三者委員会で徹底調査し、責任の所在を明確にする必要がある。
2016年に燃費不正が発覚した三菱自では、エンジンの性能試験を行う部署が燃費目標達成の責任まで負わされていた。人員不足から客観的で十分な検査を行う体制も整っておらず、性能をかさ上げするために不正に走った。
当時、自動車各社に調査を指示した国土交通省に対し、日野自は「問題はない」と回答していた。しかし、今回の不正は三菱自の問題発覚後に行われたもので、構図も酷似している。「他山の石」としなかった経営陣の責任は重い。
検査や品質管理の担当者に第一に求められるのは公正さである。短期的には収益に響く結果であっても、上司や経営陣に直言するのが本来の役割だ。
こうした機能がないがしろにされるようでは、環境や安全を軽んじていると見られても仕方がない。法令や社内規則などの規範を守る意識が行き渡っているのか、業界全体で改めて検証すべきだ。
従業員の問題意識をすくい上げる仕組みの強化も不可欠だ。
6月には内部告発を促す法律が見直される。一定規模以上の企業に内部通報体制の整備を義務付け、窓口の職員に守秘義務を課して告発した人を保護する。実効性のある取り組みが求められる。
自動車の環境規制が強化され、電化技術や燃費性能が競争力を決定付ける時代になった。技術的な課題を不正で覆い隠すようでは、消費者の信頼を失うだけだ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月16日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。