【社説】:西宮市長選/「住みやすい街」へ手腕を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:西宮市長選/「住みやすい街」へ手腕を
西宮市長選で現職の石井登志郎氏が再選を果たした。大阪府外で初となる公認首長を狙った日本維新の会新人の元県議と、無所属新人の元県議を退けた。
西宮市では、石井氏の前の市長2人がいずれも1期で退任した。有権者は新型コロナウイルス禍での安定した市政運営を求めたと言える。
石井氏は「市民派」を掲げ、どの政党にも推薦を求めなかった。しかし、夏の参院選と来春の統一地方選を控え、維新の勢いに危機感を抱く自民党や立憲民主党などの与野党が事実上の相乗りで支援した。
西宮市は、昨年4月時点の待機児童数が182人と全国ワースト1位だった。石井氏は保育所を増設するなどして、待機児童を「ほぼ解消させた」と強調した。
「住みたい街ランキング関西版」で1位を続けるなど、西宮は住宅地として高い人気を誇る。長年続く待機児童の問題は、市の負の側面とも言える。石井氏は所得制限をせずに18歳以下の医療費を無償化するなど、子育てや女性の社会進出支援の充実を公約に掲げた。「住みたい街」から「住みやすい街」へ、今後も保育需要の受け皿づくりなど、懸案の解決に取り組んでもらいたい。
財政健全化や行政改革など課題は山積しているが、政策論争は深まらなかった。投票率は前回を上回ったものの、41・28%と低調だった。政策実現には市政への関心を高め、市民の理解を得る努力が欠かせない。
維新は昨秋の衆院選で議席を伸ばし、国政での存在感を増した。兵庫県内の小選挙区でも擁立した9人が比例復活を含めて全員当選した。
昨年7月の知事選では、自民と共に推薦した斎藤元彦氏が初当選したが、過去に3度、公認候補を立てた市長選ではいずれも敗れている。今回の西宮市長選は、党の勢いが本物かどうかを見極める正念場だった。松井一郎代表(大阪市長)や吉村洋文副代表(大阪府知事)も現地入りしたが、及ばなかった。
維新は大阪市内で開いた党大会で、参院選で改選6議席を倍増させ、統一地方選では全国の地方議員を600人以上に増やすなどの活動方針を決めた。全国政党を目指すのであれば、市民の共感を得られるよう、丁寧な対話を重視し、地域での足場を固めるのが先ではないか。
年内には尼崎、川西でも市長選がある。維新は尼崎市長選に公認候補を擁立する方針を示しており、川西市長選や来年の芦屋市長選での対応も注目される。石井氏の街頭演説に尼崎、芦屋、宝塚、川西の4市長が集まる異例の光景が見られたが、維新への対抗意識にとどまらず、政策面の連携強化を図るべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月29日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。