【決別 金権政治】:「河井事件」問うものは 識者3人インタビュー
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【決別 金権政治】:「河井事件」問うものは 識者3人インタビュー
河井克行元法相と妻の案里元参院議員による大規模買収事件は、夫妻の有罪に加え、被買収者として公選法違反罪で略式起訴された地方議員らの有罪が確定した。在宅起訴された地方議員ら12人の審理が残っているものの、検察の捜査は終了した。前代未聞の事件は私たちに何を問い掛けているのか。識者3人にオンラインでインタビューした。(編集委員・荒木紀貴) ⇨【クリック】河井克行元法相夫妻による大規模買収事件
1.東京大大学院教授(現代日本政治論) 谷口将紀氏
2.元広島地検特別刑事部長の弁護士 郷原信郎氏
3.政治ジャーナリスト 田崎史郎氏
4.記者の目
■「金配るのは当然」時代錯誤 東京大大学院教授(現代日本政治論) 谷口将紀氏
―今回の事件から何を学ぶべきだと思いますか。
谷口将紀氏
あまりに古典的な腐敗選挙。平成でも時代遅れだったのに、令和でもこれをやったかという印象だ。広島県の政治家に話を聞くと、「選挙のときに金を配るのは当たり前」と裏でよく言っていたが、とんでもない時代錯誤。よくよく広島県の政治家は肝に銘じる必要がある。
―河井夫妻の有罪判決の意義をどうみていますか。
参院選公示の3カ月前に現金の授受があり、その後に広島市議選や県議選があった。「市議選や県議選の陣中見舞いだ」と言い逃れされそうだが、言い逃れを認めず、参院選の買収と認定した。今後に対する警告効果はとても大きい。
今夏に参院選、来春に統一地方選がある。広島県政界に自浄能力がないのなら県民の良識と1票で政界の非常識を正してほしい。
―現行制度では、政党支部などを通じて国会議員が選挙区内の地方議員に寄付できます。広島に限った問題ではないと思いますが。
領収書を交わして政治資金収支報告書に記載するのがルールだが、克行氏は現金を渡す際、「領収書はいらない」と言っていた。最初から裏でやろうと言っていた。合法的にやろうと考えてお金を地方議員に流すこととは天地ほど違う。
リクルート事件に端を発した1990年代の政治改革で、政治にカネがかかるというのであれば、何に対してかかったかを国民にさらしてガラス張りの中で使うという制度になっている。制度の趣旨にかなった使い方をすることが大事だ。
―収支報告書に記載された寄付であっても、買収目的のものが交じっている可能性もあります。法改正で禁止した方がいいのでは。
政党の在り方を国が規制していいのか。結社の自由に関わる。慎重に考えないといけない。
―収支報告書に買収に当たる疑いのある寄付が記載されていた場合、個別に捜査当局が取り締まればいいということですか。
克行氏の判決では、被告側が「党勢拡張費用」と主張した現金の授受が、広く買収目的と認定された。この点では検察は買収罪に問いやすくなった側面があるかもしれない。地方政界への影響力を考えると、地方のジャーナリズムへの期待も極めて大きい。
―中国新聞の取材では、安倍政権中枢から裏金が河井夫妻側に提供され、買収の原資になった疑いがあります。
あり得る話だ。首相官邸には官房機密費がある。国の情報収集活動を考えると全部を明らかにしろというのは極論だし、法規制になじむ話ではないので、よくよく自戒して使うべきだ。
政党から政治家個人に渡したきりになっている政策活動費や組織活動費は使途を必ずしも明らかにしなくていいので、事実上、党側の裏金の原資として使われている。国会議員に月100万円支給される「文書通信交通滞在費」も同様で、裏金の原資になる可能性がある。政治不信を招かないためにも透明性を向上させる必要がある。粘り強く言い続けなければならない。
■たにぐち・まさき
93年4月から東京大大学院法学政治学研究科に助手として勤務。助教授、准教授を経て09年から教授。51歳。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【決別 金権政治】 2022年04月20日 07:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。