【社説】:円安一時130円台 日本経済への不信認だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:円安一時130円台 日本経済への不信認だ
外国為替市場で先週末、一時1ドル=131円台まで円安が進んだ。2002年4月以来、20年ぶりの水準である。円はドルに対してこの2カ月で約15円も価値を下げてしまった。
米国をはじめ、各国は日本とは違い、物価高抑制のための利上げ基調を強めている。低金利が続く円が売られる流れがさらに強まる可能性が高い。そうなれば輸入品は一層高騰し、国内物価の上昇は続くことになる。庶民の暮らしを考えると、円安はもはや放置できない水準になっている。
今の円安は日本経済に対する国内外の市場による不信認の表れだろう。政府・日銀は従来の異次元緩和のままでいいか再考し、政策修正を含めた手段を用意する必要がある。
民間の試算では、円安がこのまま続けば全家計の負担増が年6万円になるという。日本商工会議所も中小企業の半数以上が円安で打撃を受けているとし、その半数はコスト上昇分を価格へ転嫁もできないという調査結果を明らかにした。日銀自身も22年度の国内消費者物価見通しを0・8ポイントも引き上げ、前年度比1・9%増に改めた。
にもかかわらず、日銀が円安を加速させるような動きを強めていることは理解に苦しむ。特に4月28日には異次元緩和の継続とともに、金利を指定して10年物国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を毎営業日に実施すると発表した。
日銀が円安を容認し、低金利政策を続けると市場が受け止めたため、日本売りに拍車がかかったのは間違いない。ドルに対して前日比で一時3円近くも暴落したのがその証拠だろう。
それでも日銀の黒田東彦総裁は、記者会見で過度の変動には警戒しつつも「円安は全体として日本経済にプラス」という従来の見解は変えなかった。
その「全体」とは何なのか。輸出型の大企業が得る恩恵と、物価高による庶民や中小企業の苦痛をてんびんにかけているとすればとても認められない。
安倍政権に始まる政府・日銀の異次元緩和は、確かに株高につながった。円安も当初は企業収益の改善をもたらした。
だが最近は国債の大量発行で財政規律が緩むなど副作用の方が目立つ。緩和策の出口戦略すら描けない袋小路に入りこみ、当初は歓迎された円安も行き過ぎた水準になってしまった。
異次元緩和を続ける中で、求められたのは日本経済の潜在的な成長力の強化である。これを高め、賃上げや国際競争力の強化につなげる必要があった。それがどこまで実現できたのか。
13年に就任した黒田総裁は「2%の物価上昇を、2年で達成する」とした。しかし現在の物価高は主にコスト増によるもので、経済成長に伴うわけではないことを忘れてはなるまい。
大統領が低金利政策にこだわり、通貨リラが大暴落して壊滅的なインフレに見舞われているトルコのような国もある。
利上げすれば大量発行した国債の利払いで日銀の経営は厳しくなることは否めない。だからといって異次元緩和をいつまでも続けることは無責任だろう。
1ドル=150円を超す円安を危ぶむ専門家もいる。政府・日銀は円安をもっと深刻に受け止めるべきだ。そうでなくては市場の信認はとても得られない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年05月02日 06:15:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。