【社説①】:ロシアと欧米 破局回避へ意思疎通を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ロシアと欧米 破局回避へ意思疎通を
ウクライナが欧米の全面的な軍事支援を得てロシアと戦う構図は、欧米とロシアの代理戦争にほかならない。双方が直接軍事衝突する事態に発展しないよう、意思疎通を絶やしてはならない。
九日の対ナチス・ドイツ戦勝記念日に行われたロシアの軍事パレードで、プーチン大統領はウクライナへの侵攻を「ネオナチらとの衝突は避けられなかった」と正当化した。
ロシアで「大祖国戦争」と呼ばれる対独戦で、旧ソ連は二千七百万人ともいわれる犠牲を払って勝った。これこそが世代を超えて受け継がれるロシアの栄光であり、誇りである。戦勝記念日は特別な意味を持っている。
プーチン氏はその対独戦と重ねることによって、ウクライナの「非ナチ化」を掲げる侵略戦争への支持をあらためて国民に求めたのだろう。
だが、無差別攻撃や民間人虐殺という戦争犯罪を重ねるロシア軍の残虐ぶりこそがナチス再来を思わせる。
プーチン氏の目算とは違って戦局は膠着(こうちゃく)している。一方で人道危機は深まるばかりだ。ロシアには停戦・撤退へ転じるよう重ねて要求する。
欧米による軍事支援は当初、ウクライナの防衛が目的だったが、長距離砲や戦車など攻撃力の高い兵器に供与範囲は広がった。
欧米の政府高官の発言も攻撃的になっている。
オースティン米国防長官は軍事支援をめぐって「ロシアの弱体化を望む」と語った。英国の国防担当閣外相はウクライナがロシア軍の補給線をたたくためにロシア国内を攻撃することを「完全に正当だ」と述べた。
プーチン氏は欧米の軍事支援にいら立ち、核兵器の使用も辞さない姿勢を見せて威嚇する。
追い込まれたプーチン氏が実際に核使用に踏み切れば、欧米も看過するわけにはいかない。望んでもいない軍事介入に引きずり込まれる可能性もでてくる。
ロシアのラブロフ外相が第三次世界大戦が起きる可能性は「十分にある」と警告したように、相手を追い詰めれば破局につながりかねない。
双方ともこのことをよく認識し、相手の意図を誤解しないよう対話のチャンネルを維持する必要がある。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年05月11日 06:54:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。