【社説・01.12】:WHO神戸/誘致の成果を総括せねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.12】:WHO神戸/誘致の成果を総括せねば
兵庫県と神戸市、経済界が誘致し、阪神・淡路大震災の復興事業にも位置付けられた世界保健機関(WHO)神戸センターが岐路に立たされている。地元にメリットが見えないとして、官民の支援打ち切りを求める声が上がっているからだ。
神戸センターは国内初のWHO直轄研究機関として1996年に開設。98年4月には神戸市の東部新都心(HAT神戸)にオフィスを構え、災害医療や保健などの研究拠点となった。
見逃せないのは、国の継続的な財政支援がなく、運営費用の全額を地元が負担してきた点だ。震災30年の節目にWHOは活動実績を改めて説明するとともに、地元の官民も想定通りに誘致の成果を挙げたのかをしっかり総括してほしい。
センター誘致は、臨海部に広がる工場跡地の再開発の要として官民が震災前から力を注いできた。現在、経済界が無償供与した1200平方メートルの事務所で職員13人が研究などに携わる。
地震と健康についての国際会議や災害医療の世界的な研究指針の策定などを手がけたほか、市や神戸大と市民8万人分のデータを基に6年かけて認知症予防の研究に取り組んできた。
ただそうした活動や神戸センターの存在が、県民に十分に伝わっているとは言い難い。
県が拠出する運営費は年間200万ドル、神戸市が100万ドルに上るほか、民間分も含めたこれまでの支援は総額約160億円に達する。
地元官民との支援契約は10年ごとの更新で来年3月末に期限が切れるが、県は打ち切りも含めた支援見直しの方針を示しており、WHO撤退も現実味を帯びる局面だ。
WHOは当初、高齢化と都市化に対応した健康政策を神戸センターの研究テーマの一つに掲げていた。県市や経済界は2015年、「被災地に立地するメリットを生かし世界に発信できるような研究を」と要望しているが、地域特性に即したテーマを提案するなど、もっと主体的に動くこともできた。
誘致には熱心でも、その後に誘致のメリットを地域にもたらすための努力をどれだけ重ねたのか。その点を、県市や経済界は真摯(しんし)に省みる必要がある。
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月12日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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