【社説・11.27】:石破外交/日本の存在感を示さねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.27】:石破外交/日本の存在感を示さねば
石破茂首相が、ペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議とブラジル開催の20カ国・地域(G20)首脳会議に相次いで参加した。首相としての本格的な外交デビューである。
ロシアによるウクライナ侵攻は長期化し、中国は強権姿勢を改めようとしない。来年1月のトランプ政権発足で米国は再び内向き姿勢に転じるのではとの懸念も重なり、国際社会に暗雲が垂れ込める。
日本の立ち位置はこれまで以上に問われる。力ばかりに依存するのではなく、法の支配と民主主義を重視する価値観に基づいて存在感を示し、多国間の連携強化をリードする外交が求められる。
首相はAPEC開催中の15日、中国の習近平国家主席との初会談に臨んだ。福島第1原発の処理水放出を巡り、中国による日本産水産物の輸入再開合意を「きちんと実施する」と両首脳が確認したほか、首相が要請した邦人の安全確保について習主席は「日本人を含む全ての外国人の安全を確保する」と明言した。首相は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、中国で拘束中の邦人の早期釈放も求めた。
会談は中国側が申し入れた。従来に比べ踏み込んだ文言は、日本との関係改善を意識したゆえだろう。
ただそれが、石破外交の成果とは言い難い。関税強化や半導体規制など対中強硬策を掲げるトランプ政権発足を前に、米国と同盟関係にある日本と距離を縮めておこうとの狙いが透けて見えるからだ。
G20首脳宣言は物足りない内容に終わった。保護主義への反対姿勢を明確に示さず、ロシアを名指しする批判も避けた。トランプ氏だけでなく、ロシアのプーチン大統領への忖度(そんたく)もにじむ。
かつてのリーマン・ショックを契機に、先進国や新興国が結束して国際社会の課題解決に取り組むのがG20の理念だった。しかし今回は2日間の日程でありながら初日に首脳宣言が公表されており、議論を積み重ねた結果とは受け取れない。形ばかりの会合を繰り返すのでは、求心力を高めるのは到底難しいのではないか。首相が積極的に各国首脳と言葉を交わす様子も見られなかった。
アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設や日米協定見直しなど、首相が掲げる外交政策は実現性に乏しいとも指摘される。国益を踏まえつつ、できるだけ多くの国々が賛同するビジョンを示すことが重要だ。
首相が南米からの帰途に模索したトランプ氏との会談は実現しなかった。トップ同士の信頼構築は重要だが、その前に緻密な外交戦略を練り上げることが不可欠である。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月27日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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