【社説・12.19】:【次期エネ計画】難題先送りの原発回帰だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.19】:【次期エネ計画】難題先送りの原発回帰だ
過酷な原発事故の教訓はどこへ行ったのか。
経済産業省が中長期的なエネルギー政策の指針「エネルギー基本計画」の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故以降に明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除した。原発の建て替えの要件も緩和する。
事故の被害は今なお続いている。原発回帰に当たって本格的な国会論戦や国民を巻き込んだ議論もなかった。方針転換は容認できない。
基本計画はおおむね3年ごとに見直されている。今回の改定の焦点は、40年度の電源構成と原発の位置付けだった。
現行計画は21年に策定された。原発を「重要なベースロード電源」と位置付けつつ「可能な限り依存度を低減する」として、再生可能エネルギーの主力電源化を強調。30年度の原発の電源構成目標を20~22%と設定した。
一方、次期計画は「優れた安定供給性と技術自給率を有する脱炭素電源」とし、再エネとともに「最大限活用する」との方針を明記。原発の40年度目標は2割程度とした。
原発の目標割合は現行計画とほぼ変わらない。ただ、23年度の実際の割合は1割に満たない。目標の実現には既存原発の大半を再稼働させる必要があるが、中には老朽化した原発もある。
そこで、原発の一定規模の維持につながる建て替え方針も盛り込まれた。これまで廃炉が決まった同じ原発の敷地内に限定していたが、同じ電力会社なら別の原発内でも建設できるようにする。
原発事故以来、原発の依存度低減を掲げていた政府の方針転換となったのは、岸田政権下の22年に決めた「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」だ。エネルギー安全保障の問題や地球温暖化対策を背景に、60年超の原発の運転を可能にする法改正を実現し、次世代型建設も打ち出した。
石破茂首相は先の自民党総裁選では「原発をゼロに近づけていく努力は最大限する」と主張していたが、首相就任後はトーンダウン。岸田政権が掲げた最大限の活用を踏襲し、原発の利活用を明言している。連立与党の公明党も「将来的に原発に依存しない社会」と訴えるが、容認に転じた。
経済界などの要請を受け原発推進の流れが強まる一方、新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が政府の期待通りに進まないように、地元住民の不信感は根強い。事故から14年近くたつ今も福島原発の廃炉は見通せず、避難生活を余儀なくされている人々がいる。
さらに使用済み核燃料の問題も抱える。各地の原発で再稼働が進んだ結果、増え続けて保管場所が不足している。高レベル放射性廃棄物の最終処分先の確保も道筋が見えない。
山積する難題を先送りしたままの原発回帰だ。課題に正面から向き合わなければ、国民の理解を得るのは難しいだろう。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月19日 05:00:00 これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。
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