【社説②】:ダム破壊 甚大な被害招く暴挙だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ダム破壊 甚大な被害招く暴挙だ
ウクライナ南部のドニエプル川にある巨大ダムが破壊され、決壊した。洪水に襲われた流域では住民の避難が続いている。ダムへの攻撃は戦争犯罪に当たる。許し難い暴挙だ。
ウクライナ、ロシアとも相手の破壊工作だ、と非難合戦を繰り広げている。浸水は左岸のロシアの占領地域にも及ぶ。占領地域の奪還を目指すウクライナが、わざわざ自軍の進軍を困難にする行動に出るとは考えにくい。
ダムは約百六十キロ上流にあるザポロジエ原発に冷却水を供給している。六基の原子炉を擁する欧州最大級の原発の冷却システムが機能不全に陥れば、福島第一原発のような炉心溶融につながる。
国際原子力機関(IAEA)によると、幸い原発には代替の水源があるので、今のところは差し迫った危険はないという。
戦時の民間人保護を定める国際人道法「ジュネーブ条約」は「危険な力を内蔵する工作物」であるダムや堤防、原発への攻撃を禁じている。破壊されれば極めて重大な被害を及ぼすからだ。ダム決壊による浸水も広範囲に及ぶ。人命や農作物、環境への被害、影響が気掛かりだ。
ロシアは今もザポロジエ原発の占拠を続ける。ウクライナの反攻が本格化すれば原発周辺で戦闘が激化することも予想される。
IAEAのグロッシ事務局長は事故防止に向け、原発攻撃の禁止や外部電源確保などの五原則を示し、ロシアとウクライナに順守を求めている。この原則は尊重されなければならない。
この戦争ではロシアの非人道的な行為が目に余る。民間人虐殺、学校や病院など民間施設への無差別攻撃、さらに大勢の子どもたちの連れ去りと残酷極まりない。
国際刑事裁判所(ICC)は子どもの拉致事件をめぐり戦争犯罪の疑いでプーチン大統領に逮捕状を出している。
ダム決壊がロシア側の責任なら蛮行をさらに重ねたことになる。膠着(こうちゃく)状態だった戦況は再び戦火が拡大している。多くの人命が失われる。ロシアは即座に戦闘行為を停止し、撤退すべきである。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月08日 07:42:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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