【社説①】:成人の日に考える 「転換点」に立つ人たちへ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:成人の日に考える 「転換点」に立つ人たちへ
「今教えている学生は、みなさん2000年以降に生まれていて、気候変動を実感できない世代なんだと思います。生まれた時からこんなふうに暑かったから、これが当たり前、ニューノーマル(新しい日常)なんですよ」
地球温暖化対策を訴えるドキュメンタリー映画「Wende(ヴェンデ)2」(23年公開、高垣博也監督)=写真(上)=の冒頭に近いワンシーン。「主演」を務める東海学園大学教授、名古屋大学特任教授(環境政策)の杉山範子さんが、戸惑いながら語っています。「Wende」とは「転換点」という意味のドイツ語です。
杉山さんは、大学で気象学を修めて日本気象協会に就職し、名古屋のテレビ局で気象キャスターを務めた後、大学院で学び直して、研究者の道に進んだ人。毎日、天気図を読み解いているうちに「異常気象の常態化」に危機感を深めたことが「転換点」になりました。「伝えることも大事だけれど、温暖化にあらがうための仕組みを作ってみたい」と志したのです。
猛暑が「ニューノーマル」になってしまった状態からの脱却、そして、世界の二酸化炭素(CO2)排出量の大半を占める化石燃料ベースの社会から再生可能エネルギーベースの社会への転換が「Wende2」のテーマです。
「化石燃料か再エネか。現在の私たちの選択が未来のエネルギー消費を決めることになる。未来を決めてしまうんです」と杉山さんは訴えます。
◆当たり前にはできない
去年の猛暑は格別でした。12月になっても各地で夏日を記録して、日本は「二季の国」になりつつあるという声も上がっています。
もちろん、日本だけのことではありません。世界気象機関(WMO)によると、昨年の世界の平均気温は、産業革命前に比べて1・4度上昇し、観測史上、最も暑い一年になりそうです。世界中を異常気象が覆っています。
国際社会は科学的根拠に基づいて、産業革命前からの温度上昇を1・5度以内に抑えることを目標にしています。
そのためには50年までにCO2の排出を実質ゼロにしなければなりません。1・5度というのは、ここまでに抑えれば、人間がなんとか適応できるとされる限界値。
しかし、国連環境計画(UNEP)は、従来の対策だけにとどまれば、今世紀のうちに約3度まで上昇してしまうというシナリオを描いています。そうなれば何が起きるかわかりません。
このような状態を「当たり前」「ニューノーマル」と、見過ごすわけにいきません。気候危機を切り抜けるには大転換が必要です。
きょう成人の日。子どもから大人への転換点。「大人とは、例えば『来し方』を振り返り、『行く末』を見通すことができる人ではないのでしょうか」と、杉山さんは考えます。
新成人のみなさん、思い描いてみてください。みなさんは、どんな未来に住みたいですか、住みたい未来にするために、何を選べばいいのでしょうか。
「のび太くん、未来は変えられるんだ」。ドラえもんの決めぜりふ。みなさんの選択次第で未来はきっとよい方向に変えられます。
さて、今年も書家でタレントの矢野きよ実さんに、贈る言葉をしたためていただきました。今年は「走れ」=同(下)。
「休むことはおばあちゃんになってもできる。今は走れ」。
みなさんと同じ年のころ、タレント業の忙しさに疲れ果て、「もう、やめる」と言う矢野さんを奮い立たせたカメラマンの言葉から。実物は縦120センチ、横110センチの大作です。
◆あしたに向かって走れ
頻発し激化する異常気象や戦争だけではありません。元日早々の大地震、炎上する航空機…。先の見えない世の中です。けれどこんなご時世だからこそ「自分のペースでいいから走れ」と、立ちすくむ人の背中をやさしく押してあげられる、そんな大人であってほしいとの願いも込めて。
ドラえもんは、こんなふうにも言っています。
「だいじょうぶ。未来は元気だよ」
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年01月08日 07:53:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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