【社説】:①FRB利上げ 新興国への副作用に目配りを
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①FRB利上げ 新興国への副作用に目配りを
世界経済を牽引(けんいん)する米国は堅調な成長を持続できるか。米国の金融当局は、より丁寧に政策運営を進めていくべきだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)が連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、今年3回目となる利上げを決めた。
米国では、大型減税の効果などで成長率が4%台の高い伸びを示している。物価上昇率はFRBが目標とする2%に達し、失業率も歴史的な低水準にある。
景気の過熱やインフレを防ぐため、FRBが追加利上げに踏み切ったのは、適切な判断だろう。
政策金利は2%を超え、リーマン・ショックが発生した2008年以来、約10年ぶりの水準に回復した。金融政策の正常化は着実に進んでおり、利上げは米経済の力強さを改めて示したと言える。
FOMCは今後も景気が拡大するとして、年内にあと1回、来年に3回の利上げを想定した。
ただ、今後の金融政策には慎重さが求められる。まず警戒すべきは、利上げで新興国からの資金流出に拍車がかかるリスクだ。
経済基盤の脆弱(ぜいじゃく)なアルゼンチンやトルコなどでは、すでに激しい通貨安が起きている。利上げが続けば、世界の投資資金が、高い金利収益を見込める米ドルでの運用にさらに向かうことになろう。
急激な通貨の下落は、新興国に深刻な物価高や景気減速を招きかねない。FRBは政策決定に際して、新興国に及ぼす副作用に一段と目配りすることが大切だ。
「市場との対話」に万全を期し、金融政策の方向性を十分に織り込ませることも欠かせまい。
トランプ政権の通商政策も不安の種だ。米国は、中国からの輸入品2500億ドル相当(約28兆円)に制裁関税を課している。
制裁が長期化すれば、高関税による物価上昇などで米国の消費者や企業の負担は大きくなり、景気を下押しする恐れが高まる。
FRBは、保護主義政策が自国の経済に与える悪影響を的確に分析していくことが重要になる。
利上げで日米の金利差が拡大すれば、円安・ドル高が進みやすくなる。日本からの輸出を促進する効果が望める一方で、原油などの輸入価格が高騰し、企業や家計の重しとなる懸念も指摘される。
FOMCは今回、2020年に利上げを停止する可能性を示唆した。将来、市場が利上げの終了を意識し始めると逆に円高・ドル安に相場は振れやすくなる。
日銀は、FRBの舵(かじ)取りを一層注視していかねばならない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年09月30日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。